生徒会長選挙編13-14

花宮さんが泣いているのを僕と神無はただ見ていることしかできなかった。


「優、ごめん」

「なんで神無が謝るの?」


花宮さんが部屋に戻り、二人きりになると神無が下を向きながら呟いた。


「麗を止められなかった…」


「大丈夫。僕が何とかするよ」


「どうやって?」


僕の言葉が気になったのか、僕の顔をじっとみると神無は声にならないような溜め息をついた。


目が合ったせいで、何の策も無いことをあっさりと見抜かれてしまった。


「それは今から考えるから。とりあえず僕も部屋に戻るよ」


「私も行く」


「ごめん、一人で考えてみるよ」


「…わかった」


神無に背を向き目を見られないように2階に向かったが渋々納得してくれたと言うことが手に取るようにわかった。


部屋に戻りベッドに寝転がって仲直りの方法を考えるが何も思い付かない。

本当は神無にも知恵を借りたかったが見えすぎる神無に聞くと神無を傷つけてしまうかもしれない。

もう自分で策を絞り出すしかない。


花宮さんが怒ったのは百瀬さんの公約をパクり、ありもしない現生徒会の計画を発表したこと。


それのせいで一ノ瀬さんが生徒会長になった時に新役員に多大な負担がかかること。


はっきり言ってこれはどう解決してよいかわからない。


手っ取り早い解決方法は、本番の選挙の演説であの放送演説で説明した内容は嘘だったと、全校生徒の前で一ノ瀬さんが言えば花宮さんとは仲直りできるかもしれない。


しかし、その場合は100%選挙には落ちる。それだけではなく一ノ瀬さんに対しての全校生徒の信用度が下がる。

そんなことはさせるわけにはいかない。

一ノ瀬さんの評価を落とさず、花宮さんと仲直りをさせる方法は無いだろうか。


そんな都合のいい方法があるわけが…

いや、一つだけある。この方法を使えば何とかなるかもしれない。


ベッドから飛び起き、すぐに一ノ瀬さんに電話をかけようと思ったがギリギリのところで止まることができ、別の相手に電話をかけることにした。


「ごめん、今大丈夫?」


10年来の友達である安西聡。

めったに僕から電話をかけることはないがこういう時には本当に頼りになる。


「ああ、珍しいな。湊がなんかやったのか?」


いくら何でも妹への信頼感が無さすぎる。僕に告白したり、神無とミスコンで勝負したりはしているが今はその話をしたいわけではない。


「いや、そうじゃないんだけど相談したいことがあって」


「なんだ?」


それから10分ほどかけて、今までのことと思いついた作戦を全て説明した。


「そのやりかたじゃ何の解決にもなってないだろ。まあ、やり直しはできるかもしれないけどな。結局それをお前がやってもその二人次第だしな」


「でも、仲直りできる可能性があるのはこのやり方しか思い付かない。でも結局全校生徒を騙すことになるし、これ以上ないくらいやり方も汚い」


「思い付かないならそれをやれば良いんじゃね?」


「えっ?」


「お前は女子校にいる時点で、全校生徒を騙しているわけだし今さらそんな事きにすんな。それよりも、守りたいものを守れよ」


「ありがとう。電話してよかったよ」



総に電話して落ち着いた頭で決心すると、一ノ瀬さんが今仕事かもしれないということに気がつき、東雲さんにメールで一ノ瀬さんの空いている時間を聞くことにした。


それから数分後に東雲さんからメールの返信がきて一ノ瀬さんの余裕のある時間を教えてくれた。



作戦に必要な書類を作成しているといつの間にか東雲さんに教えてもらった時間になっていた。


緊張しながら電話をかけると数コールしたあとに一ノ瀬さんが電話に出た。


「伊澤先輩から電話なんて珍しいですね」


「うん、話さないといけないと思ったから。オブラートに包まず言うけど、花宮さんを推薦人から降ろすっていったのは本心ではないよね?」


「葵が辞めるというなら別にいいです。それで生徒会に葵が入ってくれなくても仕方がないと思っています」


神無や百瀬さんのような超人的な力を持っていなくても一ノ瀬さんの強がりだということがわかってしまう。

声を聞くだけで先程まで泣いていたことが伝わってくる。


「本当に?僕は生徒会で二人が仲良くしてるのが好きだったよ。僕の身勝手だけど仲直りしてほしい」


それからしばらくの間お互い何も話さなかったが電話越しにすすり泣きが聞こえてきた。


「うぅ、本当は嫌…。どうやったら仲直りできるの…」


やっと一ノ瀬さんの本心を聞くことができた気がした。これなら何とかなるかもしれない。


「僕に任せて。でも、一ノ瀬さんの口から本当は推薦人をやめてほしく無いっていうことだけは花宮さんに素直に伝えてほしい」


「わかりました」


本当に良かった。

花宮さんが一番傷ついたのは間違いなく辞めるといったときに引き留めてくれなかったことだ。一ノ瀬さんが素直に謝ってくれればそれだけで解決するだろう。

あとは僕が余計なことをするだけでいい。


「うん、でも花宮さんに謝るのは明日の放課後まで待って」


「伊澤先輩、何をするんですか」


「まだ言えないけど大丈夫。じゃあまた明日」


僕はそれだけ言って電話を切った。

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