第37話 ウィリアムの迷い
ローズが「ただいま」と言って俺の腕に飛び込んできたときには度肝を抜かれた。
俺の世界では それは伽の用意ができたと女が男を積極的に誘う行為だからだ。
虚をつかれたおかげで 表面上は普通の会話を彼女とつなげることができ、彼女にとって、「ただいま」ということばは 単に帰宅時のあいさつだということがわかった。
まったく 同じことばを使いながら そのことばの意味が著しくちがうという この異文化交流の危険性ときたら!!!
ただ あまりにも驚きすぎて 呆然自失のあまり 3日も彼女と無駄に時を過ごしてしまった。
早い話が 冷静に彼女と情報交換ができず、政策について話し合うこともできず
中途半端に彼女と共寝してしまったのだ。
彼女は 単純に俺の知識や俺の考えを知りたがっていただけなのに。
おれはただ彼女のそばに居られることだけに満足してしまい まったく質疑応答に応じられなかった。早い話が頭の回転がストップして安らいでしまったのだ。
むしろ 無意識のうちに「ただ俺のそばに居て欲しい」と言う俺の願いだけを 無警戒な彼女の心に浸透させてしまったような気がする。
というか おれには そんな感情の持ち合わせはなかったはずだが。
かつて 海の王ネプチューンと契約した時に、人間に対して抱く欲望のすべてをひきわたすかわりに、この地の荒廃をとりのぞく力を持つ者と心を通わせる未来を得たのだから。
しかし 俺と共に行軍し同じ天幕に寝泊まりするとまで言い出した彼女を前に さすがにおかしいと気が付いた。
そこで とりあえず 人を操る才のある二人の近習を遠ざけ
彼女と二人っきりで話して見ることにした。
案の定は ベッド上の俺の姿を見るや 入り口で固まってしまった。
やはり 警戒心の塊があの娘の素の状態だった。
残念だ
と同時に 彼女にとって不本意な結果にならぬよう警告する必要を強く感じた。
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