生徒会長選挙編13-16

資料の準備で徹夜したこともあり、朝礼が終わり教室に戻り席に座るとすぐに寝てしまった。


「伊澤ちゃんそろそろ起きな」


肩を揺らされ、意識がはっきりすると会田さんが目の前に立っていた。


「おはよ。随分寝たね~」


「おはよう。あれ、今何時間目?」


「3時間目が終わったところ。次は体育だから流石に起こしたの」


「そんな寝てたんだね」


「うん、朝の件があったから先生も声をかけなかったみたい。もちろん私たちも声をかけなかったしね」


どうやらみんなに気を遣わせてしまったらしい。

たしかに普通に考えれば、今まで計画していた企画が却下されただけではなく、僕のミスで一ノ瀬さんの公約まで潰してしまったように見えていたはずだ。それで僕が凹んでいたように見えて、そっとしていてくれたのだろう。


実際の所は作戦を練る時間と資料の作成で徹夜したので、ただ睡魔に襲われただけだった。


「あとさっきの休み時間に一ノ瀬ちゃんが来て伝言受け取ったよ。『昼休みに生徒会室に来てください』だって」


「そっか、ありがとう」


「うん、頑張ってね。私もみんなが仲良いほうが嬉しいから」


「うん、ありがとう」



昼休みになり神無と一緒に生徒会室に向かうと既に花宮さんと一ノ瀬さんが生徒会室の前に立っていた。


急いで鍵を開け、いつもの席に座ると一ノ瀬さんが口火を切り出した。


「伊澤先輩、どういうことなのか説明してもらってもいいですか」


いつもの一ノ瀬さんとは違う元気のない声色。表情を見ても一ノ瀬さんと花宮さんの元気がないことがわかってしまう。


「ええっと……今回は一ノ瀬さんが悪いというよりは百瀬さんの案に被せたり、生徒全員に嘘をついたのが悪かったから、その公約自体を一回白紙に戻せばもう一度やり直せるかなって」


僕が説明すると花宮さんが哀しさと怒りが混じったように静かに口を開いた。


「それはそうですけど、なんで全部一人でやっちゃうんですか?嘘の書類を1日で作ったり、責任を全部被ったり。体調もあまり良さそうではなかったし、今まであんなに頑張って生徒会の仕事をして来たのに今回の件で先輩の株だけが下がりましたよ」


「体調は只の寝不足だったからもう治ったよ。それに僕の株なんてそれこそどうでも良いよ」


僕に対する先生や他の生徒の評価なんてはっきり言ってどうでも良い。それよりも生徒会のメンバーの仲が悪くなってしまうことのほうが何倍も嫌だった。だからこれは完全に自分のエゴだ。


「とにかく自己犠牲は駄目です。先輩は良くても、先輩の周りの人は傷つきますから。今後はそんなやり方はやめてください」


今度は一ノ瀬さんに怒られてしまった。本当に僕は先輩の威厳がない。


自惚れでなければ一ノ瀬さんがこれほどまでに勝ちに拘っていたのは、僕が百瀬さんに男バレしたのを口封じするためだろう。


もしそうならば、一ノ瀬さんのほうが責任を全部自分で背負って自己犠牲の塊のようなことをしていた様な気がする。


「それは麗ちゃんもだよ」


僕の言葉を代弁するように花宮さんが突っ込みをいれた。


「私のは違う。ただ勝ちたかっただけ」


「麗ちゃん」


素直になれない一ノ瀬さんを今まで聞いたことのないような大声で呼んだ。


「は、はい」


驚いて思わず一ノ瀬さんがシュンとしてしまった。いつもの凛とした表情ほなりをひそめ、不安そうな顔で花宮さんのことをじっと見つめた。


「私は推薦人をやりたい。麗ちゃんともう一年生徒会をやりたい。私が支えるからもう自分一人で突き進まないで」


花宮さんの真っ直ぐな言葉を受けて、一ノ瀬さんの目に涙が滲み出た。


「葵ごめんね。私もあんなこと言ったけど本当は推薦人は葵しかいないと思ってる。今度は正々堂々と勝負する。もう一回助けてくれる?」


「うん」



やはり、お互いが素直になればこんなに簡単に仲直りをすることができる。



「十川先輩も色々とすみませんでした。作って貰ったポスターもボツになってしまって」


「気にしなくていい」


静かに一ノ瀬さんと花宮さんを見ていた神無だったが、突然ポケットから紙を取り出した。


「どれがいい?」


神無が取り出した数枚の紙には新しいポスターのラフ案が書かれていた。


「神無いつの間に作ってたの?」


「授業中。私も何かしたかったから」


神無なりの照れ隠しなのか、それだけ言って生徒会室のお菓子ボックスの方に向かって行った。


「ありがとうございます、十川先輩。それに、伊澤先輩もありがとうございました」


一ノ瀬さんは僕と神無に頭を下げてお礼をする。


「あとは私と葵が正々堂々と勝負して勝ちます」


頭を上げた一ノ瀬さんの表情はいつもの凛とした顔に戻っていた。

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