第8話 王様が来た
どんどんと扉を叩く音で目が覚めた。
窓の外を見ると暗い。
急いで 最初に渡されたローブに着替えて扉を開けに走った。
「はいはい お待ちください。今目覚めたところなので」と叫びながら。
息せききって扉を開けようとして 待て待てと思い返し「どちら様」と声をかけると
「俺だ ウィリアムだ」と王様の声。
「今開けます」と声をかけて扉を開けると、王様は笑いをこらえるような顔をして
「眠っていては 時計があってもなくても同じだな」と言った。
「いえいえ 寝室には目覚まし時計 携帯時計には望みの時間に鐘が鳴るアラーム機能付きを使っておりましたから」と返すと、ほうっという顔になった。
「外出用の着替えを持ってきた。俺は外で待っている。侍女も待たせておくから必要なら中から呼べ」と言ってかごをおしつけてきた。
ウィリアム王の後ろには アメリアが立っていた。
「とりあえず アメリアさんは中にお入りください」
ウィリアムは 片眉をつりあげて 肩をひき アメリアを前に押し出した。
アメリアを応接室に通してかごを受け取った。
アメリアは 手つかずのサンドイッチセットを見ている
「ゴメンナサイ 疲れていたので風呂に入ってすぐにねちゃったの。
これは もったいないから 明日の朝食べるわ」
「どうかお気遣いなく。残り物は下働きの者達が食べますから」
「もしかして この国では 下働きの者が食べられるように 出された食事は残さなければいけないの?」
「そんなことはありません。主や客人がおいしいと言って残さず食べれば調理人は喜びます。手つかずで残された皿があれば下働きが喜びます。食べ残しはブタの餌になります」
「なるほど」
「それでは 食べ物だけ下げてください。お茶は夜、喉が渇いたとき用に置いておくわ。」
「そんな遠慮なさらずともその都度 私がお入れします」
「だって 夜はあなたも眠る必要があるでしょ」
「お仕えする主様の御用に合わせて起きるのも侍女の務めです」
「でもどこで寝るの?」
「共に寝室を使わせていただければ一番良いのですが」
「それは無理」
「では こちらの部屋か 外のろうかか」
「どっちもだめ 夜はご自分の部屋にお戻りください。私の世話は通いでお願いします。」
「私には部屋がありません」
「その点に関しては 王様とメサイアに話す必要がありそうね」
「ところで バスタオルとかは どこに干せばいいの?」
「私が外に持っていきます」
「汚れた衣服などは?」
「それも私がまとめて 洗濯の為預かります」
「私 服は毎日着替える習慣なのだけど 大丈夫かしら」
「貴族の方は 入浴のたびに新しい服をお召しになります」
「それでは こちらの服にお着換えください」と言って、私の横においてあったかごに手を入れようとするのを押しとどめると
「あの かごはお返してください。この籠に汚れ物を入れて戻りますので」
「嫌だわ きれいな服も洗濯予定の物も同じかごを使うなんて 不衛生な。
ちゃんと分けてください」
「それが そちらの習慣なのですか?」
「衛生は基本中の基本です」
「衛生が何かは存じませんが ご要望通り 別のかごを用意します。」
「別のかごと言って 私の目の届かないところで 汚れものを入れた後のかごに洗濯済みの服やタオルを入れたりしてはいやよ。」
「なんか この服も そうやって使いまわしているかごに入れられてきたのかと思うと着るのが嫌になったわ」
「そんな」「この籠は ウィリアム様がお持ちになった籠なので 中の服もウィリアム様が選んだものです、どうか着替えて頂かないと私が困ります!」
「その割に 平気で 濡れたタオルを入れて持ち帰ろうとしたわね」
「申し訳ございません」
「わかりました。あなたは お下がりなさい。私がこれから着替えます」
と言って 渋る侍女を追い立て押し出すようにして廊下に追い出した。
かごの中の服は薄紙に包まれていた。
つつみには カードがはさまれていた。
『夕食には ローブを着ても良いし この籠の中の服を着ても良い
靴は 途中の店で足にあったものを買おう』と書かれていた。
包みの中には ズボン・シャツ・上着・マント・くつしたに剣帯と帽子が入っていた。
そこでありがたく包みの中の服に着替えさせていただき、整理ダンスの中に入っていたハンカチを2枚をポケットに入れ、帯に剣と短剣をはさみマントを羽織った。
ウィリアムが帽子をかぶっていなかったのを思い出し、帽子は手に持った。
「開けます」と声をかけて扉を開けると廊下にいたのはウィリアムだけだった。
「すまないな 侍女は階段を駆け下りていったぞ」
「訳の分からない行動の多い人だな。少し尋ねたいことがあるので 中に入ってもらえませんか?」
「喜んで」王様が入室した。
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