生徒会長選挙編13-19

「推薦人の安西湊さんありがとうございました。続いて生徒会長立候補者の1年2組の百瀬心さん、よろしくお願いします」


百瀬さんが立ち上がり壇上に向かおうとすると、湊ちゃんが百瀬さんの名前を静かに呼んでいた。


「ここちゃん、ここちゃん。カンペ忘れてるよ」 


湊ちゃんは慌てて百瀬さんの椅子に置かれていた紙を指さす。 声は聞こえなかったがおそらく演説用の紙を忘れていたのだろう。


「ああ、持って行ったほうが面白いかもね」 


少しだけ歩いた一ノ瀬さんは椅子まで戻り椅子の上の紙を持って再びステージの方に歩いていった。


「ご紹介に預かりました。百瀬心です。まず、推薦人の安西湊が話していた内容に驚いた人は多かったと思います。正直に言うと私も驚きました。安西の良さをなくしたくなかったので好きに話していいと言いいましたが、まさか推薦する人物のことをよく分からないと言ったり、悪口のようなことを言ってくるとは思ってもいませんでした。こんな予定ではなかったので用意してきたこれは何の意味もないですね」 


それだけ言い放ち、スピーチ内容が書かれているであろう紙を破り捨てた。 


真っ二つに破った紙に目もくれず百瀬さんは前を向き当たり前のように話し始める。


「推薦人の安西が言った通り、私は他人の心を見透かしたり、上級生に対して遠慮無く意見をいうタイプの人間です。そんな私が生徒会長に立候補した理由は、自分の力で学校生活をよりよくしたかったからです。生徒のためという気持ちが全くないと言えば嘘になりますが、自分のためというのが一番大きな理由です」 


「放送演説で宣言した学習設備の強化は『自習室を利用した時にコピー機があれば便利なのに』、『放課後しか解放していない自習室を昼休みにも利用したい』などの自分の経験から思いついた公約であり、文化祭や体育祭を2年かけてよりよくしていきたいというのも全て私のわがままです。


安西の言葉からもわかる通り、私は1年生だからといって発言を控えたりすることは絶対にありません。良くないものは切り捨て、良い物はいくら批判されようが取り入れたり全校生徒に提案をします。 


例えば、先ほど一ノ瀬さんが仰っていた雑談ボックスは素晴らしいと思います。なので私が生徒会長になったらその雑談ボックスも設置します」 


「人の意見をパクるのは良くないという意見はもちろんあると思います。私自身も多少はそう思っています。しかし良いことだと分かっている物を他人の評価や評判を気にして実行しないことのほうが愚かです」


「雑談ボックスのように、得意な分野がある人間に相談を行なえるというのは素晴らしいと思います。 一ノ瀬さんは社会経験、花宮さんは勉強が得意分野だとしたら、私の得意分野は占いと人生相談です。 私の両親は占い師で、私自身も時間のある時は父と母の会社で占いの仕事をうけもっています。そのためプロと言っても差支えないでしょう。そんな私が占いや人生相談に乗るのは生徒にとってはプラスになると思います」 


世界一堂々と一ノ瀬さんの公約をパクり、全校生徒の前で宣言をした。一ノ瀬さんも放送演説の時に同じ事をしたが、パクっていると他の人にばれないように少しだけ内容を変えていた。 


しかし百瀬さんはそのままパクり、尚且つその公約を自分がやる際のメリットまで提示した。 


人の公約をパクるのは当然の様に非難される行為だろう。それでも良いと思ったものは提案したり採用をする。実際のところ生徒からしてもプロにタダで相談や占いをしてもらえるのはメリットしかなくやってほしいと思っている人は多いだろう。 


パクりながら堂々と話し、自分の公約のようにしてしまった。少なくても僕とは精神構造がまるで違うということがわかる。 


一ノ瀬さんが放送演説で百瀬さんの内容に被せたのを僕と花宮さんは気にしていたが百瀬さん自身は全然気にしていなかったのだろう。 


こうなると薄々わかっていたが、演説前に百瀬さんが話しかけてきた時には既にこの展開をある程度考えていたのだろう。いや、もしかすると百瀬さんなら放送演説の時には気づいていたのかもしれない。


演説用の紙を破り捨てたのも只の演出。一ノ瀬さんよりも演説の順番が後ろになった時点でこうなるということは気づくべきだった。


どちらかが正当派になるともう片方が奇抜なことをする。

二人とも勝ちにこだわり、批判を厭わない。前からわかっていたが、本当に一ノ瀬さんと百瀬さんは似た者どうしだ。


「このように私はひねくれもので、面倒くさい人間ですが面白いことを期待している方は私に清き一票を、いいえ面白半分で良いので票をいれてください。必ず楽しめる学校にします」


それだけ言い残し、百瀬さんは軽く礼をして何食わぬ顔をして、ステージからおりた。


皆が困惑し拍手をためらっていると、選挙関係者席の湊ちゃんと一ノ瀬さんが笑いながら体育館中に響く拍手をした。

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