キメラの子【短編】
三神しん
私、草薙 結菜は人間じゃない。キメラなの。
私はその日、自分の教室に再び戻ったのは普段机の中に置きっぱにしている教科書が必要になったからだった。
期限が明日までのあの宿題は教科書がないとどうしようもない。
そう悟った私はわざわざ自転車が15分かけて自宅から学校の教室まで戻ってきたのである。
「・・・何やってんの?」
私がそう問いかけたのは、教室に彼女がいたからだ。
窓際一番後ろの席である私。その前の席の女の子が彼女である。
授業中彼女の真っ黒い長い髪がいつも机を邪魔するので、そそっ・・・・とペンで彼女の背中をなぞると、くすぐったいのか、ムッとした顔を見せるので反応が面白い。私の数少ない友人だ。
「そーゆーあんたこそ何してるの?」
「いや、宿題出たじゃん?あれやるのにやっぱ教科書必要だなって思って取りに戻っただけなんだけど」
「ふーん、私は自分の部屋だと何かと集中できないからさ。全部終わらせてから帰ろうかなって」
「・・・あ、さいですか」
どこかドライな彼女。
クール系っていうの?でも、たまに私が間食にスナック菓子を食べてると猫みたいにジっと見つめてくるから「ほれほれ」ってやるとムスッとした顔しながら「・・・ちょうだい」って不貞腐れた顔で手をだして言ってくるから私はツンツンクーデレって思ってるけど、本人にいうと不機嫌な顔をするので言わない。
「あ、そだ。結菜に話そうと思ってたことあったんだ」
「ん?何?」
「結菜はさ。”愚者ここに極まれり”って知ってる?」
それは最近人気の独創的な音楽が魅力的な四人グループの日本のバンドだ。一度聞くとハマっちゃうような中毒的な曲ばかりだしていて、その中でも『ツギハギ』って曲はきっと結菜は好きだろうなって直感でそう思った。
「–––興味ない!!」
思っていた反応と違った。かなり語気が強くて荒々しい。
ムッとした顔を見たことはあるけど、あんなに鋭い目つきの結菜を見るのははじめてだった。
「・・・そ、そんな怒鳴ることないじゃん。いい曲だしてるんだって」
「いいから!私その曲興味ないから!」
「一回聞いてみてよー。いい曲だから」
「やめて!!!」
結菜の制止に従うことなく私はスマホで『ツギハギ』を再生した。
正直、想像もしていなかった事態がその時起こった。
彼女の身体は悲鳴をあげた。
これは決して比喩でもなんでもなく、そのままの意味で。
結菜の声じゃない、別の何かの奇声だ。
「・・・・え?」
私が唖然としていると結菜は涙目になりながら苦しみだし、何かを訴えようとしている。
そして–––––
結菜の身体は四方八方、肉片となって飛び散った。
想像できるだろうか。
たかだか曲を一曲流しただけで友人がバラバラにぶっ飛ぶなんてこと。そんなこと、誰が想像できよう。そして何よりも驚愕したことは、彼女の肉片をよく見ると、その身体はスプラッター映画なんかでよく見る真っ赤な肉片とは違い・・・・
「・・・ど、どゆこと?」
その一つ一つの肉片が半透明な触手を生やし、ウネウネとした変な生物となって蠢いているのだ。そして頭部の部分である結菜の頭は死んでおらず、口元はパクパクと何かを訴えている。
『–––––曲を止めて』
そう言っているように見えた。
私はその時、とんでもないことをしでかしたと思い、急いで自分のスマホから流れる曲を止める。すると結菜の身体の一部の肉片がニュルりと触手を動かし私のスマホを奪い取ると物凄い勢いで地面に叩きつけ、壊される。唖然とする私を他所に肉片同士は触手を絡ませ合い、お互いを引き寄せ合う。そして徐々に私の知る結菜の身体になっていく。
「・・・・最悪」
そう結菜がいう頃には彼女の身体は完全に結合が完了し、元の人の姿に戻っていた。
私は、夢でも見ていたのだろうか。
「ねえ、ちょっと」
「え?」
「いつまでこんな格好させるのよ」
「え?」
そういう結菜の格好は生まれたままの姿(と言っていいのかどうか、もう疑問だけど)、つまり裸なのだ。彼女の元々着ていた制服はなんだかよくわからない透明な液体でグチョグチョになっていて、着れたもんじゃない。
「あんた、いつも替えのジャージ。ロッカーに入れてるでしょ。貸してよ。こんな格好じゃ外出れないもん」
グスッと最後涙声だったのを聞いて私は女の子が丸裸で教室にいるっていう状況をなんとかしなきゃってことにようやく頭が回る。いや、それ以上にとんでもないことは起きているわけなんだけど。
とにかく私は急いでロッカーに行って自分のジャージをとってきて、彼女に着せることにした。
彼女はグスグス鼻をすすりながら私のジャージを身に纏う。
「・・・えっと、じゃあ、その・・・どういうことか説明してもらってもいいかな?」
「その前に電話いい?」
「え?」
「ママに電話しなきゃ」
「あ・・・うん」
なんだか異常事態すぎて私は頭がよく回っていなかった。
彼女は自分の鞄からスマホを取り出して”ママ”に電話をし出す。
そんな姿を横目に「あ、そういえば私、スマホ壊されたんだ・・・」ってことを思い出していた。
「あ、ママ?・・・うん。私。ママに言わなきゃいけないことがあってね。・・・うん。あのね。バレちゃった。友達に私の秘密。見られちゃったの。うん。わかった。連れて帰る。それじゃ」
「え?」
連れて帰るって・・・え?何?何が起きてるの?
もう私、頭がパニック過ぎてついていけないよ。
「あのね。私ね」
結菜は言いづらそうに口を開く。
目を伏せがちですごく言いづらいことを打ち明けているのが伝わった。
「・・・ただの人間じゃないの。人間なのは脳だけ。あとは全部、他の生物が繋がった群体生物。それが私。
そういう彼女の姿は窓越しに見える夕暮れに染められとても綺麗だった。
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