第6話 約束だからな




『親より先に死んだ人間は地獄に堕ちる』


まずこの噂がとある市内の学生達の間で噂になった。噂というより古くからある宗教の教えなのだが、丁度学区内の生徒が一名自殺したという話があって、それを怪談噺として取り上げるついでに、まるでパセリやシナモンのような、料理のアクセントのような感覚で付け加えられ広まった。

次に広まったのは、『自殺者は自分の代わりに地獄に堕ちる者を探してる』というもので、これはおそらく最初の噂に尾鰭がついたのだろうと、生徒達の動向を見守る先生達は話していた。

その二週間後に、二人目の自殺者が出た。

自殺したのは最初の自殺者と同じ学校の生徒である。という話はあっという間に周辺の他校にまで広まった。勿論上記の噂も一緒になって、そうなるとその生徒は最初の自殺者に呪われたんじゃないか。なんて安直な推測も飛び交う。なんでかって、そう、その子を虐めた犯人だから。


はじめの生徒が自殺したのはいじめが原因だ。なんて事実はどこにもない。真意はどうあれ、事実だけをいうなら、自殺の原因は警察にも教師にも親にもわからなかった。丁度受験が近かったというのもあって、それによるストレスが理由じゃないかって。誰も皆そう決めてかかっていた。

事実や証拠なんて関係ない。噂ひとつあれば人は死に、死体ひとつあれば、皆の認識は反転する。


おしまいに、高木はもう一つの噂を聞いた。これは件のいじめで自殺した子が可哀想だと同情する生徒らが見聞きして積極的に広めた噂だ。


『自分の代わりが地獄に落ちれば、自殺者は地獄に行かずに転生出来る』


「そう、それは良い話だね」


目線を下に落としたまま高木は言った。


「ホラーにしては珍しくハッピーエンドなんじゃない?」

「ええっ?だけどさぁ、いじめた子は死んで地獄に堕ちちゃうんだよ?」


眉根を寄せ、辛そうな声で佐々木は嘆く。


「そりゃいじめは確かに悪いよ。だけど、もしかしたらそんなつもりなかったのかもしれないじゃない?ただふざけていただけなのを、その子が勘違いしちゃったのかも」


紙面を擦っていたペン先が止まる。


「たしかに、その可能性はあるかもしれないね」


放課後の教室で、一つの机を間に挟み顔を突き合わせている。机上には学級日誌が開かれていて、時間割の欄は埋まり、諸々の雑用も既に済ませていて、後は一日の感想を記入さえすれば帰れる次第だった。紙面から離れたシャープペンが、クルリと指先で一回転する。高木を見詰めたまま、視界の端でそれを見た佐々木は、机に身を乗り出して言いつのる。


「ねえ、いじめた子はさ、本当に地獄に落ちなきゃいけないくらい悪い子だったと思う?」

「さあ、どうだろう。僕にはわかんないよ」


佐々木さんはどう思ってるの?シャーペンがまたクルリと回る。話を半分に真っ白な感想欄を悩ましげに見詰め、一向に顔を上げる気のない高木を、佐々木は不満げな顔で日誌に手をついた。


「高木くんが、どう思ってるのか聞きたいの」

「えぇ……?」


ようやく上げた顔は、眉尻をヘタらせ、少しばかり情けない。

遠くで管楽器の低音が不規則に鳴り響いていた。二人きりの教室には、水底にあるような静寂が揺蕩っている。喧しい日常との落差に、どこか取り残されてしまったような侘しさを感じる。

高木は気を紛らわせるようにカチリ、とシャーペンをノックした。


「内緒って、約束できる?」

「え?いいけど、どうして?」

「だって、ちょっと恥ずかしいっていうかさー……こういうネガティブな話題で本音って言い難くない?」

「そう?全然思わないけど。男の子ってそうなの?」

「男全般とは限らないけど。少なくとも僕はさ、少し怖いよ」


少しだけ掠れた声に、佐々木は小さく息を飲んだ。「…………約束する。二人だけの秘密ね」


高木は笑みを浮かべて、窓の向こうを見た。日が傾いている。あたたかい橙色の光が室内に差し込み二人を照らしている。


「全員、地獄に堕ちると思う」


佐々木の顔が凍りついた。


「そんなに驚くことかな?自殺して地獄に堕ちるなら、自殺させたほうも当然地獄に堕ちるのがフェアだと思うけど」

「フェアって、なにいってるの、向こうが勝手に死んだんだよ?誰も死ねなんて」

「僕が全員って言ったこと、疑問には思わないんだ?」


切り込むような問い掛けに、佐々木は瞬きをして指先を見る。


「いじめは、一人じゃできないものでしょ?」

「ああ、そうだったね。その通りだ。君の言う通りだよ」

「ねえ、高木くん?今すぐって話じゃないよね?普通に生きて、事故か寿命かで死んだらってことだよね?」

「さあ」

「さあって、私真面目に話してるのにっ」

「だって二人目は自殺だろ?」


日が傾く。窓の外に見える針葉樹林の影が二人に覆い被さった。


「自殺者には責任逃れの術があるんだろう?それでいじめの罪まで消えるかは分からないが」

「………どういうこと?」

「誰だって地獄になんか行きたくないって話。そうでしょう?」


カチ、カチ、出過ぎた芯を押し戻し、ペン先は再び紙面を走りだした。


「君が言うように、その子に罪の意識があったかはわからないけれど、少なくとも原因に心当たりがあるなら、きっとこう思うだろう『どうして私だけ』」

「そんなの高木くんの勝手な想像でしょ!?」


傾いた椅子がガタリと音を立てる。差し込んだ陽の光が佐々木の横顔に注ぐ。高木は彼女の影に目をやった。


「そうだね。みんなただの妄想だ」


末尾に句点を打ち込み、日誌を閉じる。顔を上げると、佐々木は身動みじろぎした。


「………ねえ、」

「ただの噂だよ。大体一番目の子が本当にいじめを受けてたのかも本当かわからないんでしょ?」


立ち上がった高木は笑みを浮かべ、佐々木の肩に手を置き言う。


「本気にするのは、心当たりのある子だけ。そうだろ?」


パシンッ、と音がするほど強く手を跳ね除け、佐々木は強ばった表情で高木を睨む。


「わ、私、いじめなんてしてない!!」


蛇のような吐息が高木の薄く開いた唇の隙間から洩れる。


「口にしないほうがいい。誰が聞いているかわからないから」

「……………帰る」


カバンを抱え、転げるように走り去っていく背が見えなくなった頃、高木は再び腰を下ろし、だらしなくズルリと背を預けた。橙の光を身に受ける。

高木は歌を口ずさんだ。枝に吊られたゆりかごの唄だ。





──hate──





「そんでさ、ライジングレッドとダークブラックサバランのアリジゴクに閉じ込められる回あったじゃん」

「ああ、二十三話の?あれはエグかったね」

「そうなんだけど、エグいだけじゃなくってさ、あそこでブラックが言う最後の台詞が、最終回で発覚するライムグリーンのスパイを臭わせてんだよ」

「マザーグースに気をつけろってやつ?マジで?アレ僕最後まで意味わかんなかったんだけど」

「本当はスパイが発覚するシーンで回想が挟まる予定だったんだが、尺の都合でカットされちまったらしい」

「マジで!?削れるとこもっと他にあったろ!グリーンの長ったらしい過去回想シーンとかさあ」

「だよな、アレマジグダったわ。1時間スペシャルだからって調子乗りすぎだろ」


会話だけなら、さも無事家に帰り着いて翌日、苦難を共に乗り越え友情を深め合った二人が和気藹々と話しているように聞こえるが、実際の現状は変わらずであり、また変わらないが故の気の弛みである。


雲にでも隠れたのか、いつからか月明かりは途切れ、今はバッテリー充分な高木のタブレットがその役目を勤めていた。

途中険しかった道程も、進むにつれゆるやかになり、もうじき麓にたどり着くといった頃合だった。


高木が立ち止まる。遅れて日比野も足を止めた。


ライトが照らす先に、白木で組まれた木造の建物がある。

全く小屋と呼ぶべき体裁で、とにかく木を割って組んだだけのように見える。

拝殿と違って人に見せるものではないとは聞いたが、果たしてこれを本殿と呼んで良いものなのか。違和感を拭えない。


「本当にこれで合ってんの?」

「参道がここで終わってるから間違いないよ。まあこのボロっちさは流石に予想外だったけど」


おそらく、本殿を設けておらず、神体そのものを崇めている。幼子がきらきら楽しげに笑っているから、きっと近いのだろう。


木戸には鍵が備わっているようには見えない。率先して扉を開けたがる日比野を制し、高木が扉に手をかけた。


「気をつけろよ」

「うん」

「扉開けるときが一番危ねえからな」

「海外ドラマの見過ぎじゃない?」


いかにも立て付けの悪そうな扉だが、思いのほか音も立てずに開いた。


何十人という、皮膚の爛れた人間が、幾重にも折り重なり蠢いている。羽虫を掻き集め山と積んだごみ溜めのような様相で、腰にしがみつく幼子がいっそうけたたましく笑い声を響かせる。


「高木?」


動かなくなった高木を不審に思った日比野が押しのけるように中を覗き込む。

家具もなければ床もない。硬い土の地面に、中央には真四角な鉄の板がマンホールのようにピッタリ地面に張り付いている。


「あの床下収納みたいのが地下通路?」

「うーん、多分。他になんにもないし」


歩き出した日比野が、つんのめる。高木が動かないせいだ。何やってんだと振り返る。高木は、日比野を見ていなかった。


「怯えなくっていいのよ、コイツらみんな出来損ないなんだから」


赤い瞳が覗き込んでくる。白粉に塗れた顔が触れるほど近くにある。


母様かかさまのお腹の中にいるのよ。コイツらおいしくないからちっとも食べてくんないの。でもアンタなら大丈夫よ。腹の底までケガれてるもの」


肩を強い力で掴まれ、ハッと息を吹き返した。荒く息を繰り返す高木を、三白眼を見開いた日比野が覗き込んでいた。


「どうした、死にそうなツラしてんぞ」

「今その喩えは不謹慎だぞ………ずっと歩きっぱなしだからね。むしろ、お前なんで元気なの?」


半ば本音ではあったが、日比野は高木に白い目を向け黙殺する。


「ちょっと休むか」

「いや、長居するほうが悪そうだ」

「そうか。じゃさっさと歩け」

「いたいたいたい、引っ張るなよ……」



鉄扉は大きく、穴とするならよく肥えた大人でも通り抜けられるほどの大きさがあったので、これは苦労するかなと思ったが、日比野はおもむろに扉の窪みに指を引っ掛けると、そのまま片手でグイと引っ張り開いてしまった。見ると、厚みがざっと十センチはある。高木は自分から言い出し繋いでいる手を見て少し泣きたくなった。今僕の命コイツに握られてる。


鉄扉の下は、やはり通路がある。かなり急勾配の階段があって、それさえなければ傾斜のついた穴と言って良かった。


「お前、先に行けよ」言って、日比野は高木の鞄のヒモを掴んだ。


「いいけど、なんで?てかどうして?」

「お前が転んだら道連れになるだろが。後ろで掴んでてやっから、いざとなったら引っ張って止めてやるよ」

「なるほど」


転がって死ぬか吊られて死ぬか。難しい問題だ。絶対転ばねえ。


穴の中に身を滑らせ、全身を中に入れると、ボウ、と足元で光が灯る。覗くと、足元近くの壁に二の腕くらいの大きさの穴が掘ってあって、中で蝋燭に火が灯っていた。さらに奥へ進むと、また奥のほうでポッ、ポッ、と火が灯る。



「便利だけど、誘われてる感ヤバくて好きになれない」

「いいからはよいけ」


一段降りるごとに、空気が冷え凍りついていく。足先から微かに吹き上がる風が、この通路の何処かに外へ繋がる道があることを示していた。


「おい、大丈夫か」


蝋燭が十本灯るごとに、日比野はこの問い掛けをした。様子がわからないことが余程不安なようだ。高木はそのたび振り返らないまま「心配ないよ」と答え、また「君は?」と尋ね返すのだった。今のところこれに対する返事はない。


ついに吐く息が白んできたころ、階段が終わる。降りた先は、怪談よりもずっと広い、平坦な道の洞穴が続いている。


「で、どうすんだこれ」


遅れて降りてきた日比野が、二叉に割れた道を交互に眺めてボヤくので、高木は右を指さした。


「こっちだよ」

「なんで?」

「こっちが山の方角で、風が流れてこないから」

「ふーん」

「はやくはやく」


トンネルの幅は広く、三、四人ばかり横に並んでも余裕で通れるくらいだったが、多いも何も無い剥き出しの土壁がぐるりと周囲を覆っていると思うと、ふとした切っ掛けで生き埋めになりそうな気がして、心做しか息が苦しくなる。


隣に立った日比野が、横から高木の顔をじっと覗き込んでいる。


「なんだよ」

「お前、なんで汗かいてんの」

「………うるさいなあ、普段動かないからだよ、ほっとけよ」


ふぅん、とつまらなそうに言いつつ、突然人の鞄に手を突っ込んできたので、高木は処理落ちして動きを止める。日比野は堂々と鞄のジッパーを開くと、ごそごそと何かやって、そのうちパキッと音がしたかと思うと、目の前に何かを突き出してくる。


「おら」

「………は?」


見ると、ペットボトルである。500mmのミネラルウォーターを、日比野は悪びれもしない顔で高木の顔面近くに差し出していた。


「飲めってこと?」

「他にあるか?」

「………………」


ご丁寧に蓋が開いている。口に含むと、思いのほか美味く感じて、あっという間に三分の二を飲み干してしまった。


「ほらな」

「………なにが」

「お前、軽い脱水症だよ」


脱水症。なるほど。これが例の。ほぉ、と思わず感心しかけて、いやだからって人の鞄勝手に開けるか?


「僕、水くらい自分で出せるけど」

「いいから全部飲め」

「わかってるよ」

「俺のもやろうか」

「いいよ。君が飲めよ」


何だか、ガキ扱いされている気がする。確かに自己管理出来てなかったのだから文句は言えないのだけど、気にしている余裕がなかったというか。とにかく、面白くない。

そんなふうに不貞腐れた高木が悪態吐くように日比野に言うと、コチラは案外素直な様子で「だな」とペットボトルを取り出し、一気に空にした。


「はっや」

「あ?まあ途中まで飲んでたしな」


別段潰し易いタイプでもないメーカーのペットボトルを片手でベコベコにする様子を眺め、こちらはエコと喧伝されている薄っぺらペットボトルを両手でコンパクトに畳み鞄に入れる。


「なんでこんな違うかな」

「はあ?」


怪訝な顔で睨んでくる目を横目で一瞥し、土壁に背を持たせかける。冷たい土の感触に、雨の日のような湿った匂いが鼻腔を擽る。


「君ぐらいの馬鹿力と図太さがあれば、色々と違ったかもしれないなぁ」

「褒めてんのか?それ」

「思ったことを言っただけ。デメリットが多いのは分かるよ。君の言う通り、嫌われることも多いだろうし」


だけど。

奥歯を噛み、込み上げる苦味を磨り潰す。

君がいれば、あの子は死なずに済んだかも、なんて、馬鹿馬鹿しい話。下らな過ぎて笑えないな。


「どうした、吐くか」

「吐かない。もう行こう、十分休んだろ」


そう言って振り向くと、疑わしげな顔で睨んでくるので、此方も片笑いで睨み返してやる。

オラ、拝め。ご尊顔だろ。

日比野は、別段拝みもせずに問い掛けてくる。


「お前、俺と友達になりたいの?」


なんでそうなんねん。


「君と僕とじゃ気が合わないだろ」

「そうか?………そうだな」


日比野は潰れたペットボトルを見下ろし独りごちる。


「お前、八方美人だもんな」


高木はぎょっ、と目を剥いた。


「なんで?君に愛想良くしたことあったっけ?」

「見てたらわかる」

「いつ?いつ見てたの?どこを?何を?」


血相変えて問い詰める高木にはとりあいもせず、日比野は壁に目掛けてひしゃげたゴミを投げる。

思いのほか勢いのついたゴミは、コッ、と僅かに壁を削って、ポトンと地面に転がり落ちた。ボウ、と光が灯る。




洞穴の突き当りには、両扉のやたら大きな門扉があった。門扉には閂があり、その上から紙垂のついた注連縄が門を塞ぐように巡らされている。さらに、門の手前には石造りの立派な鳥居があり、正にこの先にこそ神と祀られる存在があるのだと感ぜられる。


「なんつか、祀ってるっつーより閉じ込めてるカンジだぜ、こりゃあ」

「お札とか貼ってあったら完璧だったね」

「開けて大丈夫なワケ?」

「ここで立ち止まってても仕方ないでしょ」


それもそうだ。と言うが早いか、日比野は腰に差した刀を引き抜き、有難い縄諸共閂を両断する。


「君の思いきりの良さってさ、TPOさえわきまえればすごい長所になると思うんだ」

「んだそれ。タピオカの略か?」

「四文字をワザワザ略すのは、よっぽどのレアか、よっぽど聞かれたくない隠語なんだよ」


明らかに木製だというのに、門扉は厚く頑丈で、刀の扱いを知らない日比野の無鉄砲な一撃では、表面を薄く削るばかりで貫くことも出来ない。

それでも、鍵役である閂と縄の残骸さえ取り払ってしまえば、便所の扉よりも無防備なただのデカい仕切りである。


両扉のうち片方の扉に二人で集い、せーので力を込めて一気に押し開けようという運びになった。


「なあ高木」


互いに並んで扉に背を預け、さあ掛け声を、というところだった。


「友達になってくんね?」

「………っ、………今度、TPOについて教えてやるよ。マジで」

「それってオーケーってこと?」

「ノーだよ。言ったろ、君と僕とじゃ」

「そりゃ俺もわかるけどさ。でも別に合わなくてもいいじゃん。もっと一緒に居たいとか、明日も会いたいとかさ、そう思うのが友達なんだろ?」

「それ、どこに書いてあった?」

「中学んときの道徳の教科書」


あった気がすんなあ、そんなフレーズ。いまだに覚えてるのなんてお前ぐらいだろうけど。

なにやらどっと力が抜けて、高木は土臭い天井を仰いだ。


「なんで今」

「だって、最後かもしんないじゃん」

「最後って、君なあ」

「それにさ、俺、明日もお前に会いたいよ。会って話がしたい」


ぶつん。薄皮に溜まった膿を吐き出すように、先の尖った後悔が幾度目かの痕を裂く。


憂いも未練もたち切った晴れやかな笑顔に、全く同じ笑みを返して振った自分の手。


そう言えばよかったのかぁ。


お前はどう思う。無神経で無垢な彼の問いに、つい呆れた笑みが零れる。


「僕は愛想が良いからなあ。お前もまんまとつられたってわけだ」

「お前俺に愛想良くしたことあったの?」


あったよ多分。最初のほう。


「とにかく、その話は無事に帰ってからだ」


考えるのも面倒になって、適当にその場しのぎのことを言った。なのに、日比野は何故か驚いた様子で、くしゃりと表情を崩し、嬉しそうに笑った。


「言ったな、お前。約束だからな」

「約束って………まあいーよ」


高校生でそんな小っ恥ずかしい台詞吐く奴いるんだな。



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