生徒会長選挙編13-17

今日は選挙とミスコンの日。

選挙の準備をするために生徒会と立候補者が体育館に集合している。


選挙で百瀬さんが勝てば男だということをゆすられて百瀬さんのおもちゃにされる生活が待っているだろう。


ミスコンで神無が湊ちゃんに負ければ僕は神無と別れないといけなくなる。


人生の一大事と言っても過言ではないが僕に出来ることは何もない。


今日の生徒会長選挙の司会進行は現生徒会長の僕が行なうことになっている。進行をグダグダにしないようにすることで花宮さんと一ノ瀬さんの集中力の邪魔をしないようにするくらいのことはできるかもしれないがその程度のことしかできないのは情けない。


「伊澤さん、ちょっと良いですか?」


「百瀬さん…」


百瀬さんはコールドリーディングの天才。できれば生徒会選挙が終わるまでは離したくなかった。


「一ノ瀬さんの前の公約にあった引き継ぎたいことっていうのは本当にあったんですか?」


駆け引きなどまるでないド直球な質問に思わずたじろいでしまった。


「当たり前でしょ。正式に職員会議で却下されたものなんだから」


僕の目を見て百瀬さんはくすりと笑う。


「それはそうですよね。変なことを聞いてすみません」


それだけ言って百瀬さんは選挙演説の練習に戻っていった。



練習はつつがなく終わりあっという間に本番の時間となった。


「ではこれから生徒会長選挙を開催します」


僕の司会で生徒会長選挙が始まる。


選挙のルールなどを生徒に説明するとすぐに1番目の推薦人の出番になった。


放送演説と違い、選挙演説の順番は教師がくじを引いて決める。

一ノ瀬さんは1番目、百瀬さんは2番目となり、放送演説の時とは逆の順番になった。


「2年2組一ノ瀬麗さんの推薦人の花宮葵さん。よろしくお願いします」


堂々とした足取りでステージに向かっていき、演台のところで立ち止まると全く物怖じせずに花宮さんは話し始める。


「2年2組の花宮葵です。私が一ノ瀬麗の推薦人になったことに大きな理由はありません。ただ単純にこの学校で一番生徒会長にふさわしいと思ったからです。


私が言うまでもなく、彼女は家柄、容姿、学力など多くの人が羨む才能を持っていると生徒全員が感じていると思います。ですが私がふさわしいと思った点はそのような表面的な所ではありません。


そして、彼女は決して皆さんが思っているような才能を持っている天才ではありません。


彼女は努力家で負けず嫌いです。勝ちにこだわりすぎるせいで失敗した姿を私は何回も見てきました。


負けるのが嫌いすぎて陰で勉強や運動など様々な努力をしています。


才能が無いとは言いませんが、その努力こそが今の一ノ瀬麗を形作っているものです。


そんな誰よりも努力してきた彼女だからこそ生徒一人一人が苦労していることを理解し、より良い学園生活が送れるようにしてくれると確信しています。是非彼女に清き一票をよろしくお願いします」


花宮さんが話し終わり、礼をすると拍手が体育館中に響いた。


花宮さんがステージから降りて、席に戻ると小声で一ノ瀬さんに何かを呟いていた。一ノ瀬さんもそれに対して微笑んでいるのが見えかなり安心する。やはり勝ち負けよりも二人が仲良くしているところが見られて本当に良かった。


だが、いつまでも二人を見ている訳にはいかない。僕の役目は円滑に選挙演説を進めることだ。


「推薦人の花宮葵さんありがとうございました。続いて生徒会長立候補者の2年2組一ノ瀬麗さん、よろしくお願いします」


花宮さん以上に堂々とした振る舞いで壇上まで歩いていく。元々の人気もあるが、歩いているだけでモデルとしての立ち振舞いがあらわれていてそれだけで生徒を魅了する。


「只今ご紹介に預かりました2年2組の一ノ瀬麗です。私が生徒会長に立候補した理由は、生徒会にいたこの一年間が楽しかったからです」


美しい立ち振舞い、誰もが嫉妬するような容姿。


生徒全員が一ノ瀬さんに注目していると、大人びた一ノ瀬さんからは想像もできない、小学生のような第一声が飛び出した。

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