ぶらり異世界勇者狩りの旅― 迷子の日帰りチートハンター ―

さる☆たま

第1話 結局いつものぶらり旅なのです

「どやかましい、誰が男だゴルァ!」


 怒声一発、鋭い眼光を放つお姉。

 たったそれだけで、勇者ハルトとやらは盛大に吹っ飛んだ。

 それはもう5メートルくらいは盛大に。


「……ったく、あたしは女だっつーのっ! 女装野郎だの何だのと、黙っていれば好き放題言ってくれるわね……って、あれ?」


 相手の返事がないことに気づいたか、テクテク歩いて近づくお姉。


「もしもーし、生きてる?」

「い、生きてまふ……」


 少し掠れ気味な声を聴いて、お姉はほっと肩を撫で下ろす。


「まあ、一応手加減してるつもりだったし、これで死なれたりしても寝覚め悪いから……」

「……えっと、一つ質問」

 おずおずと手を挙げる勇者。

「どうぞ」

「あんた、もしかして女神様に召喚された勇者だったりする?」

「はぁ……」と、ここで溜息を吐くお姉。

「え、何そのウンザリって反応?」

「そりゃあ、ウンザリもするわよ。あなたは知らないでしょうけど、勇者勇者って何回も言われりゃねぇ……」

「行く先々?」と、勇者は首を傾げる。

「この前も『別の世界』で勇者って言われたわ」

「別の世界って……あんた、一体何者だ?」

「質問は一回じゃなかった?」

「えっと、もう一回だけ……ダメ?」


 勇者は両手を合わせつつ、まるでヒモ彼氏が彼女に甘えるような口調で言う。


「ま、別にいいわ。すでに答えてるから」


 ついつい甘やかす彼女のようなことを言いつつも、しっかりカウントしている辺りがお姉である。

 しかも、ちゃっかりも含めてたりする。


「あんた結構細かいな……」

「性分よ。それより、話をそらすってことは、このまま質問はスルーで良いってことかな?」

「す、すんませんっ、お願いします!」

「では、あなたの素性から教えてくれる?」

「へ?」と間の抜けた声を上げる勇者。

「礼儀の話よ。相手の素性を聞くなら、まず自分から明かすのが筋ってモンじゃない?」

「ごもっとも」と苦笑を浮かべる勇者ハルト。

「俺の名はさっき言ったがハルト、女神様に召喚されてこの世界に遣わされた勇者だ。あんたは?」

「あたしは千鳳ちどり、見ての通り女子高生よ」

「嘘だ!」

「ちょっと失礼ね! あたしのどこが女子高生に見えないっていうのよ!」

「いや、『ただの』の部分……普通のじぇーけーは、いきなりしない」

「別に『普通』とは言ってないわよ、あたしは『ただの』と言ったの」

「同じじゃん!」

「違うわよ、『ただ』というのは『取り立てて言う必要のない』ってことよ。『普通』というのは『どこにでもある、ありふれたもの』という意味で全く異なるわ!」

「そんなの屁理屈だろ!」

「言葉は正しく使いなさい。程度が知れるわよ?」

「な、何を……」と、言いかけてハルトは口を止める。

「いかんいかん。俺としたことが、この男みたいな女のペースに呑まれて危うく本題を忘れるところだった」

「あ?」と「男みたいな」という言葉に反応し、眉を跳ね上げるお姉。

「あなた、次あたしの事『男』呼ばわりしたら、宇宙にでもわよ?」

「い、いや、そんなトコに吹っ飛ばされたら俺死んじゃう」

「じゃあ、余計なことは言わないことね」

「はい、すみません……ていうか、あんたなんで俺の『絶対反射アンチマジック』が効かな……」


 そう彼が言いかけたところで

 具体的にはそう、空が暗転して空間に歪みが生まれた。


『こんなところにいたか……探したぞ、勇者ども』

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