第4章 墜落

第32話 ウィリアムとの再会

城に戻ると ウィリアムはしかめっ面で土気色の顔をして 仕事をしていた。


どんだけ激務なんだろうか?


それでも彼は笑顔で私を迎えてくれた。

彼の笑顔がうれしくて 思わず抱き着いて「ただいま」のあいさつをしてしまった。

もちろん 彼の部屋の天井裏から ドローがしっかりと私達の再会のあいさつを見ているのを承知で。


ウィリアムは心底驚いた表情で 真剣なまなざしで「いったいなにがあった?」と尋ねてきた。


そこで一緒に夕食を取りながら 精霊達と契約して 国外まで運んでもらったことを話した。


そして 体を休めるためにベッドに横たわりながら接触通信でお互いの経験を交換しあってはどうかと提案した。


「いいのか? 出発前はあれほど接触をいやがっていたのに」

「今では私にも眷属がいるし 魔法通信はやましいことではないから。

 あなたも魔法を使えるのでしょう、ウィル」


「ああ 攻撃魔法が中心だが その気になれば通信魔法も使える」


「あなたは人の心に入ることができるのに 初対面の私に対してその力を使わなかったわよね」


「ああ 当たり前の礼儀だ。君は敵ではないのだから」


「そういう律儀でまじめなあなただから、接触通信で効率的に情報交換してみてもいいかなと思ったのだけど。いけない?」


「互いのプライバシーを尊重しながら 試してみるのも良いか」


「それじゃ 就寝準備をすませたら あなたの部屋に行くから あなたも用意していてね」


食事を済ませたローズは 足取りも軽く自分の部屋に引き上げた。


 ローズを見送ったあと、ウィリアムはソファを頭を持たせかけつぶやいた。

「力を使わなかったのではなく ことごとく跳ね返されて使えなかっただけなんだが」


ドローは食器をワゴンに入れながら言った。

「ローズ様が 当初カリカリしていらしたのは、ウィルだけでなく 多くの者達から

 しかけられた精神探査を 無意識のうちにはねかえしておられたからではないでしょうか?

 強引に彼女の心に割り込もうとした者に対しては ローズ様は最初から明確に反発を示されていましたし、ウィルには単に警戒心を向けるだけだったのも、すべては無意識のうちに反応していらしたからでは?」


「つまりは 私からの圧力がほかの者にくらべて弱かったから 警戒しつつも私についてきて、今は私が何もしかけていないから 無邪気になついていると?」


「はい」


「つまり 今夜も情報開示にとどめて 私からは何も求めない方が良いと言うことだな」


「それが無難かと思います」


「なんだか 自分が凄くずるくて いけないおじさんに思えるよ」


「かなり穏やかな世界から来られたローズ様と 血みどろの国で生きてこられたウィルとでは すべての基準がちがっているのはしかたのないことです。

 それでも あの用心深いローズ様が 無邪気にウィルの胸に飛び込むことができるほど 互いに近しい部分をお持ちなら その接点を大切になさってください」


「我が国随一の大魔法使いマルレーンがお手上げするほどの魔法能力を持つローズから 嫌われないよう 努力するよ」


「私の見る所 ローズ様の行動は 相手が自分に向ける好意や悪意を敏感に感じ取って鏡のように反射していますね。

 だから へんな恰好つけは おやめになるのがよろしいかと」


「伝説の猫のような存在だな。こちらの品性がローズの行動に反映されるとは」



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