12
城のダンスパーティー以来、レドモンドの様子がおかしい。
その原因に心当たりのあるマルゴットは、イライラと爪を噛んでいた。
(シャーロットのくせに……)
レドモンドに捨てられて、無様にも領地に引っ込んでいるはずのシャーロットが、どうして第三王子アレックスのダンスの相手を務めていたのだろう。
思い出しても腹立たしい。
シャーロットと出会ったとき、マルゴットは自分を引き立てるのになんて都合のいい女なのだと思った。
顔立ちはそこそこ整っているようだが、おしゃれには興味がなさそうな点も都合よかった。
マルゴットは彼女のためを装って彼女に変な格好をさせて可愛いと絶賛し、皆がシャーロットに奇異の視線を送る横で嫣然と微笑んだ。
シャーロットとレドモンドが婚約したのは、そんなある日のことだった。
レドモンドは背が高く、顔立ちも整っていて、シャーロットには不釣り合いだ。どうしてシャーロットが選ばれたのだと、マルゴットは怒り狂った。
本にしか興味がなかったシャーロットは、マルゴットにおしゃれの相談にやってくるようになった。婚約して浮かれていたのだろう。シャーロットの幸せそうな顔を見た時、マルゴットの中にどす黒い感情が起こった。
シャーロットが選ばれるはずがない。
何かの間違いなのだ。
シャーロットの幸せなど、奪ってしまえばいい。
マルゴットは「おしゃれ」だと偽ってシャーロットに時代遅れの格好をさせて、レドモンドの前に立たせた。
最初はそんなシャーロットを受けいれていた様子のレドモンドの中に、次第にいら立ちが生まれていくのをマルゴットは敏感に感じ取った。
そんなレドモンドを手に入れるのは簡単だった。
シャーロットの幸せを奪って、マルゴットは自分の自尊心が満たされていくのを感じた。
シャーロットは捨てられた女として笑われて、マルゴットはそんなシャーロットを尻目に幸せになれるーーはずだったのに。
結果としてマルゴットが得たものは、家から勘当されたレドモンドと、友人から婚約者を奪った性悪女というレッテルだけ。
それなのにシャーロットは、再びマルゴットの前に姿を現し、現在この国で一番注目されていると言っても過言でないアレックスと優雅にダンスを踊っていた。
(なによ、みんなみんなシャーロットシャーロット! あの女の何がいいの? レドモンドだって……!)
レドモンドがシャーロットを見つめていた目を思い出すと腹が立つ。
その目には熱があった。後悔と嫉妬とーー、そしてまるで恋をするかのように熱い目だ。
マルゴットはシャーロットからすべてを奪ってやったはずだった。
しかしこれでは、すべてを奪われたのはマルゴットだ。
「シャーロットのくせに……」
マルゴットはぎりっと歯を食いしばり、彼女が噛んでいた爪の先が小さく割れた。
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