生徒会長選挙編13-15

「やっと終わった…」


一ノ瀬さんに電話をしてから色々な書類を作成するまでに朝の6時までかかった。だが終わったのだから何も問題はない。あとは生徒会顧問の姉さんに話をつけるだけだ。


「姉さん、起きてる?」


寮長室のドアをノックし姉さんを起こす。

起こすと言っても朝食の準備をするためおそらく既に起きてはいるはずだ。


「ええ、どうしたの?」


姉さんはドアを開け部屋に入れと、手招きをする。


僕がこんな朝からここに来るはずがないと察してくれたのか、あっさりと話を聞いてくれた。


「一ノ瀬さんの選挙演説で言っていた僕達が進めてた計画のことなんだけど内容が不安で。ちょっと見てくれる?」


「まあ軽くならいいけど優からこんなことを言うなんて珍しいわね」


僕が作った30枚程度の資料を5分ほどで見た姉さんは頬杖をつき、呆れた顔で僕を見た。


「花宮さんの元気が無かったからなんとなく察しは付いていたけどそういうことね。一日で作ったにしてはいいデキだけど」


僕の計画は完全にばれていた。


「1日?そんな訳…」


「まあ、追及はしないわ。優はそれでいいの?」


もう姉さんに対して、しらばっくれても何の意味は無いことはわかっていた。そもそも姉さんを欺くのは無理だった。


「うん、僕の頭じゃこれしか思い付かなかったし」


溜め息を付き姉さんは僕の頭を撫でた。


「ならいいけど、これを出したら私は助けられないわよ」


「うん、それでいいよ」


今日は週一回ある職員会議。

そして、金曜日ということもあり、全学年の共通のLHR(ロングホームルーム)を使っての全校集会も行われる。


何もない時は土日の過ごし方などを校長が延々と説明するだけだが朝の職員会議で議題が上がったときはその議題の結果について説明される。


そのために徹夜までして、あたかも今まで進めてきた計画であるような書類を作成した。


「まあ、今日出してきたってことはそういうことなんでしょうね。あとは何とかしなさい」


「うん、ありがとう」


それだけ言って僕は寮長室のドアを閉めた。



学校に着き、僕は自分の席で予想しているアクションが来るのを待つ。


チャイムが鳴り終わると僕が待ち望んでいた音が学校中に鳴り響いた。


ピンポンパンポン


「生徒会顧問の伊澤です。3年2組の伊澤優さんは至急職員室に来て下さい。尚、予定されていた全校集会については予定通り行われますので8時50分になりましたら、担任の指示の元、体育館に集合してください」


突然の放送での呼び出しに3年2組の教室はざわめきたつ。


無言で職員室に向かおうとすると神無が僕に近づき顔を両手で鷲掴みにされた。


「あっ」


計画をばらすまで神無とは目を合わせないつもりだったのに、見られてしまった。

当然、この体勢になれば何もかも神無にはばれてしまう。


「そうすると思ってた」


溜め息を付き、悲しそうな顔で僕だけを見る。僕の性格をよく知っている神無は目を見る前から既に僕が何をしようとしているかはわかっているようだった。


「ごめん、神無。こんなことしか思い付かなくて」


「何もできなかった私よりマシ」


それだけ言って手を離し神無は自分の席に戻っていった。



職員室に向かうと僕の作った資料が全ての教師の手に渡っており、ホワイトボードには多数決をとったであろう跡と却下と書かれた文字が書かれていた。


僕が姉さんに提出した資料はハロウィンなどのイベントの時に全校生徒で仮装して授業をうけ、その後町内を練り歩くというもの。


校則の緩い進学校では実際に行われていたものだ。


この堀江学園は校則自体はかなり緩い。

しかし、将来の社長令嬢や重要なポジションに付く人間が多く輩出されるこの学校でそんなことをすれば、スマホのカメラなどで撮られる可能性があり、その後の人生に悪影響がでる可能性がある。

そんなことはこの学園が許すはずがない。


それも見越して、一ノ瀬さんが放送演説で言った嘘の計画として提出をした。


「伊澤さん、この計画は受理できない。今日の全校集会で却下したと全校生徒に知らせる」


校長が職員室のドアの目の前にいる僕の肩を掴み渋い顔をして僕が思い描いていた言葉を言ってくれた。



全校集会が始まり、僕が仕掛けた話題が生徒会顧問である姉さんから説明される。


「昨日、生徒会選挙の放送演説で一ノ瀬さんから説明されていた現生徒会で進めていた計画を引き継ぐという話ですが、現生徒会長である伊澤さんに現在進んでいる計画を提示するように求めたところ、この学校では認められない箇所がありました」


「詳しくは現生徒会長である伊澤優さんから説明してもらいます」


「生徒会長の伊澤優です。生徒会顧問の伊澤先生からお話があったとおり、以前から進めていた計画に関して重大な不備がありました。全校生徒並びに、この計画を受け継いでくれようとしていてくれた一ノ瀬さんに大変申し訳ないことをしてしまったと反省しております。この度は申し訳ありませんでした」


体育館のステージの上で頭を下げる僕を見て全校生徒はざわめきたつ。


「先生方と話し合った結果、一ノ瀬さんには別の公約を立てた上で選挙に参加するか辞退するか決めていただくことになりました。期限は3日後の月曜日の放課後です」


ただ謝るだけでは、確認せずに計画を受け継ごうとした一ノ瀬さんに、非難が来てしまう。

だからこそ全校生徒が望まないであろう辞退という言葉も付け加えた。

これで非難よりも辞退しないでほしいという声が勝つはずだ。


一ノ瀬さんは勝つために手段は選ばず、完膚なきまでに勝つことを好む。

僕もそのスタンスは嫌いではない。負けると手に入らないものはたしかに存在する。


だが今回は内容が悪かった。嘘で全校生徒を期待させ、精一杯考えたであろう百瀬さんの案をパクって模倣した。さらにそのせいで親友の花宮さんを怒らせた。

それはどうしようもない事実だ。


だからその内容自体を一回ぶっ壊す。


そしてそこからは一ノ瀬さんに丸投げをする。


また同じことをして花宮さんに嫌われたとしたら諦める。

だが一ノ瀬さんはそんなことはしないと信じている。


正々堂々と勝負をしても僕は一ノ瀬さんが百瀬さんに負けるとは思えない。だから、喧嘩の原因である公約を壊し、普通に花宮さんを推薦人にして、普通に選挙に勝ってもらう。


それが僕が考えた作戦。


結局有りもしない計画があったと全校生徒に嘘をつき、尚且つそれが実現しないという喪失感を与えてしまった。

誰も得をせず僕自身の株もさがる最低な作戦。


だがやり直すにはこれしかなかった。


「今回は本当に申し訳ありませんでした」


再び謝り顔を上げ2年生の方を見るとしかめっ面で僕を見る一ノ瀬さんと花宮さんが目についた。

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