第12話 どっちを選ぶ?

食事会が終わり 部屋に戻る途中の馬車の中でウィリアム王は言った。


「俺と共に来るか、このままメサイアの配下としてあの部屋に戻るか決めてくれ」


「あなたは私をどこに連れて行くのです? 王宮? それともこのまま野営地に直行ですか?」


「一番安全なのは 王宮の私の部屋だな。

 そこで侍女か護衛の者を何人か選んだ後、離宮で住むがよい。

 そして 戦場に行くかほかの道かとお前の将来をお前が選んだら あとは成り行きだな」


「あなたは ご自分の部屋に呼ぶ人間に対しては自信と信頼をお持ちなのですね」


「ふん お前までそうだとは言わぬが 少なくとも私室に出入りすることを許した配下のことは信頼しておる。」


「ならば 陛下と共に参りましょう」


「ウィリアムだ。」


「ごめん ウィリアムの提案に乗ります」



ウィリアムは 御者に「全速力で王宮へ」と告げた。

加速するにつれ 馬車の揺れははげしくなり体を安定させるためには空気椅子が必要だ。


足に負担をかけぬために 両手を座面について尻が浮くようにがんばった。


「すまんな クッションも足台もなくて。俺の膝で良ければ貸すが」


「いよいよとなれば考えます。お気遣いありがとう」


「やはり 体を支えたり楽になるように手を貸すためでも 体に触れるのはダメか?」


「崖から落ちるとか命に係わるときは 遠慮なく助けてください」

「でもどさくさ紛れに悪さはだめです」


「ぷっ」ウイリアムは噴出ふきだした。


「念のために言っておくが 俺は独身だ」


「私も独身です」


「付き合っている女も婚約者もいない」


「私もいません」


「お前が魔人討伐に行くなら 俺も討伐隊に参加しよう」


「王様が 前線に出るのがこの国では一般的なことなのですか?」


「場合によるな。出陣する以上は 箔が付くように根回しと成果が必要だが、お前を一人で戦地に送り出すより 俺が自分で守りについて行った方が安眠できそうだ」


「ありがとう。でもそれって 私が直接魔人を討ち取ることが前提のようですね」


「民も教会もそのように期待しておるから、実際に誰がとどめを刺そうと、神子様が魔人を討ち取ったことにするのが、国の為でもあるし お前のその後の為になると思うぞ。」


「ものすごく 気遣って下さってありがとうございます。

 でも 私 武道経験ゼロです。すごく平和で 殺人とか傷害とかが起きると国を挙げて大騒ぎになるくらい穏やかな国で生まれ育っているので」


「つまりそれほど殺人が珍しいということか?」


「はい」


「夢のような国だな まさしく神の御膝元と呼ぶに値するところだ」


「だから 戦力的には期待なさらないほうが・・」


「ならば 戦地に行くのは無理か・・」


「あなたや国の為に 必要だと言うのなら 行きます。

 行きますが 本当に行くだけで戦力的に宛になさらない方が良いと思います。

 神子として 呼び出されたことにより 特殊能力がそなわったなら話は別ですが・・ 

 あと 足手まといにならぬように 体を鍛えたり基本的な事柄は先に学んでおきたいです。」


「しかし お前 刀を振り回したり こぶしの固めかたなど 一通りは素養がありそうだが」


「あれは 子供の遊び程度のものです。

 実際には相手に当らぬようにと気を使いながらの 形だけの真似事としての子供の遊びです」


「女子が 刀を振り回して遊ぶのか?」


「遊びに男女の違いはありません。男の子が刺繍をして遊んだり 女の子が棒きれ振り回して遊んだりしますよ」


「はは その話は 俺以外の者の前ではしないように。きっと騒動が巻き起こる」


「はい」


「ずいぶん辛そうだな。俺の腕をつかんで体を支えるとよい」


ウィリアムは 向かい側の座席に移り両腕を差し出した。


「スミマセン。頼らせていただきます。」


怖れ多くも 王の両腕をつかんで立ち上がり お尻が座面にはたかれて腫れあがるのを回避することにした。


「ウィリアムは お尻が痛くならないようにどうやって座っているのですか?」


「お前が最初に試みたように 両足を踏ん張って腰を少しだけ浮かしている。

 この椅子の高さでは お前には無理だったようだが」


「ほんとに目ざといですね」


「子供の頃から ちゃんと鍛えているからな」


「さすがです」

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