支出

着替えて、荷物を持って、総務課がある3階に向かうため、トボトボと階段を上がっていく。総務課のイメージが、どこか淡々と仕事をこなして、どこか冷たくあしらわれる気分にさせられるところだ。部屋のドアが重く感じる。ここを開けないといけないのか。どんよりした気持ちが心を締め付けいくが、勢いよく深呼吸をして、ドアを開ける。

そこには、数人の人が居るが、誰も、私のことを気にせず、仕事に没頭している。そこは冷たく、乾いた空気が漂っている気がして嫌な気分になる。

「三上さんですよね?」

目の前に、いい匂いがするお洒落な女性が、私の方に来る。

「はい、そうです。」

「じゃあ、ついて来てください」

言われるがままに、後を付いて行く。

「今日から、ここがあなたの作業スペースですよ」と言われ、「えー」と声が出てしまう。てっきり、今日1日だけの話だと思っていた。

「大丈夫ですか?」

「ああ、すみません」

深く呼吸をする。もう、この状態に、混乱してきて頭が上手く回らない。

「こんにちは」

また、綺麗な女性がやって来た。

「部長、三上さんです」

「部長の小関こせき真梨まりです。今日から頑張りましょう。」

「あの、私、ここにいるの、今日だけじゃないんですか?」

「違うわよ。部署異動だから。とりあえず、お昼だし、ご飯にしよう。」

3人で食堂に向かうことになった。


「自己紹介するの忘れてたので、私は桃山ももやま佳奈美かなみです。よろしくお願いします。」

「三上 柚子ゆずと申します。よろしくお願いします。」

 

「そういえば、ゆずちゃんって、3つの支出って知ってる?」

「ゆずちゃん?」

「ゆずちゃんでしょう。」

「そうですけど。」

部長の小関にいきなり、名前で呼ばれて、少し戸惑った。

「消費、浪費、投資の3つですよね」

「なんで、ももちゃんが答えるかな。当ってるけど。この3つは覚えていてね。仕事でもプライベートでも大事なものだから」

「はい、分かりました。」

言葉を流すように、返答をするのが私のくせになっている。どういう風に大事なのかなんて、知ったところで何も変わらない。私は浪費も投資もしてないはずだ。

「三上さんは、投資はちゃんとしてるの?」

「してません。株とか興味ないので」

「ゆずちゃん、そういことじゃなくて、ここでいう投資は、自己投資のことよ」

「してなさそうですよ。部長」

「まあ、これから分かっていくわよ。ゆずちゃん。」

なぜだろうか。馬鹿にされた気分になって不愉快だ。食事が味気なくなっていく。それに、自己投資するほど、余裕もお金も持っていない。いい服を着たいとか、いいものを食べたいとか思ったことなんてない。

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