第13話 王の私室

馬車の窓は閉まっており 外の様子は全く分からないまま揺られ続け、

しかしウィリアムとの会話が弾み 気が付くと 王宮の玄関口であった。

 玄関と言うのも変な感じだが。


馬車の中で フード付きのロープを羽織るように言われ、そのロープで足元まですっぽりと覆われたので、令嬢のように馬車を降りる時から ウィリアムにエスコートされたたまま 王の私室に入った。


廊下の護衛達は皆 王様に敬礼するので 私は目を伏せて王について行った。



部屋に入るとすぐに 制服を着た若者に紹介された。


「衛視見習いのエドガーだ。夜間は侍従の代わりに俺の身の回りの世話をさせている。」

「エドガー こちらは神子様だ。侍女が決まるまでは お前が身の回りのお世話をしつつお守りせよ」


「はい!」


「ところで あなたのことは 神子様以外の名で呼んでもよいのですか?」とウィリアム


「そうですね これからは ローズと呼んでください。神子様よりローズと呼ばれる方がいいですね。エドガーも」


「はい」

「ローズは 真名か仮名か」


「仮名です。でもここにいる間は ローズがいいです」


「わかった。ローズ 美しい名だ。」


「ありがとう」


「まだ空腹なら 何か用意するが」


「お茶を頂けると嬉しいですが 眠さの方が先にたっています」


「そうか・・今は私のベッドを使え。私はこっちで寝るから心配せずとも良い。

 お前が寝ている間に離宮の用意をさせよう」


「は はい。 御迷惑おかけしてすみません。

 えっと 寝室から持ち出す必要があるものがあれば 先にまとめて出していただけますか。その就寝中に人の出入りがあると落ち着きませんので」


「エドガー 寝室の方を頼む」

「はい」 若者は静かに素早く隣の部屋に入っていった。


「あれは 腕もたつし気も利く、だから 安心して 身の回りの世話を任せるとよい」

「はい。ここでは 起床時間は?」


「今は好きなだけ眠るが良い。

 お前は、昨日の早朝に召喚され、夕方馬車に乗り、

 今はその翌日の夕暮れ時だ。ゆっくり休んで疲れをとれ。


 ローズは 侍従が同じ部屋で眠るのも嫌なのだな?」


「はい」


「ならば 目覚めたらベルを鳴らせばよい。」

 手渡されたベルを見ると 塔の中で渡されたものとそっくりだ。


「そのベルは私が念じれば我が元に戻ってくる。

 誘拐された時には そのベルに文を結び付ければ 私が召喚した時に文がとどくぞ」


「もしかして 殿下がその気になればベルの所在もわかるとか?」


「ふむ そういう魔法をかけておいて欲しいか?」


「ウィリアムがそうする必要があると考えるのならば」


「考えておこう」


布包みを抱えたエドガーがもどっきた。

机の上に包みを置くと一例して「お部屋の用意ができました」と言った。


「では そのベルを枕元に置いて眠るがよい。

 明日 目覚めたときにベルを鳴らせば 俺かエドガーが部屋に入って行く」


「はい」


「では こちらへ」


エドガーに案内され ウィリアムにつきそわれて 陛下の寝室に入った。

 洗面場所など教えてもらい 新しいタオル一式とくしと歯ブラシ・コップを出してもらった。 歯ブラシは ブタ毛のごついものだった。

 使用済みタオルを入れる籠も示された。


夜着として 陛下のパジャマとスリッパの予備(新品)も出してもらった。


「いろいろとありがとう。おやすみなさい」

「おやすみなさいませ」


こうして長い2日間が終わろうとしている。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る