第2話 防御を覚えると火力が下がる

 圧倒的低火力、あまりにも振り込む事が多かったために守り方を勉強した廻神四季であったが、その結果起こった現象は火力の低下だった。

「東風戦でまた南局に突入……?」

 以前までは攻撃一辺倒な麻雀がスタイルだった彼女は恐れ知らずとも言える打ち方をしていた。

 世間一般的にタコ打ちなどと言われている部類で、よく鳴く上に聴牌即リー、降りる事を知らない初心者雀士だった。

 しかし、麻雀を打てば打つほど放銃率ばかりに目が行くようになり、等々防御を学ぶようになった。

「……勝てない、和了れない、火力が下がる」

 配信前に肩慣らしついでの一戦を終えた廻神四季は自分の戦績表を見返して項垂れる。

 防御を学ぶ前の放銃率は約20%、防御を学び始めると徐々に下がり、現在は18%を切ったぐらいまでどうにか低下させる事が出来た。尤も、まだまだ読み切れていないが……

 ちなみに、麻雀の放銃率とは相手にロンを貰った割合で、東風戦は親が一周するまで行われる事に加えて、親が和了ると連荘してしまうため、1戦につき、4回から5回戦う事になる。廻神の場合、1戦当たり1度は振り込んでいる事になる。

 無論、意図的に安い手で振り込んで場を進めさせる事も十二分に有るのだが、防御を学んだはいいが、結果的に今まで出せていた火力が出せなくなった事が起因して負けが込んでしまっている。

 相対的には安定性が増した一方、セオリーを禄に理解できずに攻撃一辺倒だった頃に比べて打点を稼げない状況が見られるようになり、いつの間にか、1位になる事がめっきり減っていた。

 余談ではあるが、防御型の放銃率は11%から12%程で、攻撃型でも15%の放銃率に収まっているらしく、彼女が如何に攻撃に偏ったタイプの雀士で、退く事も守る事も知らない素人かが見て取れる。それを証明するように、1位と4位の比率が27%弱と同じ割合を占めており、中途半端な戦い方を許さないのは性格による物だろう。

「最近、なんだか2位と3位の割合が増えてきたかな……」

 跳満なり、満貫なりを狙い続けて1位になったり、放銃し続けて4位になったりとしていた頃と比べると鳴く回数も減り、極端な戦いから平凡で面白みの無い戦いへと変貌していた。

「配信しよ……」




 廻神四季、好きな役は一気通貫、七対子は整然と並ぶ姿が好きだが、ドラと絡むなら対々和で急ぎ足で和了ってしまいたい派である。

 守る事を覚えてからと言う物、火力の低迷に悩ませながら、日々一気通貫の誘惑に惑わされながら一気通貫をねじ込もうと固執する愚か者である。

 ちなみにだが、三色同順は両面待ちにする関係上苦手で、ズレると狂ってしまって完璧主義の一面を臭わせる彼女の肌にはどうしても合わなかった。

「親かぁ……一通有るな」

 配信開始1戦目、早々に一気通貫の誘惑に負けそうになっていた。

 手牌と言えば萬子が223457に筒子が3678、索子が157、東1枚の良好な滑り出しである。

 二萬を雀頭に据えても順子が既に二組出来上がっているため、早い段階で聴牌できる。

 さて、基本的に廻神の打ち方は字牌を切って浮いた牌を切るスタンスを取っている。しかし、タンヤオを狙うようにしているかと聞かれれば決してそういう訳ではなく、理想形を一気通貫に据えた平和など、一色を意識的に集める傾向にある。その為か、絶一門になる事が多い。

 絶一門とは一色を全て切り捨ててしまう打ち方の事で、役が付かない。相手からすると残り二色に手を染めている事が容易に想像できるため、攻撃的な手に染めやすい一方、相手からするととてつもなく守りやすい打ち方である。

「おや? 早くも手が固まって……」

 2巡目に三萬、5巡目に一萬と引き入れ、早くも一聴向。

 お望みの一気通貫は無くなったが、5巡目にして一聴向を迎えられたのは大きく、現在親の廻神は早々に和了って連荘としたい所である。

 親の手番では連荘を行ってアドバンテージを作り続けるか、誰かが振り込んで親が流れるのに期待するかだ。流局になって親が流れるのも、相手にツモられて親の責任払いになるのも嫌いで、特に親の責任払いは何もしていないのに状況が悪化するため、安い手でその場を流してしまった方がマシという物だ。

「これは、張りましたね」

 そして6巡目、トントン拍子で聴牌となった。ここで萬子が12233457、筒子が678に索子が567と言う状態で何を切るか迷う。

 切れる牌は3種類、萬子の2か5か7だ。

 ここで萬子の2か5を切った場合、七萬単機待ちで立直平和の2翻、残り3枚のどれかを待つ事となる。一方、七萬を切った場合、萬子の2と5を待つ形となる。こちらは立直のみだが、両方2枚ずつの計4枚を待てる状況にあった。

「こっち」

 待ちは多面の方が良いし、枚数も多い方が良い。単機待ちは結局流局になる事も少なくない上に、ツモ切りは振り込む可能性も高い。と言う事で、七萬を切った。

 6巡目にして親の立直、しかも自分の河は一索、東、南、三筒、そして七萬と、待ちを予想するには難しい状況にあり、安く上がるにしても十分な状況だった。

 7巡目、ツモったのは四萬、これで一発が消えてしまった。

 しかし、下家、二萬を落とす。

「それだよ」

 ロン、立直のみの和了り、2000点である。

 さい先が良いスタートとなり、27000点の状態で連荘となった。

 そして次の配牌、これも非常に良い。

 萬子が1122、筒子が13、索子が144678と並んで撥が2枚。しかも今回は索子の1がドラである為、今回も早々に和了れる可能性が高かった。

「……絶一門で」

 さて、ドラの一索を初手に切れる訳もなく、二筒を引き入れなければ順子とならない筒子は早々に切り捨てる。

 お得意の絶一門である。

 しかも2巡目に三萬を積もって一盃口手前という巡り合わせで筒子切りに拍車を掛ける。

「さよならドラ」

 3巡目、四萬をツモってドラの一索にさよならをする。

 それでも、早々に手を整えられると思っていた中で、問題が発生する。

 ポン、ポン、対面から捨てられた白と中を下家が連続で鳴いてしまった。

「わぁ……」

 安くとも2翻が既に決定しており、3巡目にして状況は急展開を迎えてしまった。こんな状態で下家にツモ和了りでもされた場合、先ほど下家から和了った分のアドバンテージが丸々無くなってしまう。

 しかし、速度ではこちらも負けていない。

「ポ゛ン゛ッ!!」

 上家が撥を切ってそれを鳴く。四萬を切って三萬単機待ちという形を取って対抗して見せた。

 ちなみに、一盃口は鳴くと役にならない為、今の捨て牌は二萬を切るべきだった。

 そうした場合、手牌が萬子の11234と索子の44678となるため、一萬と四索のシャボ待ちに出来るという利点がある。しかし、焦って鳴いた末に一盃口が役になると勘違いしていた廻神は四萬を切って三萬の単機待ちにしてしまった。

 さらに問題は続く、4巡目の対面、立直を掛ける。

 下家が張って居るかも知れない状況下で対面が立直になってしまった。しかし、親である上に張ってしまった以上は後に引けないのが彼女の性という物だった。

「現物三萬は僕の待ちだ、負けないよっ!!」

 リーチを掛けた対面の捨て牌には三萬があり、リーチを掛けた人物にのみ通る現物にして、廻神の上がり牌でもあった。

「ツモ、リー棒は僕の物だよ」

 6巡目、三萬を引き当ててツモ。

 撥のみ、1500点。全員から600点ずつ回収してリー棒も回収、2800点で更に連荘である。

「一通あるな」

 配牌の中に筒子が23689と並んでおり、彼女のなかで一気通貫という案が浮上する。

 すぐに一気通貫を狙いたがるのは彼女の中でブームのようになりつつあるからなのかもしれないが、タンヤオもセットになりやすい三色同順と比べて得点効率が良い訳ではない事は忘れてはいけない。

 しかも、運が良い事に字牌を切って手牌を整理していると中が2枚となって特急券を手にする事が出来る確率が跳ね上がり、安い手だが更にアドバンテージを確保できる状況になりつつあった。

 2巡目、下家が一筒をきり、さらに上家が一筒を切る。これで山には推定2枚となってしまい、一気通貫の夢が後退りを始める。

「くっ……な、鳴けない。中が来るまでは」

 ここでチーをしてしまう事は簡単だったが、ぐっと堪えてツモった牌は赤ドラの五筒、それは結果的に一気通貫の可能性を大きく広げる物であり、堪えた事への意味を持たせた。

「いいぞ、これはとてもいいぞ」

 5巡目、残り2枚だった一筒を引き入れて一気通貫の夢を見始めた。

「一気、一気」

 そして、下家から中が切られ……

「ポ゛ン゛ッ!!」

 およそ女性の声とは思えない荒々しいポンが放たれる。

 手元に残っていた白を切って、いよいよ一聴向である。

 手牌は筒子が1235689とならび、索子が445となっている。ここまで来れば筒子の4か7を鳴いてしまえば聴牌となる為、一気通貫までもう一息だ。

 しかし、調子がよかったのはそこまでだった。

 待てど暮らせど上家から筒子がこぼれる事などなく、ツモる牌で手が進む事なども無かった。

 しかも、上家は喰いタンの構えを見せ、対面は対々和に乗り出し、下家は場風を鳴いて全員が手配を進め始める。

「くっ……でも、降りないと」

 悔しい、とてつもなく悔しいが一気通貫を諦めて安全を取るしか無かった彼女は大人しく降り始めた。

 結局の所、16巡目に下家が対面から1000点で和了って親が流れ、ようやく東2局となった。

 その東2局目、結局の所、それはとても平凡な物だった。手牌は散らかっていて、早和了りも見込めない状況下、上家は索子で染め始め、下家もタンヤオの姿勢を示す中、廻神は15巡目にして立直平和ドラ2枚の状態で待ち構える格好となったが、見え見えの萬子待ちに振り込む者が現れるはずも無く流局、対面だけが3000点を失う結果となった。

 問題は連荘となった次の局面だ。

「運がよければ三暗刻すら有り得る、はず」

 萬子の7に筒子が256778、索子が25666と続いて北と中が1枚ずつという配牌で始まり、あまりの幸運に驚きすら感じた。

 2巡目、八索を引いて中を切ると上家がそれをポン、立て続けに牌を引くと八索が来る。

「おや?」

 さらに4巡目、またもや八索をツモって思い切ってドラの二索を捨てる。

 この時点で一聴向、索子の6と8を暗刻で揃えるという絶好の手牌だ。

 さらに7巡目、八萬をツモって切らないでいた七萬がようやく意味を持ち始める。これで三暗刻は難しくなったが、手牌は萬子の78と筒子の56778となって一聴向、非常に広い待ちが出来上がった。

 そして、下家の白を上家が鳴いて下家が白と中で二翻を確定させる。

 さらに上家が8巡目に中を積もってカン、ドラ表示牌は白であったため、撥がドラに化ける。

 如何にも気合い十分と言った上家を横目に、廻神の手牌が整ってしまった。

 ツモったのは筒子の6、これで筒子が566778と順子として揃い、萬子の7か8を切らなければならない状況となった。

 単機待ち、ハッキリ言って大きく変わらない待ちなのだが、九萬が場に9枚見えていた事を考慮して七萬を切って裏ドラに願いを託す。

 10巡目、八索を積もって、狙うは……

「カン、嶺上開花ッ!!」

 しかし、引き込んだのは七萬、よりにもよって先ほど切った牌であり、一巡前に八萬を切っていれば綺麗に嶺上開花が決まっていた。

「うわああああああああああああっ!!」

 13巡目、先ほど三索をポンした下家が撥をポンする。

「なんで撥を切ったの!?」

 対面から、未だ河に1枚も見えていなかった撥が13巡目にして切られた。恐らく、聴牌に至ったからなのだろうが、誰かが鳴く事は容易に想像できていたはずだ。現に鳴かれた。

 下家、撥を鳴いて撥ドラ3の完全武装である。

 ここまで来ると誰もが聴牌していると丸わかりの状況となり、誰も降りないチキンレースの完成である。

 それを証明するように、14巡目、対面が五萬の赤ドラを切る。

「止めて、怖いからっ!!」

 しかし、当たらず、立直している廻神は降りる事が出来ない為、この状況が怖くて堪らない。

 その赤ドラを待っていたと言わんばかりに上家がチーをする。そして、赤ドラの五筒を切る。

「バカァァッ!!」

 ロン、下家から上家に直撃を食らわす。

 撥、対々和、ドラ3枚、赤ドラ1枚の親跳ねで18000点である。しかも、その内ドラ3枚は上家がカンした為に生じたドラで、赤ドラは上家が捨てた牌である。

 廻神のリー棒も回収して3位だった下家は20000点以上巻き上げて45300点にまで膨れ上がり、堂々の1位となった。

「あ~あ、自業自得だよ」

 その後、下家が巻き返しを狙って見事嶺上開花で和了ったり、上家が立直一発で満貫を出したりとしたが、オーラスの東4局で25000点の点数差では1位を狙えないと判断した廻神は4位争いに興味など無く、喰いタンで早々に勝負に出て、白熱する4位争いに終止符を打った。

 降りる判断が付いたお陰で振り込まずに2位で終わったが、上家が勝負所で盛大に振り込んだお陰で1位を取り上げられた廻神の心に少しばかりの憤りを残したのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

いずれ強くなるV雀士 真儀瑠弦 @magiru445

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ