異界迷路
レムリア_mana
第1話・通学路にて
真菜子という名前が嫌いだった。今時同級生の中に子が最後につく名前の女子なんていない。大体〇〇子、なんて名前は響きが古い。令和という時代になってから、ますます自分の名前が嫌いになった。
そのことで特にいじめられたことはないが、誰かに名前で呼ばれるたびに恥ずかしくなる。
みんなは「紗愛」とか「日葵」とか、おしゃれな名前でいいな。この恥ずかしさは私にしか分からない。私には私にしか分からないことがあるんだ。
真菜子はそんな思いを頭の中で巡らせながら小学校へ続く通学路をひとりで歩いていた。登校班はあるのだが、同じ班の5年と6年の男子3人組はスゴロクじゃんけん、通称「グリコ」に夢中だし、4年生の女子2人はお気に入りのアイドルの話に夢中。
真菜子は彼らの後ろを少し距離を置くかたちで歩いていた。学校が近づくにつれて他の登校班の生徒たちも合流し、大きな行列ができる。その中を真菜子も歩いていく。
「真菜子ちゃんおはよう」
同じクラスの結良という名前の子が真菜子の横を通り過ぎる。
「…おはよう」
一瞬間をおいて真菜子が返事をする。
…いいなあ、みんなはアタラシイナマエで。
真菜子はそう頭の中で呟きながら登校する。
前方にいつもの曲がり角が見えてきた。ここを左に曲がるともうすぐ小学校が見える。その曲がり角の手前に、赤いランドセルを背負った3年生くらいに見える女の子が塀を背に立っている。うつむいているので肩まで伸びた黒髪に隠れて顔がよく見えない。
他の生徒がみんな学校に向かって歩いているのに、その子だけ道の端に黙って立ち続けている。真菜子以外は誰もその子のことに気がついていないようだ。
近づくにつれて、その子の姿がはっきりとしてくる。真菜子の肌も白いが、その子の肌の白さは異常で、まるで透き通るような白さだった。いや…実際に彼女の身体は透けていた…
彼女の後ろの塀や植木がうっすらと彼女を透かして見える。
そして全くの無表情の顔には、目の代わりに真っ黒な空洞があるだけだった。髪や服は濡れていてジットリとしている。そこだけたった今まで雨でも降っていたかのようだ。
…いいなあ、みんなは見えなくて
いつものことながら、真菜子はそう思いながら彼女の横を通り過ぎた。
真菜子が通り過ぎる際、その子は視線で追うように真菜子のほうをゆっくりと向いた。ポタリと濁った水滴が彼女の濡れた黒髪から落ちる。
しかし真菜子は振り返らず通学路を歩いて行った。曲がり角を曲がる直前、チーンと風鈴の音が聞こえた気がしたが、真菜子は気にせずに角を曲がる。
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