第2話

 被害者ヴィクテム生存者サヴァイヴァー


 この二つの違いはマインドセットの違いなどではなく。


 もっと本質的な線引きがされなくてはならない。


 あれはスナッフフィルムの蒐集家だった貴族に飼われていた時の事だ。


 そいつが嬉々としてどこかから名前も知らない拘束された人間を一日で5人ほど殺した後、興奮していきり立ったそいつの醜悪なモノをしゃぶらされていた時のことだ。


 どうしてお前はいつも無表情なのだ?と聞かれた時私はこう答えた。


 “他にどんな顔をしたらいいか知らないのです”


 それ言うと男は嬉しそうに顔を歪ませた。


 ”嗤えジュージ 嗤って殺せ 私はそれを喜ぶ 快楽こそが神の御業なのだ”


 私は喉の奥に精液を詰まらせむせながら傍に置かれた今やただの肉塊となった五人の人間に虚ろな視線を移した。


 筋肉が弛緩した顎はまるで死後なお憎悪と苦しみを叫び続けているかのようだった。


 私は虚ろな“死”と目が合ったような思いがした。


 私はまだ幼い心に得心した。


 死とは虚無であり生の醜悪な絞りかすに過ぎず


 名誉の死など存在せず 死の前ではすべてが無力


 


 目の前に広がる死という底知れぬ虚無と余りに無力な自己の間に。


 その衝動を抑止するような倫理も道徳も義理も私の中には存在しなかった。


 暗闇に目を凝らすと微かな光の下、血だまりの上では蛾が羽ばたいている。


 自らの生をテーブルに乗せずに相手の死を引き出そうとするなどチップなしでルーレットをやるようなものだと私は学んだ。イカサマ野郎フェイカーは死ぬ。それだけのことだ。


 だがその代償は思いのほか高くついた。私が初めて屠ったその男が裏の世界では結構な実力者だったと知ったがそれも後の祭り。


 這う這うの体で組織から逃げ回っていたところ、私は裏世界で無類の美少年愛好者として名が知られていたファーザー・ハガチに拾われた。


 ファザー・ハガチは近接戦闘や暗殺技術に関する基礎のすべてをそこで私に叩き込んだ。


 そして3年が経ち5年も経つと、私は組織で最も多く殺した人間として重宝されるようになった。


 そしてファザーは傍目にも私を溺愛していた。


 時折ファーザーには同衾を請われることがあり、私は義務的にそれに応じた。ただ生き抜くために為すべきことを為す。私にとって生とはそれ自体が目的だったのだ。


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