区別と差別

「タイチちゃんって、迷い人ミィーレェンなのに招き人ヂァォレェンみたいに神様の代わりをするの!? 凄い! 凄いよ!!」


「この人は、あくまでも神様の代わりに雑事をするだけです。世を良くする、素晴らしき、尊き”招き人”には、遠く及びません!」


 招き人のような文化的な知識を持ち合わせていないのは確かなのだが、俺が褒められるのが気に入らないリウが、いちいち否定的に言及する。



「凄いよ。あのツァンちゃんって、。基本的に精霊僕たちの声や姿が見えるのは特別な人たちだけなんだ。人1倍仙力シィェンリーが高いか、【仙術シィェンシュ】の扱いに長けていないと無理なのに」


 ガンちゃんが言うように、殴るだけで妖魔ヤオモの頭部をさせる程の実力者なのだから、特別なのは当然なのだろう。


「お~い、ツァン。本当に、この妖魔の素材の売却報酬は、折半で良いのか? 俺は何もしてなかったんだぞ」


「い~よ~。タイチちゃんが手伝ってくれなかったら、本気が出せなかったしね。こう見えて、ツァンは料理人厨師3級で傭兵3級だから、お金には困ってないから」


 五から一、特級までの職業の格付け、近代でも見られる職業組合や職人の格付けなどの制度に似ている。

 傭兵は感覚的に分からないが、厨師は五級で”見習い”、三級で”自分の店が持てる”、一級で”一流店”、特級で”王や皇帝の料理人”に該当するそうだ。



「さっきは感覚的に分からなかっただろうけど。普通は、傭兵なら同じ等級の妖魔を倒せるなら同じ等級に分類されるよ。だから、2級妖魔を1撃で倒せるのに、3級なのは変なんだけどね」


「それはツァンさんが”グゥイ”の混血なのが関係しているのでしょう。人を害する鬼の混じり者を認めたくない下賤な人が多いんでしょうね」


 ガンちゃんの素朴な疑問に、訳知り顔で得意げに答えるリウ。

 リウの話だと、妖魔である鬼は二つの角を持ち、その強さは特級に分類される。

 そのハーフであるツァンの二つの団子頭、その片方に小さい角の仙力を感じているようだ。


「どこの世界にも偏見や誤解。差別が有るんだな……」


 のん気に、街までの道を先導してくれているツァンに同情と、世界に行き場の無い怒りを感じる。



 ーーーーーー



 ”光星グゥァンシン街”と呼ばれるアジアの片田舎に似た街の中を歩く。

 二級妖魔の”まだら蜂蛇フォンシェ゛ァ”の素材を持ち、若干の血まみれで歩いているのを加味しても、周囲の奇異と畏怖の視線が多い。


「ツァンちゃんが”鬼”の合いの子なのが、原因だろうね。妖魔の素材も、血だらけなのも珍しいことじゃないからね。タイチ様の世界と比べて、この世界は殺伐としてるから」


「ただ、普通の人たちには私達、精霊は見えないし、声は聞こえないので、むやみに反応しないでくださいね。目立ちます。”迷い人”なのも隠してください。いつ消滅するか分からない人に、仕事も住む家も貰えないんですから」


「タイチちゃん、着いたよーー!」


 精霊達の忠告を聞きながら、ツァンに案内されて付いて来た場所。

 この世界における役所、兼、職業斡旋所ハローワークの大きな建物。

 戸籍が無い、仕事の無い俺が、身分証と日々の生活のために訪れた場所。



「タイチちゃんは、何の職業を登録するの? 厨師? 傭兵? この世界に探偵だっけ? そういう万事よろずごとを請け負う仕事は無いから、近いのは傭兵になるかな」


 料理人や建築、科学など専門的な知識の要らない、覚悟が有れば、誰にでも出来る労働職を大雑把に人に頼まれてする仕事傭兵と呼称するそうだ。


「なら、傭兵に登録しよう。この世界の仕事の水準が分からない以上。自信を持って出来る仕事は傭兵探偵くらいしか無い」


「倒した妖魔の買い取りは傭兵の受付だから、無駄に歩き回らなくて済むね」


 読んで字のごとく、傭兵の仕事は戦争や護衛、妖魔の討伐などの荒事あらごとが中心だそうだ。



 ーーーーーー



「ツァンさん、おはようございます。今日は、お店の営業日だったはずですけど。また、食材を取るついでに妖魔を倒したんですか?」


「その通りなんだけど、今日は職業登録の付き添い。ちょ~~と面倒な妖魔だったから、手間取ってたのを森で助けてもらったんだ。機転も利くし、身体能力も有るよ」


 浅黄色の揃いの受付服を着た、長い三つ編みの馴染みらしい受付嬢と談笑が始まった。

 傭兵の受付周辺とあって土建仕事や、それこそ荒事傭兵で生活を立てている屈強な者達が、ひしめいているが、水を打ったように静まり返っている。


「じゃあね、タイチちゃん。ツァンは、お店の準備が有るから帰るけど。登録が終わって、1段落したら、お店に顔でも出してね。美味しい料理を御馳走してあげる。有料でね!」


「有料かよ!? ありがとうな、ツァン。必ず、顔を出しに行くよ。俺にはが有るんだ。もちろん有料で、御馳走になる」


 短い間だったが、世話になったツァンと軽口を叩きながら別れる……。



 ーーーーーー

 ーーーーー

 ーーーー

 ーーー


 ーー


 ー




『やっと行ったか。あの


 登録のために書く、名前や年齢、特技などの簡単な経歴の書類を書く手が止まる。


「タイチ様。シャオ・リウにも言われたでしょ? 目立たないでって」


 俺を心配するようにガンちゃんだけが反応する、理解する。

 ツァンと談笑できるくらいにはの無い受付嬢も、俺のに気づく。


「今、ツァンをと言った奴は、前へ出ろ」


「威勢が良いな、新人。化け物を化け物と言って、何が悪い。それとも何か? 化け物でも。誘惑でもされたか?」


 振り返り、声の主を呼び出す俺に答える男は、出来る限り便に済ませようと思っていた理性と良心を破壊するような下品極まりない発言で応えて来た。




「言うだけでなく、同じようなことを考えた。思った者も前に出ろ」


 目の前の男が、俺より大きく、首から下げる傭兵三級の証も関係ない!

 一人ではなく、この場に居る数十人の荒くれ者共を全員、相手にしようが関係無い!!


「俺は”迷い人”だ。いつ消えるか分からない。そんな俺に親切にしてくれたツァン。そんな俺に、ろくに妖魔の討伐に加担しなかったのに報酬を分けたツァン」


「ちょっ!? 迷い人さん!? 言うなって、言いましたよね!!!」


 自分へのを避けるために、恩人のを見過ごせない!!!




「そんな心優しいツァンを”化け物”と言う、お前らの、その考え! この俺が叩き直してやる!!!」






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