この世界に無いモノ

「何も言わないんですか? 迷い人ミィーレェンさん。今回の件について……」


「何のことだか分からないな。リウ」


 何を言いたいのか、のか分かっているが、知らないフリをする。


「私が、もっと上手く媒介を使っていれば、こんな無駄手間なんか……」


「叱る気も、怒る気も無い。変な話だが、そういう神や精霊の配慮が足りない部分が有るおかげで、俺は生かされている。俺が、何か言える立場ではないからな」


 本人が、すでに反省しているのを叱るのは、のすることではない。

 そのおかげで生かされているので、上手く出来るように教育、指導するのもオカシイのだ。



「こういうのが俺の、今のだ。教える気は無いが、要領を盗むのは自由。優秀なら、優秀になりたいなら、盗んでみることだな」


「ーーっ!! 見ててくださいね! 迷い人さん! 私は優秀なので、すぐに迷い人さんが居なくても! 自分だけで何とか出来るようにしてみせますからね!!!」


 しおらしいより、自信過剰で、傲慢不遜のほうが、リウらしいと笑ってしまう。



シャオ・リウ。タイチ様。仲良くしてるとこ、悪いんだけど……が居るみたいだよ」



 ーーーーーー



「あれは”疫鬼イー・グゥイ”。”鬼”と言いますが、特級ではありません。あれは、せいぜい5~4級。そもそも”鬼”というのは、”妖魔ヤオモ”に広く名付けられていて種類が多く、余計な名前が付いていると基本的に弱く、反面でーー……--……--


「あれは、分かりやすく言うと”ゴブリン”。見た目も似てるでしょ? 色は違うかもだけど、要は雑魚。でも、数が多いね。タイチ様」


 まだ長々と自慢の知識を披露し続けるリウより、俺に分かりやすく簡潔で必要な情報だけをくれるガンちゃんは助かる。

 俺の思い描くゴブリンと同じ、子供のような大きさの小鬼が”満月草マンユェツァォ”の周辺に、二十匹近く居た。



「どうするんですか? お金と時間も無かったですから、装備が有りません。あの数を、どうしましょう」


「ん? 可笑しなことを言うな。それは、もちろん。殴る!!!」


 生前、探偵をやっていて、荒事になったことも多数。

 やる前からも、そういう事が多いのが分かっていたから護身術として、一通りの武道は習っていた。

 剣道や弓道なんかの武器を使うのは、用具に金が掛かるのもそうだが、現代社会では活用しづらいので習っていなかった。

 だから俺に出来ることは、最初から肉弾戦だけなのだ。



「イギギ、ギギェアアアアア!!!」


 駆けだした俺に気づいた一体が叫ぶ!

 足場の悪い森の中、相手は小柄とはいえ多数、主に使う武術に選んだのは……【空手】!!


「----しっ!!!」


 駆けだした勢いそのままの俺の正拳を受けて、疫鬼のする!!!


 ……


 …………爆散した!!?????????




 ーーーーーー



「……綺麗……」


 タイチのことを疎ましく思い、否定的なことを言い続けてきたリウが発する素直な感想。


「身体強化の【仙術シィェンシュ】を無意識で使えるくらいだから、体術は得意そうだとは思ってたけど、凄いよ!! タイチ様!!!」


 強さとは単純に、体格と筋力で決まる。

 そのの長年の研鑽によって生まれたモノが、【武道】。

 この世界では仙力シィェンリーと【仙術】によって、その限界が異常なほどに遥か彼方の高みに在る。


 招き人ヂァォレェンから、もたらされる知識が科学・文化系に限定され、【武道】の発達しづらい世界におけるタイチの【武道】は機能美の極みのような美しさを放っていた。

 タイチ自身の技量自体は達人と呼べる程ではなく、良くてプロになれるかどうかの人並以上のレベルであるが、この世界では画期的で、斬新に映っていた。



「ギゥガア!!」「ギャバ!!」「ギャギャ!!!」


 熊が、ゴリラが、人型の大型野生動物が、プロ並みの武術を行使する脅威、恐怖を証明するように疫鬼が四散する。

 身体強化の【仙術】で強化されたタイチの【空手】によって、当たった個所が爆散し、げる。



 十分と掛からず、殲滅された疫鬼の群れの中央に、が一人立つという戦慄の光景が広がることとなるのだった。



 ーーーーーー



「……気持ち悪い。吐きそ、うだ」


 妖魔とはいえ、人型の生き物を自分の手でさせるのは、刺激が強すぎた。


探偵この稼業は物騒なことも多い。いざとなったら余計なことを考えるな。弱音も、後悔も、涙も、ゲロも。全てが終わってから、吐き出しな!』


 ウチの所長の鉄の掟を長年にわたって守ってきたおかげで、戦いの最中に吐き散らかして、殺されるなんて事態にならずにすんで良かった。



「タイチ様ーー!! お疲れのところ悪いんだけど。疫鬼の”仙石シィェンシー”を回収しといてねーー! 仙力の塊だから、帰る時の【神技シェンジー】の足しにしないと、消滅するかもよーー。余れば、精霊僕たちのオヤツになるから嬉しいな!!」



 血まみれの死体を漁れと、精霊様の尊き教え……。



 消滅はしたくないので、吐き気を抑えて、心を殺してやるしかないか……。






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