得れるモノの価値とは

一色 サラ

貧相

 安い服装で、安い化粧品を使って、仕事場の製造工場に向かう。趣味もなく、自分磨きなど、今まで生きてるうえで考えてことは、1度もない。


小学校の時、「お前って、陰湿で、暗いよな」と言われた言葉が、忘れられないので、人とは必要最低限の言葉を交わすことなどない。どうせ、誰も私のことなど、興味がない。

 22時ぐらいに仕事から帰ってきたら、いつも隣の部屋のうるさい会話が聞こえてくる。こんな時間に、何をしているのだろう。気になるが、怖くて、何もできない。光熱費込みで3万のこのボロアパートで、質素な食事と、観葉植物だけが私の癒しである。


クッキーの製造工場で、缶にラベルを張っているためのライン作業中に、突然、「三上さん」と私を呼ぶ声が聞こえてきた。何かしてしまったのかなって不安になって、声が上ずってしまい「はい」と言った言葉に、周囲のクスクスと笑い声が聞こえてきた。

呼んでいたのは、工場主任の高月こうづき真だった。

「三上さん、申し訳ないけど、今日、総務課を手伝いに行ってくれ」

「どういうことですか?」

「混乱させてしまっているのは分かっているんだが、総務課の方から君に来させるように言われてね。」

戸惑いが隠せないが、「はい」としか言いようかなかった。

主任も詳しいことは分かっていない様子だったので、何も聞くことができなかった。更衣室に戻り、着替えて、荷物をまとめる。行きたくないとは言えない。正社員として、ここに雇われているから、会社の方針に何かを言える立場ではないことは分かっていた。高校を卒業して、ここで働いて3年が立つ。もうすぐ22歳になる。

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