報酬の使い道

 バスケットボール大の仙石シィェンシーを丸呑みするなんて事態にはならず、仙石に額を付けて、心静かに瞑想して仙力シィェンリーを吸い取り、補充することで落着した。

 貯まった仙力で【神技シェンジー瞬歩シュンブー】を使って、時間内に帰ることが出来た。



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精霊ジンリンリウ様! タイチ様! お帰りなさい!! どうでしたか!!?」


 今か今かと待っていたのであろう依頼者の兎の獣人の青年が、虚空から現れた俺達に駆けよってくる。

 リウに預けておいた”満月草マンユェツァォ”を、貴重な壊れ物を、赤子を受け取るようにうやうやしく手に取る。


「こ、これは、まさしく”満月草”。……ありがとうございます。これで、母は、助かります。なんと、お礼をすれば良いか……」


 感激する青年から、青龍チンロンの【神技】の媒介である”鱗”が浮かび上がり、俺の中へと吸い込まれる。

 ほとんど使い果たしたと思われる俺の仙力が、大幅に補充されたのを感覚的に感じた。



「最近では珍しく、我が主、青龍様に適したモノ探しの”願い”だったので、仙力を無駄にしないように短絡的なことしか叶えなかったんです。それが今回の失敗でも有るんですが。その余りが、今にも消えそうなタイチさんのになったこと。それは嬉しいです」


 母の薬の調合の為に、足早に去りながらも、何度も振り返り、頭を下げ続ける青年に手を振りながら、今回の件を思い返すリウの言葉。

 何処に生えているか分からない”満月草”の場所を告げるより、その近くを通る心優しき信頼に足る人物を告げることの方が複雑で、難しいことなのは確かだ。

 俺の仙力の上限が増える訳では無いが、使い終わった媒介でも余りで回復できるのは発見だった。



「確かに達成を確認いたしました。報酬の大銅貨1枚と、疫鬼イー・グゥイまだら蜂蛇フォンシェ゛ァの素材の買い取り額です。お確かめください」


 色んな用途の有る仙石が無いせいで、かなり減額されてしまっているが、それでも結構な額になった報酬を手に、受付を後にする。



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「何してるんですか!!? タイチさん!! 嗜好品そんなモノなんか買って! 無駄遣いです! 生活に必要なものだけ買ってください!!!」


「コレは必要だ! 俺は仕事が終わったら、美味いメシとタバコを一服と決めているんだ! この世界でも、その習慣ルーティンを変える気は無い!!!」


「る? は? るぅてえん? 何ですか、ソレは! 贅沢は敵ですよ! まったく!!」


 失敗で、しおらしくなっていたが、リウは口うるさいほうが、と思った。

 美味いメシに関しては、生前でも数えるくらいしか記憶に無いが、タバコだけは俺を裏切らない!



「美味しい、ご飯。……ううぅぅう、オヤツ」


 ガンちゃんの腹の音で、俺も、この世界で何も食べていないことを思い出す。


「日没寸前で、暗くなってきましたからね。何か食べることにしましょうか。……間に合ったかな……」


「そうだな。せっかくだ。初めての報酬、肉まん1個大銅貨1枚の依頼。それにあやかって、今日は肉まんにしようじゃないか」


「うううぅ、オヤツ。肉まんで誤魔化す気なら、前に白虎パイフー様にされた極上のヤツじゃないと、僕は納得しないんだからね! タイチ様!!」


 青年のことを気にしているが、あそこから先は、俺達の領分ではないので切り替えて話題を変えることにした。






「美味しい、美味しい肉まんだよ~~! 採れたて新鮮! ”森豚セントゥン”の肉を使った逸品だよ~~!! 美味しいよ~~!!」


 肉まんにしようと決めた時に、タイミング良く漂ってくる旨そうな匂いと、聞こえてきたツァンの声。


「奇遇だな。顔を出すと約束したツァンの店が、中華まん屋だったとは。行くか」


「タイチさん、待ってください。あの、お店は


 俺の服を引っ張って、リウが肉まんを買うのを止めようとする。


「何故だ? リウ。約束もしたし、ちょうど肉まんの気分だったじゃないか」


「周りを見てください。また、傭兵受付の時のような問題を起こす気ですか? 問題を起こし過ぎると、この街に居られなくなりますよ」



「”グゥイ”の作るものなど食えるか」「何が入っているか、分かったもんじゃない」「人肉でも入っているのだろう」


 夕暮れ時、街も仕事帰りの者達、買い物客達で溢れかえっているが、ツァンの店先だけがだった。

 面と向かって言う度胸も無く、聞こえないように小声で話してはいるが、身体能力の高いツァンには、しっかりとのだろう。

 などという不穏な言葉が出る度に、言葉に詰まり、目にかすかに涙を浮かべながらも、明るく気丈に呼び込みをしていた。



「……腹が減ったな。、何か食べないと死にそうだ」


「あ!!? タイチさん!??」


 リウを振り払って、ツァンの店に向かって歩き出す。


シャオ・リウ。いい加減、学びなよ。タイチ様は、なんだって。ま、そこが良いと、僕は思うけどね」



 ーーーーーー



「肉まん1つ、貰おうか。ツァン」


「あ!? タイチちゃん!?? !??」


 別れる際に軽口を叩いていたが、本当に俺が来店するとは思っていなかったであろうツァンが、目を丸くするほどに驚いていた。


「微々たる報酬だが、正真正銘。自分自身で稼いできた報酬で、肉まんを1つ貰いに来たぞ」


 この世界に骨をうずめるにあたって、最初の報酬での最初の食事が、ツァンの料理で良かったのだと思う。






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