動機【1】
その後、晴香は夕方まで泣きっぱなしだった。
泣き止んだと思えばぼーっとしてるだけだし。いいのかなあ。
「いいわけないじゃん」
晴香の前では平気そうな顔を作ってた茜も、救護室の外に出ると浮かない顔だった。
「あれってやっぱり、相当ショックだよねえ……」
あの蛇男、ろくな奴じゃないみたいだし。
横田さんはたいした事を話したつもりも無かったんだろうけど、良く考えなくても彼氏が実はテロリストで大量殺傷兵器を作ってましたなんて話、たいしたことだと思う。ましてそれで何百人も死んでるなんて、悪夢でしかない。
「どうする?」
とりあえず、蛇男は横に置こう。問題は、晴香だった。
「あのまま落ち込んでちゃ、まずいよね?」
「そんな事言われたって……亜紀、なんかいいアイデア、無い?」
「あったら聞かないよぉ」
「そりゃそうだよねぇ」
ずっと晴香に付いていたからって、それで良くなるわけじゃないだろうし。今は一人になりたいみたいで、あたしも茜も部屋を追い出されたんだった。
「困ったな~」
そう言った所で、あたしのお腹がなった。
「亜紀、おなか空いてんの?」
「あ、うん。そういえば晴香、なんにも食べてないんじゃない?」
あたし達はおやつを食べたけど、晴香はファミレスでなんか食べただけ。そろそろ夕方だし、おなかも空く頃じゃないだろうか。
「うん、多分。でもあれじゃたぶん、食べそうにないよ」
「コンビニでなんか買ってくる?」
いつもはチョコクッキーで機嫌が直るけど、今日はそれだけじゃ済まないだろうなあ。やっぱり。そんなこと考えてたら、
「ここ、コンビニなんて、ないよ」
茜が冷静に突っ込んだ。
そうだった。どうしよう。
そう思いながら窓の外を見ると、空が赤くなっていた。あ~、そろそろ晩御飯だなあ。今日のおかずは何だったっけ。
とりあえず、現実から逃げてみることにする。
……何の役にも立たなかった。
「そういえばさ、晴香ってここに泊るの?」
役に立たないから、逃避するのを止めて現実を考えてみた。
軍医さんだという人はしばらく面倒見ると言ってくれたけど、夜中は思いっきり寂しくなりそうな場所だった。はっきり言って、ああいう状態の晴香を置いておきたいところじゃない。
「うーん、あたしらもそうだけど……どうするんだろ。兄貴がこっちで借りてるところ、そんなに広いとも思えないし」
「でもここに置いとくの、論外だよねえ」
「だよねえ」
考えてみても、やっぱり役に立ってない。
廊下のベンチに座り込んでるあたしらの前を、帰宅する人が通りすぎていった。
「なんだ、ここにいたのか」
いきなり声をかけられて顔を上げると、そこにいたのは雅之氏だった。
軍服姿の、御舘中尉。左手を、腰から下げた刀に添えていた。
「二人とも、ちょっと話があるんだが……私の部屋まで来てくれないか?」
「うん……晴香、どうしよう」
「
そういうことなら、まあいいか。ここにいたって、何が出来るわけじゃないのはたしかだった。
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