第2話・無音
そのまま昨日と同じ学校での日常が始まるはずだった。しかし、透けた女の子のいる曲がり角を曲がると、そこに小学校は存在しなかった。
いつもの正門へ続く住宅街の通学路は消え失せ、昭和?を思わせる日本家屋が立ち並ぶ路地がうっそうと茂る森へと続いていた。道は砂利道で、いつもの舗装されたアスファルトは影も形もない。道には所々に浅い凹みがあり凸凹した道だ。森の先には古い神社でもあるのだろうか、朱塗りの鳥居がこんもりとした古木の間に見える。
まだ朝の8時過ぎのはずだが、辺りはまるで夕暮れ時のように赤く染まっている。人気は全くなく、あれだけ歩いていた子供たちはどこにもいない。真菜子はただひとり、赤く染まった路地に佇んでいた。
普通の小学4年生ならば泣き出しても仕方ない展開だが、真菜子は表情を変えずに冷静に辺りを見回していた。後ろを振り返ると、透けた女の子がいる場所へ続いているはずの曲がり角はなく、反対側も日本家屋が並んだ道がまっすぐに続いていた。
しばらくすると、真菜子はこの路地では音が全くしていないことに気がついた。風もなく、家々の庭に植えてある木の葉も少しも揺れていない。普通なら家の中から時折聞こえてくる人の話し声や生活音も聞こえない。
一瞬真菜子は自分の耳が聞こえなくなったのかと感じ、
「あー」
と小さく声を出してみた。
…聞こえる
真菜子は自分の声が音となり外部に流れ出たことを感じた。更に足元の砂利を軽く蹴り上げると、ジャリッと音がした。どうやら真菜子の耳は正常らしい。
しかし、相変わらず他の音は聞こえてこない。ここがどこかも分からない。
真菜子は誰か人がいれば、ここがどこか教えてくれるかもしれないと思い、本来は小学校がある方向、今は鳥居が見える方向へ歩き出した。ジャッ、ジャッ、ジャッ…と真菜子が歩く音だけが聞こえてくる。
歩きながら道の両側にある家屋を眺めてみた。真菜子は自分から誰かに話しかけることが苦手だった。しかし、今はどう考えても緊急事態なので、家の奥に人がいないかと覗きながら歩いていたが誰もいないようだった。
どの家も木造の黒々とした瓦屋根で、縁側や障子、四角い木の仕切りで区切られたガラス製の戸がある。
廃墟というよりは留守にしているだけ、という印象だが物音すらしない。全ての家がお出かけ中なんてことがあるだろうか?
「家が空き家か人がいるかは、アンテナがあるかないかを見れば分かるんだ。」
ふいに父親との会話を思い出し、真菜子は立ち止まり、目の前の家の屋根にテレビ用のアンテナがあるかを確認するため屋根の方を見上げた。
その家にはアンテナはなかった。その位置から他の家の屋根も見てみたが、アンテナはひとつも見つからなかった。全部空き家なのだろうか。
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