第3話・奇妙

 不思議に思っていると、ふいに後ろから


「やあ」


 と声をかけられた。内心ビクッとしながらも冷静さを装い、ゆっくりと後ろを振り返る。


 そこには塀の上に一匹の猫がいた。


 トラ柄の生きている猫がそこにいて、真菜子のことをジッと見ている。しかし、声をかけたであろう人物はどこにもいない。真菜子が戸惑っていると目の前の猫が


「やあ」


 と真菜子に声をかけた。


「ニャア」じゃなくて「」って鳴いた…


 真那子は確かにその猫が人間の呼びかけのように鳴いたのを聞いた。しかしそれにも増してその猫の異様な容姿が、真菜子の目を猫にくぎ付けにした。


 


 その猫には人間の手が生えていた。毛もなく五本の指をもち、体毛のない肌が露出した、出し入れできない爪がある紛れもなく人の手だった。

 その手が猫のものである証に、猫は手の平を開いたり閉じたり、自分が乗っている塀の上にカリカリと爪を立ててみたりと器用に動かしている。さらに左手(脚)で自分の顔の毛づくろいを始めた。真菜子が異様な猫から目を離せないでいると、


「あねっこさん」


 再び猫がしゃべった。


「あっちさあべ」


 真菜子をジッと見ながら猫が話しかけてきた。しかし、真菜子にはその意味が分からなかった。答えに困っていると、


「ししゃねえなあ」


 と猫が話しながら右手(脚)で真菜子が来た方の道を指さした。


 つられてそちらに振り返ると、真菜子が《《この道》》に迷い込んだあたりの空間が裂けていた。真菜子は直感的に元の通学路に帰れると感じ、猫にお礼を心の中で言うとそちらに向かって駆けだそうとした。すると、


「だめだっちゃ」


 と大きめの声で猫が制止してきた。両手(脚)でバツ印のようなジェスチャーまでしている。

 このは私の味方?それとも悪い猫?真菜子が判断を迷っていると、チーンと裂けた空間の方から風鈴の音が聞こえてきた。

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