第10話 たられば

 おっさんになってきて、現実では「たられば」をあまり考えなくなってきた。


「もし俺に力があったら…」

「こんなことがなければ…」


 急に劇的な何かの力を手にしたり、事後で結果が覆るようなことを願ったり。

 そんなことはあり得ないし、起こりえない。

 残念ながらボクらの住む現実世界とはそういう世界なのだ。

 だからこそ「切磋琢磨」、「創意工夫」という言葉が輝くのだが、もちろん努力したところで必ず実を結ぶ世界でもない。

 現実世界は非情で、どこまでも「リアリティ」なのだ。「たられば」が入り込む隙はない。


 でも「お話」の中は違う。

「お話」こそ「たられば」が何よりも必要だ。


「もし、ボクに魔法が使えたら…」

「もし、もう一度青春をやり直せたら…」

「たられば」を形にしたのが「お話」なんだと思う。


 しかし、不思議だ。

 ボクらはあれだけ現実で「たられば」を突き離して生きているのに、「たられば」が形になった「お話」に夢中になる。

 笑ったり、泣いたり、感動したり…現実じゃないのに。


 そこからもっと不思議なことが起こる。

 お話に魅了された人たちが夢や理想を描いたりする。

 「あぁなりたい!!こうなりたい!!」

 自分を変えようと、世界を変えようと奮い立つ。

 現実はどこまで行っても「リアリティ」だけど、その中で生きる人間は決して「リアリティ」じゃないのだ。

 いろんな感情を秘めた不思議な生き物なのだ。

 

 こう考えていると、

 「うぉー!!たらればすげぇーーーー!!」

 という気持ちになってくる。

 なんだかんだ言って、みんな「たられば」が必要なんだと。

 ボク自身もそうだ。いくつになっても「たられば」を考えられる人でありたいと思う。

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