第34話 護衛達との会話

3晩続けて ウィルとは情報交換を行なった。


私達の寝室は廊下を通らず直接行き来できるので、彼がベッドに入るのにあわせて

こちらから訪れることができる。


しかし ドローとエドガーから ウィリアム王は一人だと 食事もとらずに栄養剤だけで済ませて仕事をしてしまうので、彼が一度自室に戻る時間は必ず彼の応接室で夕食と共に待ち受けていて欲しいと頼まれた。


王様いじめが大好きな貴族たちは ウィルをいじめるのと同じくらい自分達の食事と夜の時間を楽しみにしているので どんな事態であろうと会議は定時に終了するのだそうだ。


逆に言うと 議題がなくても 勤務手当目当てに会議の時間をだらだらと引き伸ばしてウィルの時間を浪費する輩も多いそうだ。

 ウィルには 会議のほかに決裁しなくてはならない書類がたまっているというのに


 そして守秘義務があるから ウィルの書斎から持ち出せない書類も多いと言うのに


会議出席で虚栄心を満たし金を稼ごうと言う輩には 領地経営の責任感が欠如しており、逆に言えば周囲から信頼もされていないので 書類仕事はないのだろうが、有能でまじめで国に対する責任感の強いウィルは、日中は貴族どもの相手(会議)に潰され、事務連絡は早朝に 書類仕事は夜に自室でと 1日18時間体制で仕事をしている。


だから 私が彼を夕食に誘って「俺がいなくては 食の進まぬローゼの為に」とウィルに思わせて 彼にしっかりとした食事をとらせてほしいというのが エドガー達からの要請。


「あのね 彼がいなくても会議が回るようにするのがあんたたち側近の仕事でしょう!」


「ウィリアム王には 軍事的部下は居ても 側近となる文官はいません」(ドロー)


「だからローズ様に その役割を担っていただければありがたいのですが」(エドガー)


「無理無理 私この国のことなにも知らないもの」


「ですから 毎晩一緒にお休みになって情報交換なさることにも それ以前からローズ様が気ままにここで学習活動されるのも 我々が容認するだけでなくお手伝いしているのです」


「なんじゃそれ?」


「我々はこの国の今を憂い ウィル様にすべてをかけております。

 そのウィル様が 国政以外のことに目を向けることを 我々が許すはずもございません。本来ならば」(ドロー)


「しかし ローズ様が ウィル様と同じく まじめで清らかな心とまっすぐな意志と曇りのない判断力を持った聡明な方であることはあきらかでしたので、ローズ様の力になろうとウィル様がいろいろなさることに協力しているのです。」(エドガー)


「接触通信というのは 効率的な情報伝達方法であると同時に 相手の精神を破壊したり 相手の意志を砕く危険性の高い手段でもあります。

 お二人がまじめで誠実で互いに相手を思いやっていると我らが認めるからこそ

そうした交流に 我々が反対しなかっただけです。


ほんとうなら そんな危険な手段をもちかけただけで抹殺してますよ」(ドロー)


「え~~~~。知らなかった」


「「でしょうね」」


「ウィルは?」


「当然ご存知でしたよ。それでもあなたを受け入れたのは あなたを信頼しているからです。と同時に 最初の夜は あなたを壊してしまわないか 大層気遣っておられました」(ドロー)


「たんに 並んで眠って 情報を共有してだけですよ」(ローズ)


「では あなた様は ほかの人相手に同じ方法を試しますか?」(エドガー)


「しないね。襲われたら困る。あるいは そこまでする必要がない。というか気持ち悪い」


「そういうことです。一人でないと眠れないと言って 護衛まで追い出すのが ローズ様でしょう」 日ごろ 壁越しにしか護衛をさせてもらえないエドガーが言った。


「言われてみればそうですね。私いつの間に ウィルに対する警戒心をなくしてしまったのかしら?」


「ウィル様のあなたへの心遣いが通じたのではありませんか?」


「確かに でも だから側近になれは無理です!」


「側近になって欲しいというのは 我々配下の願望です。今のところは」



というわけで ローズはウィルと一緒に朝食・夕食をとるようにしているのだが・・

「食事時間の分だけ 書類仕事を片付ける時間が減るから 果たして本当にウィルの為になっているの??」と考える ローズであった。


「情報交換の為とはいえ 最近はしっかりと7時間ベッドで横たわって体を休めておられるから それでいいのです」とエドガー


「でも 睡眠学習も眠ったままでの情報交換も 神経疲労を起こすし、ウィルは食事に使った時間の分だけ自分の睡眠時間を削って仕事しようとするから 全然負担軽減になってないと思うのだけど」


「心配なさらずとも 明日から出陣ですから 出陣中はさすがに会議はないので

ウィリアム王にも十分に休んでいただけます」(ドロー)


「それに ローズ様がいなければ ウィルは自分で徴兵にまわられたでしょうけど、今回はその仕事を配下の者に回したので、仕事の邪魔にはなってません。


 もちろん ウィル様が出兵する者達の家を回れば兵の家族は喜んだでしょうけど

それでも戦につきものの戦死なんてことになれば 恨みはウィル様に集中しますから

徴兵業務は 隊長となる者達にやらせればいいのです」(エドガー)


「戦における 責任分担ですね。自分の部下の命は隊長が責任を持て

 すべてを指揮官のせいにするなと」(ローズ)


「そういうことです」


「しかし 今回の戦いは何のためにやるの?」


「名目上は 水のある領地の確保です。それが議会の要望です」


「水魔法で 大気の循環が狂っている現状では 水のある領地を得ても2・3年で砂漠化するでしょうよ。

 それに 水のある領地を得て 国内の食料の配給量を増やしても、貪欲な領主たちが開拓に駆り出すから 民の暮らしは楽にはなりません」


「だからこそ ウィル様も 打開策を見つけ実行するために 必死で情報収集されているのです。各地から上がってくる書類を精査しながら」

 

 



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