腰から上は人

腰から下が馬になった日から

いろんな場所に行くのが億劫だ

バスにも乗れないトイレに入れない

社会は四本足に優しくない


飲み会をいくつも断った

就職の面接もあきらめた

人生の色が減っていく

気付いたら走り出していた

速かった


夢は番組制作

いろんな人に届けたかった

今はただ走ってる

誰もが振り返るけれど

誰もが目をそらす

山を越えてたどりついた

湖のほとりで

感情に名前を付けて

一休みした


自分以外誰もいないところでは

特に何も困らなくて

それこそが絶望だった


何年か暮らしてみると

そこそこに幸せで

何を望んでいたのか

忘れてしまった

ある日目覚めると

二本足に戻っていた

それもまた絶望だった



(「無責任」第十三号より)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る