星司とブロラハン

街から三里村から六里

星まで百里の海岸に

柱に柱継ぎ足した小屋

星を眺める仕事の場

男が一人 指折り数え

星のありかを記録する

二時経てば 再び数え

星の命を記録する


その日は雲がそして風が

星の姿を吹き飛ばし

男は一人スープを飲んで

叶わぬ夢を数えてた

梯子の下でとんとんとん

何かと見れば黒い影

彼に気付いてとんとんとん

声が聞こえた「あなた自身」


「君は誰だい」「わたし自身」

「何してるんだい」「あなた自身」

男はランプを差し出して

小さな影を手招いた

噂に聞いたブロラハン

小さな体小さな手

梯子を上るブロラハン


小屋に登った妖精は

形が揺れる闇の中

男の座るその横で

声を発した「わたし自身」

男は星を記録して

それに応えた「わたし自身」

風が闇夜に吸い込まれ

水車の回る音がする


朝日が星を古い夜を

消し去った時気付いたら

そこにはいないブロラハン

男はつぶやく「あなた自身」

梯子を下りて小川の流れ

見つめた中に光る星

瞬きながら「わたし自身」

ここで始まる百里の旅



(「無責任」第二十五号より)

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