第41話慰めろ、弁慶
「弁慶殿。拙者、今回の対面で何度冷や汗をかいたか……」
「すまねえな、継信。お前には心配ばっかりかけちまった」
伽羅の御所を出てすぐ、黒づくめの継信が額を拭う動作をする。まあ、実際は顔も布で覆っているので、拭えているのかは分からないが。
継信はパタパタと着物の衿から空気を送り込む。
「なんにせよ、これからは秀衡様の御前であのような行動は慎むようにお願いするでござる。それが拙者や弁慶殿のためでござる」
「分かってる分かってる。気を付けるって」
そう言いつつ、俺の意識は背後の九郎にばかり向いていた。
先ほどの秀衡との対面から元気がないように感じられる。今は与一が何とか九郎を励まそうとしているが、どんな話題にも九郎は「ああ」とか「そうか」ばかりで反応が薄い。
やがて、九郎を慰めることを諦めた与一が、前にいる俺たちのところへやって来た。
「うーっ! 私にはくーちゃんを慰めることは出来ないというの……っ? 何度『それでは、秀衡様の代わりに私と子を作りましょ!』とか『くーちゃんが誰の側室になっても、与一はいつもくーちゃんの妾になる覚悟はあります』って言っても上の空だしっ!」
「それ、慰めるふりして全部自分のことしか言ってねえじゃねえか」
こいつもブレねえなあ。
しかし、九郎のことは確かに気がかりだ。
「あの様子じゃ、相当ショックを受けてるんじゃねえか? そっとしておいてやれよ」
「何? そのくーちゃんのことを分かり切っているみたいな態度! ほんと腹立つ!」
「俺にイライラをぶつけんなっつーの」
と言ったものの、やっぱり放っておくのは好くはないか。仕方ねえ。
俺は少し歩調を遅めて、九郎の横に並んだ。
「おい、九郎。大丈夫――」
「! ふ、ふんっ――」
……話しかけようとしたら、思いっきり首を振って避けられた。
「お、おい。どうしたんだよ?」
「……」
俺が話しかけても、ぶっすーとしたまま自分の髪を右手でくるくるしながら九郎は黙ったままだ。
い、いかん。なんとかせねば……。
「あ、あのだな。あの時は頭を押さえつけて悪かった! あれはお前の失言を止めようとしてのことだったんだよ。分かってくれ」
「……別に気にしておらん」
視線を合わせず、髪をいじったまま九郎はぶっきらぼうに答える。
「伽羅の御所で秀衡に盾突いたことも謝る! この通り! マジでごめん!」
「気にしてない」
ああ、取りつく島もねえ。
どうしたものかと右往左往していると、前方で与一が「ぷくくく」と笑っていやがった。
しかし、どうしたもんか。女の子の慰め方なんて全然知らねぞ、俺。
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