苦労する生き方

「止めなさい! 見苦しい!!」


 俺の発言により殺気だった受付に響き渡る怒声。


飛・狼フェイ・ラン。生意気な新人が悪いんですよ……。先輩に対しての口の利き方を、教育してやろうと、ですね……」


 フェイ・ランと呼ばれた糸目の、嫌味なくらいイケメンの青年に、殺気だった荒くれ者達が恐縮する。

 長年、様々な人間を見てきた俺、いや、俺でなくても一目見ただけで分かるほどにフェイ・ランという青年からは、他者を寄せ付けぬ程の強者の風格を感じられた。


「教育されるのは、貴方達の方です。相手の力量を推し量れぬなら、黙っていなさい。を前に、押し黙るのはでしょう?」


 ツァンという強者が居なくなってから、陰口を叩いていた荒くれ共にセンスのある皮肉を言うところも、嫌味なくらいに決まっている。



光星グゥァンシン街の傭兵を代表し、この、フェイ・ランが謝罪します。どうか、貴方の恩人への誹謗中傷に対する怒りを収めて頂きたい。迷い人ミィーレェン殿」


是枝・太一これえだ・たいちだ。謝罪を受け入れよう。こちらとしても、事を荒立てたい訳じゃないしな」


 現時点での、この世界における俺の実力が分かっていない。

 フェイ・ランが新人を守るためか、陰口を言った者達を守るために頭を下げたのかは分からないが、事を荒立てなくて済むのなら、その方が良いはずだ。


「そう言ってもらえると助かります」


 顔を上げ、朗らかに笑い、周囲に睨みを効かせてから立ち去っていく。



「素晴らしい考えと覚悟ですね。お互い、苦労する信条生き方です……」


 去り際に、ポツリと溢した独り言が、耳に残る。



 ーーーーーー



「タイチ様が迷い人ミィーレェンなのなら、残念ですが傭兵登録は出来ません。いつ死ぬかもしれない稼業とはいえ、存在の消滅が確定している。そんな方に仕事を斡旋することは出来ませんので。仕事中に消滅されても困りますし」


 騒ぎが一段落して、引き続き俺の傭兵登録を請け負っていた受付嬢が、すまなそうに登録を断ってきた。

 これはツァンへの差別とは違う、ハッキリとした理由のあるなので、素直に受け入れようと思っている。



「だから言ったでしょう!! 迷い人さん! どうするんですか!? 生活できなかったら、青龍の代わりに”願い”を叶えて、在留期間を延ばす前に飢え死にですよ!!!」


 生前から、食事には強い関心が有ったから”飢え死に”だけは勘弁してほしいところだが、自分の信条生き方を変える気が無い以上、これは受け入れるべき区別なのだ。


「こうなっては仕方ありません。迷い人さんの無駄に有り余る仙力シィェンリーを使いますよ。【実体化】の許可をください。”許可する”と言っていただけるだけで良いです」


「ん? よく分からないが……”許可”する」


 言うや否や、俺の身体からが大量に、リウに流れたのを感じ、ほのかに光った。



「あの新人、”精霊ジンリン憑き”かよ!!?」「まさか勇者なのか!??」「……ケンカ売らなくて良かった……」


 見えるようになったのだろう精霊のリウの姿を見た周囲から驚きの声が上がる。


「精霊は通常、創造神に招かれた招き人ヂァォレェンか、勇者や英雄と呼ばれるような、特別な人物にしか憑かないし、手助けもしないからね。驚くのも無理ないことなんだよ。タイチ様」


 周囲の反応を、ガンちゃんが俺に的確に解説する。


「【実体化】させるのは相当の仙力を使うから、それだけで勇者認定されるくらいなんだよ。気を付けてね、タイチ様。森の中での身体強化の【仙術シィェンシュ】と今の【実体化】も、そうだけど。まだ、仙力の扱いに慣れてないからに使い過ぎてるよ」


 車で例えると低速ギアで速度を出そうとしている、料理を作るのに鉄を溶かす程の炎を出す、隣の家に飛行機で行くような無駄なことをしているようだ。


「一生の在留を保証されていないタイチ様は。僕ら、精霊と同じような存在なんだ。仙力を使い切ったら、問答無用ですると思ってね。タイチ様は規格外すぎるから、僕には量りきれないけど、余裕で3回は使えたはずの【神技シェンジー】が2回、使えるか怪しくなってきてるよ」


 言われて、自分の手を見てみると、若干だがなっているような気がしないでもない。



「この迷い人さんは我が主、青龍チンロン様の特命を受けています。【神技】により1年の在留と、【神技】の媒介を別に1つ持っていますから2年は消滅しないことを、精霊リウの名において保証します。働きによって、その期間も延びることも保証します」


「そういう事でしたら、登録するのに問題は有りません。タイチ様、どうしましょうか? ”精霊憑き”なのですから2級から……いいえ、特級になさいますか? 申し遅れましたが、タイチ様の受付嬢のチィェンと申します。お困りのことが有ったら、こののチィェンに何なりとお申し付けください!!!」


 自分専属の傭兵の評価が上がれば、給料や賞与ボーナス、地位が上がるのだろう。

 まったくの新人、しかも迷い人だと思っていた俺が、精霊憑き勇者だと判明するや否や、目の色を変えてグイグイ来た。


「普通に5級からで良いです。この世界のことも、未だに良く分かりませんし、下積みは大事だと考えてますので」


「それは大変、素晴らしい考えです。タイチ様。この世界の生活や分からないことがございましたら、こののチィェンに何なりとお申し付けください。昇級についてなら、いつでも御相談を受け付けております!!」


 どの世界でも、給料や出世に必死になるのに共感を覚え始める。



「せっかく苦労して登録したんです。薬草摘みなんかの雑事を、こなしてみましょう。迷い人さんは、生前は探偵。モノ探しは得意でしょう? チィェンさん、それ関係の依頼書を見せてください」


「はい! かしこまりました!! 精霊リウ様!!!」



 ーーーーーー

 ーーーーー

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 ーーー


 ーー


 ー




「どうして!!? この依頼が、未だに未達成なんですかーーーーーー!!!??」


 採取系の依頼書を見ていたリウから、驚きの声が上がった。






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