第2章 修行
第14話 アンジェリカ
目が覚めた。
とりあえず洗面所に行って身づくろいをする。
室内は暗く時間がわからないので、そっと隣の部屋に続くドアの前まで行って耳を澄ます。
隣の部屋の気配はわからない。
仕方がないのでドアを開けた。
隣室のソファにウィリアムが抜き身の剣を膝にのせて座っていた。
「おはようございます」ドアを背にして声をかけると、ウィリアムは 部屋全体にぐるりと目を配ったあと、剣を鞘に納めつつ こちらに向き直って
「おはよう。よく眠れたかな?」と言った。
「はい おかげさまで。陛下は?」
ウィリアムは「二人だけの時は陛下と呼ぶな。ウィルとでも呼べ」と言いつつ窓に向かい、カーテンの隙間から外をうかがう。
「日の出まで まだ少しある。腹が減ったのか?」
「言われてみると確かに。でも朝食の時間までは ソファでおとなしくしてますので
ウィルは あちらのベットで体をおやすめになっては?」
「ほー 今度はお主が
「役に立つかどうかはわかりませんが ウィルがのぞむならがんばります」
「役に立ちたいなら 俺と一緒にベッドに来い。抱き枕があったほうが安眠できる」
ひきつってしまった。
「枕相手にじゃれつく趣味はない。・・この程度の冗談も通じぬとは 固い育ちなのだなぁ。悪かった」
息をのんで固まっていたら、王は「水を汲んでくる」と言って 部屋にあった水差しを持って私の横をすり抜け浴室に行った。
息を詰めていると苦しいので 溜息をついて ソファまで歩き 逡巡したもののとりあえず座った。
部屋に戻ってきたウィルは 机の引き出しをあけて何かを取り出し、私の向かいのソファに腰を下ろして、テーブルの上に袋を置き、ティーセットに湯気のたつ湯を注いだ。
「今は紅茶と菓子でがまんしてくれ。夜が明けたら 早めの朝食を命じるから。」
「あ ありがとう」
「なんなら 毒見の為にお前が選んだ菓子を俺が先に食べるぞ」
もたもたしていると ウィルがそう言って 袋を私に突き出して来た。
「ウィルと一緒の時は そこまで警戒するのをやめました。
警戒してもほとんど意味がないと言う気がしてきたので。」
「空腹だと言う割に すぐに手を出さないから用心しているのかと思った」
「あのその 出されたものにすぐ手を出してがっつくのではないという行儀を叩きこまれているのと 戸惑って 動作がおそくなっているだけです。 気をつかわせてすみません」
「そうか。せかして悪かったな」と言って ウィルは袋を私に近寄せて置いた後、
クッキーのようなものを袋からつまみ出して食べた後、手をハンカチで拭いて 紅茶を入れ、「砂糖だ」と小瓶を私の前に置いた後 自分のカップに砂糖を入れて飲んだ。
私も 落ち着いた香りの紅茶に砂糖を入れて飲んだ。
「私の国でいうところのセイロンティに似ていますね」
「こちらでは セーロー産だ。地名が似ているな」
「ほんとに」
袋の中には数種類のクッキ―が入っていた。
アンジェリカが混じっていそうなクッキーを選んだ。
「この中に入っている 緑の香りの良いかけらは 植物の茎を砂糖で煮込んで乾燥させたものですか?」
「どうやって作られたのかは知らん。アンジェリカという。咳のよく出る子供の薬にもなると言われている。今は このように菓子に混ぜられているな」
「おいしいです。干した果物やアンジェリカなど砂糖漬け・蜜煮などの入った焼き菓子は好きです」
「興味があるなら 厨房で自由に作るところを見たり コックから話を聞いたりできるようにしてやろう」
「ありがとうございます。この世界のあらゆることが知りたいです」
「よくばりなやつだ」
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