第2話 それは、異形の存在でした

 異形――そう呼ぶに相応しい、禍々しい存在がそこにいた。


 不健康そうな水色の肌に吊り上がった暗黒色の眼。

 その中心に光る赤い瞳。

 それが左右合わせて六つ、顔を埋め尽くしていた。


「はぁ……」と、それに溜息で答えるお姉。

『どうした、ずいぶんと落ち込んでおるようだが……』

「いや、なんていうか……もういいわ。勇者でも何とでも呼んで」

「投げやりだな、お前……」と勇者。

『良く解らぬが、貴様、わしを前にして臆せぬとは、流石女神リーゼ=ウントの勇者だ』

「リーゼントって、昔のヤンキーかっ!」

「いや、俺も最初その名を聞いた時はそう思っちゃったけど、言っちゃダメだろ……一応、女神様なんだし……ちなみに、リーゼ=ントだから」

「はぁ……アフロといいリーゼントといい、異世界の女神の名前って一体どうなってんのかしら……」

「アフロ?」

「こっちの事よ。それよりあの六つ目の魔物、寂しそうにこっち見てるわよ?」


 そう言って、魔物を指差すお姉。


『貴様ら、この魔王スカルプを舐めておるな?』

「頭皮かっ! ケアしないと死んじゃう系かっ! しかも魔王って……本当にそんなネーミングでいいの? 威厳を欠片も感じないわよ!」

「てか魔王だと!? 転生してイキナリ魔王と遭遇とか、異世界のセオリーどうなってんだ!」


 口々にわめき散らす、お姉と勇者。


『おのれ、これ以上の愚弄は許さぬ!』


 その時、魔王の六つの眼から光がほとばしった。


「ぐわっ、まぶしっ!」

「め、目が、目がぁぁぁぁ!」


 勇者がどこかの悪役大佐みたいに両目を塞いで身悶えする。


「油断したわ、目くらましとはね……」

『目くらましだと? そんなせこい魔力と思うなよ!』

「どういうこと?」


 お姉は左腕で光を遮りつつ、片眼を半開きにして問いかける。


『貴様ら勇者の「能力スキル」は知っている……その源が女神の力であることもな……』


 魔王の言葉に眉をひそめるお姉。

 大分視界が明るくなったか、腕を組んで左の人さし指でアゴをトントンと叩く。

 お姉が考え事をする時にいつも出るくせだ。

 そして、お姉は魔王に問いかける。


「知っているって、どういうこと?」

わしは魔王ぞ。女神のヤツが儂を討伐するために勇者どもをこの世界に送り込んでいることくらい、すでに感知済みだ』

「勇者って言ったわね。今まで勇者がいたの?」


 お姉は静かに問う……って、それって、つまり……


『一々覚えておらぬわ。今まで狩り取ってきた命などな……』


 そう答えて、魔王はわらった。


「なるほどね……で、さっき『目くらましじゃない』みたいなこと言ってたけど?」

『ふっ、あの光は女神の力を遮断する精神結界を発動するものだ……その意味が解るか?』

「遮断するって……だからどうした?」


 そう返したのは勇者ハルト。

 どうやら彼も視界を取り戻したようだが……


「俺はすでに女神様から『力』を授かっているんだよ!」


 吠える勇者は右手を前にかざし、何かを念じるように目を閉じる。

 そして、その言葉を解き放った。


「特殊技能『聖王魔滅陣ホーリーレクイエム』!」


 中二スキル発動キターーーーーー!

 ていうか、さっきは確か『絶対反射アンチマジック』とか言ってなかったっけ?


「くっくっくっく、あらゆる魔物をせん滅する光の魔法陣で、もがき苦しむがいいわ!」


 どっちが魔王か判らないような台詞を吐く勇者。

 だが――


 何も起こらなかった。


「……あれ? 発動しない……」

『愚かな……言ったであろう、貴様らの能力の源たる「女神の力」を遮断したとな』

「ああ、やっぱし」


 ウンウンと頷くお姉。

 勇者は魔王の話を理解できてないのか、


「そんなハズは、くそっ、出ろ、出ろ!」


 一層ムキになって能力を解放させようとする。


『ふむ……一人は愚鈍なようだな……もう良い、コイツはいた』

「へ?」と、お姉は一瞬嫌な予感を覚え――


 刹那、魔王の指先から放たれた細い光が

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