第11話 お食事会

国王と大司教と3人でのお食事会はフルコースだった。

 そう、神官と名乗ったメサイアは大司教だった。


フルコースと言えば 聞こえは良いが、前菜・スープ・その他単品と続き、待ち時間が長い。

空腹で胃袋が悲鳴を上げている状態では 辛い配膳方式である。


私の経験では 腹がすきすぎている時のフルコースは 忍耐心の鍛錬であり、メインディッシュが出てきたころには食欲が減退していて濃い味付け(ソース)がつらい状態。

味付けが複雑すぎて胃酸ばかりが分泌され、中身の乏しい状態が続いて胃腸によろしくない。


ダラダラ食いになれている人向きなのが洋風フルコース


その点 和食のコース(旅館の豪華メニュー)や懐石メニューは 目と鼻と胃袋を楽しませる健康的満腹メニュー、どっちもちょっとづつ色品いろしな多く出て来るのになぜなんでしょうね?

 たぶん突き出しが一口サイズながらも複数盛りあわされており味覚的にも消化面でもバランスが取れているからでしょう。


姿勢良く 迷うことなく落ち着いてナイフやフォークを使いマナーが板についている私の食べ方を見て 王様は ほぅと言う顔をした。


「神子様が以前いらしたところでも 食事の形式はこのようなものでしたか?」とメサイアが尋ねてきた。


「というと?」


「ナイフやフォースを迷わず選ばれているので 毎日こうした料理を食べていらしたのかと」とメサイア


「こちらには米はありますか?」


「はて どのようなものでしょうか?」


「程よく水を加えて加熱してコメをふっくらとさせて食べるのがご飯。

 汁気を多く炊き上げると粥と呼ぶのですが」


「そのような料理法は聞いたことがありませんな」とメサイア


そうですか。

米やパン 麺類など様々に加工した穀物に合わせて おかずは違います。

朝・昼・夜 それぞれに皿数や調理法もことなります。

そのさまざなおかずに合わせて 箸という2本の棒を使ったり

あるいはここにあるスプーン・フォークなどを使い分けます。


一皿に数種類のおかずを盛り合わせて一度に何皿かを各自に配膳することもあれば、このように皿数多く 数回にわける出し方もありますね。

儀式の時には 30種類以上の料理を儀式用の器に盛り合わせ家族で小皿に取り分けて食べることもあります。」


「一度に30種類とは コックも大変であろうな」と王様


「年の初めを祝う食事ですから 年末に3日くらいかけて 一家の主婦これはその家の祭祀長ともいえますが その主婦が中心となって作るのです。

 私も 物心ついたころから調理を手伝い 近年は 一人ですべての調理をしています。」


「女性が祭祀長ですか」とメサイア


「古来より 神と人とをつなぐのは 女性にしかできぬこと。

 男は世俗的に権力を誇り武力で家を守ることができても 神と人をつなぐことはできませんから。

 もちろんできるふりをして権威をまとおうとする国家権力もありますが 私の家は古式を尊重しておりましたゆえ。

 でも 国によって神のまつりかた 祭祀の在り方はそれぞれでございましょうから 異国の習わしに介入する気は全くございませんのでご安心下さい」


「俺はこの国の王だが 神子どのが 魔人を討ち取ってくれればそれでよし。

 あるいは 何もせずにただ座って 人々を安心させてくれるのならそれでも良いと思っている」


「メサイア殿のお考えは」


「教会の者たちは 救いを求めて神子様を招聘し、この国のみならず他国にまで 神子様の御威光を示すことを願っております」


「これまでに呼び出された神子はどうなりましたか?」


「『神子様の召喚方法を見つけた』と子奴こやつらは言っておったが、先例がないので 本当に神子様が訪れるのか 魔物が出て来るのかわからぬと言う者もおる。

神子様降臨と共にすべてが 教会の思い通りの世の中に一瞬で変わると信じている者どももおったなぁ」と国王


「あなたはどう思っていたのですか?」


「何が出て来るのか 出てこないのか 何が起きるのか 何も起きないのか 予測不能と言う立場であった」と国王


「それゆえ 私を人扱いしなかったとか?」


「すまぬ 高貴な家の姫とは知らなかったのだ」


「神子様の信じる神は どのような神なのですか?」メサイア


「それについて語ることはできません。こちらの神に仕えることもできませんが こちらの神と争うことはしません。こちらから教会の方々と争う気もないのでご心配なく」


「神子様には 1日も早く魔人を片づけていただきたいものです」メサイア


「ならば 身柄は私が預かろう。まさか若い女性一人に 何も持たさずにいくさに放り込むほど教会は非常識ではあるまい。

神子と呼ぶなら 神子様にふさわしい 武器・防具・神器は残らず持たせるのであろうな」国王


「魔王を討ち取ったあと すべて返していただけるのであれば」メサイア


「神器類を返すということは 勤めを果たしたということになり

 神子様が元の世界にお戻り頂くのも こちらの世界で気ままに暮らすのも自由ということであろうな」国王


「そこまで 今はお約束できません」メサイア


「ならば 国王として私が約束しよう。この女性の自由と安全は私が保障すると」


「ありがとうございます。国王としてのお約束は 国をかけて・国としてのお約束ということでございましょうね。」


「そうありたいものだ」王


いささか苦い食後のコーヒーと甘いケーキで 食事会は終わった。


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