いずれ強くなるV雀士
真儀瑠弦
第1話 降りない私と嶺上開花
麻雀とは4面子、1雀頭を構築してより高い点数を競うゲームだ。
麻雀を知らない人からすれば難しく思えるし、実際、難しい遊戯で、開始時点では同条件の将棋や囲碁と言った物よりも複雑で、心理戦が大きく関わってくる為、全く同じ展開になると言う事が無いと言われている競技でもある。
さて、とある麻雀ゲームがあります。
平たく言えばブラウザでもスマホアプリでも遊べる麻雀のオンラインゲームで、インターネットの普及によってこう言った対人ゲームをオンラインで楽しめるようになった素晴らしいゲームだ。
誰でも気軽に始める事が出来て、誰でも麻雀を打ってみる事が出来る。ルールなんて知らなくても、とりあえずやってみれば何とかなる、そんなノリと勢いだけで始めた人がここに一人。
廻神四季、最近活動を開始したVtuberで、基本的に視聴者の居ない配信を繰り返す個人勢の女性である。
アルビノを思わせる様な白いポニーテールに紅い瞳、赤を基調とした袴は大正ロマンを感じさせる出で立ちで有り、手には扇子が握られている和風の立ち絵で、一見してみればある程度視聴者が尽きそうな物なのだが、現在の同時接続者数は0人と、寂しい配信を続けていた。
麻雀歴実質1ヶ月、役を作るのに精一杯で捨て牌まで目が行かず、降りる頃合いも見極めきれない素人、スジという物も禄に知らず、圧倒的な勉強不足での一幕だった。
「一盃口、いけるかな」
索子の1が一枚、2と3が2枚ずつという配牌で、萬子の1が2枚と頭になっている立ち上がり、四季の脳裏には一盃口が思い浮かんだ。
しかし、初手に萬子の5を切るという珍事を行う。
「うっ」
そして次の手順に萬子の6を引き当てて早速裏目に出てくる。
麻雀の基本は平和、数字の牌を123や456などと順番に並べて順子と言う形を作り、これを4つと雀頭で平和という役を作る。これを鳴かずに行い、尚且つ1と9以外の数字だけを使って揃えればタンヤオになる。
鳴かずに作る立直、順子で作る平和、2から8の数字で作るタンヤオ、これらを合わせるとメンタンピンという麻雀の王道になる、らしい。
閑話休題、麻雀の基本は字牌を先に切って1と9の数字から切る。タンヤオに持っていくのが基本形となる。寄せて上げる、この基本を守っていれば順子が作りやすいと言うわけだ。
逆に言えば、真ん中から切ると問題が起きる訳で、結果的に裏目に出る。
手順は進み、未練を残していた白を切り、裏目に出た萬子の6を切り、揃いきらない筒子が揃うのを待つ。
筒子が124677と、絶妙に揃わないのはご愛敬で、ここから鳴かずに順子を作れば立直、平和、一盃口となる。
しかし8巡目、上家の親が中を切って立直。
この時点で二聴向と、深追いするにはやや遠い位置に居た。
ちなみに、手配13枚に後1枚加えて和了れる状態を聴牌、聴牌にあと1枚足りていない状態を一聴向、2枚足りていない状態を二聴向と言う。
そして10巡目、親がツモって立直、自摸、一盃口、ドラ2、赤ドラ1の跳満で18000点。
親はハイリスクハイリターンで、相手にツモられると親の責任払いという形で点数を多めに引かれるが、自分が和了ると多く点数が貰える上に、親が続行するというシステムになっている。
「僕の一盃口が……」
東風戦は親が1巡するだけの麻雀であるため、誰かの親が続くと点数に開きが出てきやすく、東一局目から親の跳満が厳しい。
次の配牌がすっきりしない物で、白が2枚ある為、これを鳴いて手早く揃えるのが吉であった。
しかし、手配に順子が無く、手作りが必要となるため、6巡目が終わった時点でも二聴向と、速攻は厳しく、ドラも抱えていないため、白のみとなる予感がしていた。
しかし、手配は幾らか差し替えとなったが、結局二聴向から一向に変わらず、下家がダマテンでツモる結果となった。
自摸、平和、ドラ1枚の3翻で2700点、これで親が流れる事となった。
門前、つまり鳴いていない状態で聴牌しているが、立直していない状態の事をダマテンという。
立直するとロンかツモで和了るまで引いた牌を捨て続けなければならない為逃げられない。その為、撤退有りきで考えた場合、ダマテンも有りなのだが、四季は聴牌即立直しか知らない為、違和感を拭えなかった。
東2局目、四季が親となり、攻撃する気満々の彼女に配られた手配は萬子が1335、筒子が24、索子が3469に東西北白の字牌と、字牌を切りながらのスタートとなった。
字牌を切りながら手配を整えていくが、8巡目にドラの9筒を引き込んでしまい、その時点で手配に筒子の7があった事もあって喜びを感じてしまう。
この時点で二聴向と、整いきらないながらも、小さく和了って親を続行しようという思いが強まっていく。
「これなら……」
しかし10巡目、下家が中を切って立直する。
「ま、まだ舞える」
東2局目にして持ち点18200点という状況下、まだ押す事しか頭に無い四季に降りるという考えは無い。更に言えば、河には現物が殆ど無く、ここで引き下がれるような状況でも無かった。
14巡目、ようやく一聴向という所まで漕ぎ着け、聴牌の状態で流局に持ち込んで親続行という意識が強まっていく。
しかし、17巡目、筒子の5を引き込み、そのまま捨てる。
これがいけなかった。ロンである。
「いやあああああああああ」
立直、平和、ドラ、赤ドラの4翻で7700点、負けられない局面で放銃という大失態をやらかしてしまい持ち点は10500点に減少、見事に4位となってしまった。
しかし東3局目、傷心の彼女は絶好の機会に恵まれる。
「えぇ~、七対子?」
4巡目、早々に手配が整って筒子は3445799、索子は5588、そして南2枚と七対子の一聴向という形に持ち込む事が出来た。しかも筒子の5は赤ドラで、南2枚もドラと、これ以上無い場面となった。
七対子とは同じ牌2枚を7組作る事で出来上がる特殊な役で、その特性上単機待ちとなる欠点を抱えているが、相手にも予測しにくい特性を兼ね備えており、七対子だけで2翻も付くため、優秀な役でもある。
「筒子の9!? えっ!? ええっと……対々和に変更っ!!」
ただ、負けが込んでいるため、焦ってしまう。
引き込んだ筒子の9を手配に残し、代わりに筒子の7を捨てる。
「ポンッ!!」
9巡目、対面から切られた索子の8をポンして筒子の3を捨てる。
余談ではあるが、使わないようであれば真ん中の数字、特に5の赤ドラは早々に捨てる方が相手に使われる心配が無い。
しかし10巡目の状態で上家が東をポン、対面も撥をポンしており、早々に和了るつもりである事が見て取れた。
「早い、早いよ、まだ一度も和了れてないよ!?」
しかし、11巡目で上家が下家から出た牌をロンし、東、対々和の3翻5200点で和了る。
この時点で上家が46800点の独走状態にあり、とうとう東4局目に突入してしまった。
「どうしよう、字牌5枚もあるのに、役が付きそうにないよ……こうなれば、国士無双かっ!!」
なお、配牌時に萬子の1が2枚、9が1枚、南2枚、北白中が1枚ずつという状況にあり、絶妙に遠い状況にあった。
「まだだ、まだ終わらんよっ!!」
そんな状況下だた、立て続けに筒子の1と東を引き入れ、国士無双への道を邁進する。
国士無双とは役満の1つで、萬子、筒子、索子の1と9に加え、字牌全種で造り上げる役である。大抵は何処かの牌が重なり、残り1枚を待つ形となるのだが、13種1枚ずつを手牌に持ち、13面待ちしている国士無双を国士無双13面待ちと良い、二倍役満となっている。尤も、滅多にお目に掛かれる物では無い上に、彼女は役満を出した経験すら無いのだが。
3巡目親である対面は西をポンして、思わず大パン。
「西家じゃないでしょうがっ!!」
4巡目、対面からこぼれた南をポン、残り1枚の西を待つ余裕無し。
7巡目には索子の3を暗刻にして破れかぶれな手牌に変貌してしまう。
そして溢れた索子の2を対面がポンして親が混一色で揃えようとしている事が明らかとなる。
「ドラの中が出るわけ無いでしょ、これは僕のだよっ!! カンッ!!」
そして8巡目に索子の3を引いて破れかぶれのカン、少なくともこんな状況でやるような事ではないのだが、狂気の沙汰に出る。
しかし、国士無双に向かっていた手牌から役が作れるわけも無く、17巡目に下家が対面に放銃する。この時、ロン目が索子の8であったが、現物優先で切っていた四季は手持ちの索子の8を切らずに済んだ。
混一色、鳴いたため食い下がりで2翻2900点である。
麻雀は鳴かずに揃える方が良いというのは立直が出来なくなるのと、役の食い下がりが有るからだ。混一色は3翻なのだが、和了った対面は西と索子の3をポンしているため、食い下がって2翻に下がっているのだ。
親が上がったため、オーラスだが続行、まだ終わっていない。
1位は46800点で飛び抜けているが、2位が21600点、3位が21100点と団子になっており、4位の四季は10500点となっている。
段位戦の都合上、4位で終わると昇段が大きく遠のくため、1位にはなれなくとも2位か3位に着地しておきたい。
「筒子の9、ドラ2枚、跳満まで持って行ければ、まだ巻き返せる」
萬子の2459、筒子の456699、索子の8に南白という手牌に始まり、四季は起死回生の逆転劇を狙っていた。
この最終局面において、4位の彼女はここで引き下がるという選択肢が無い。トップを走っているのならば喰いタンなどの早い手で上がったり、親以外に振り込んで小さく上がらせて終わらせたりする事も出来るのだが、それは余裕がある者に限る。
3巡目、字牌などを切って索子の8を暗刻にして揃える。
「暗刻が2つ、まだいける」
さらに6巡目、ドラである筒子の9を暗刻にして揃える。この時点で二聴向となり、ドラを3枚も抱える好機が巡ってくる。
「立直ッ!! これで一気に巻き返してみせる」
7巡目、この対局初の立直となる。
この時点での手牌は萬子の456と筒子の4566999、索子の888となっており、上がり牌は筒子の3と6で、河には一枚も捨てられておらず、自分の捨て牌からしても察知されない待ちをしていた。
しかし、足りない。
今のままでは立直とドラ3枚のみで届かないのだ。
「足りない、でも、これが最初で最後のチャンス」
孫子曰く、兵は拙速を尊ぶ。兵というのは兵士の事では無く戦の事を指しており、時間を掛けて作戦を練るよりも、少々拙かろうが、素早く行動した方が勝利を手にしやすいという意味だ。
手牌が整わない中でようやく揃った今の状況で勝負に出なければ最下位で終わる事になる。
そんな逼迫した状況が勝負を急がせた。
実際、対面の親は既に中を鳴いており、特急券を手にしている。僅か500点差に迫った3位の親は小さく勝って終わりにすれば良いだけである為、もう少し手配が整うまで待つと言う事が出来なかった。
9巡目、四季からこぼれた筒子の8を対面がポンする。
中を鳴いた以上、愚形でも構わない為、形振り構っていないのは確かだった。
しかし、手順が進むにつれて状況は悪化の一途を辿る。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あああぁ~」
萬子の2を切って立直をして以降、12巡目までに萬子の5、7、3、4と立て続けにツモ切りする事となり、萬子ならば通ってしまう事が判明してしまう。萬子の現物が陳列してしまっては降りる側は萬子を切るだけの作業となる。
しかし、その風向きを一変させたのは15巡目、索子の8をツモった時だった。
「カンッ!!」
暗槓、手牌に同種の牌が4つ揃うと行う事が出来るカンである。
そして、もう一枚引く。
「ツモ……嶺上開花ッ!!」
引き寄せた牌は筒子の3、和了り牌だった。
嶺上開花、カンをした際に補充する牌でツモになると付く役で、狙って出せる役では無い。
運任せの役で有り、非常に格好いい和了り方だ。
立直、嶺上開花、ツモ、ドラ3枚、そしてカンした索子の8に裏ドラが乗り、10翻、倍満である。
「16000点!? やったっ!!」
持ち点は26800点となり、2位に着地。
まさに有終の美という言葉の通り、最後の最後に起死回生のカンで立直ドラのみの凡手が10翻の怪物手に大変わりしたのである。
「人生初の嶺上開花……麻雀って楽しいね」
麻雀歴約1ヶ月の新人Vtuber廻神四季の麻雀道は始まったばかりだ。
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