生徒会長選挙編13-13
今回の話は一ノ瀬麗の使用人の東雲視点になります。
車で麗様を迎えに来たが、寮から出てきた麗様は唇を噛み、眉間にシワを寄せており、明らかに様子がおかしかった。
そもそも、本来の待ち合わせ場所は寮ではなく学校のはずだった。
学校で麗様をお迎えに上がり、余裕をもって仕事先に行く予定だったが、伊澤さんや友達の花宮さんがいる寮に来てくれとメールが入った。
仕事までの僅かな時間を先輩や友達と過ごしているのかと思っていたが寮から出てきて車に乗った麗様はそんな楽しそうな雰囲気ではなかった。
「麗様どうされましたか?」
「何でもない。仕事までに切り替えるからそれまで話しかけないで」
それだけ言って、膝に腕を置いて、顔を伏せてしまった。
「はい、承知致しました」
麗様は仕事には私情を一切持ち込まない。伊澤さんをモデルに誘ったのも同じ学校だったからではなく、モデルとして魅力的だったからだ。
いつも仕事とプライベートを自然と分けることができている麗様が、わざわざ切り替えなければいけないというのは、何かあったのだろう。
だが話しかけることもできないので、そっとしておくしかない。私の仕事はここで話を聞くのではなく、仕事場まで遅刻せずに送り届けることだ。
気になるが車の運転に集中するしかない。
お互いに一言も話すことなく、もうすぐ仕事場に着くという所で麗様が顔を上げた。
「よし、切り替え完了」
私にいった訳ではなく、恐らく独り言だがルームミラー越しに見える麗様はいつもの凛とした顔付きに戻っていた。
「東雲、仕事が終わって家に着いたらすぐ部屋に来て」
仕事場に着き、車から出る直前に麗様がボソッと呟いた。
「はい、かしこまりました。いってらっしゃいませ」
*
麗様は驚くべきほどいつも通りに、仕事をこなしていき、そのおかげで順調に仕事が終わり、いつもと変わらない時間に家に着いた。
一ノ瀬家の車庫に車を入れ、急いでお茶の準備をして麗様の部屋に行きノックをしたが、返事はなかった。
「麗様開けますよ」
返事がないので勝手にドアを開けるとベッドの上でうつ伏せになっていた。
「麗様が呼んだのですから起きてください」
「起きてるわ…」
枕から顔を離して起き上がると目が充血していた。
「そんなに泣き腫らして可愛い顔が台無しですよ」
「うー…葵に嫌われた。伊澤先輩にも」
「何があったんですか?」
それから私は生徒会選挙の演説で後輩の内容をパクったこと、嘘の内容を話したこと、それのせいで花宮さんと険悪な雰囲気になってしまい売り言葉に買い言葉で花宮さんに推薦人を辞めてもかまわないと言ってしまったことを聞いた。
「麗様が悪いですね」
私の言葉を聞き再びうつ伏せになってしまった。
「だいたいなんでそうなってしまったんですか。本末転倒じゃないですか」
麗様が生徒会長になる理由は、現在の生徒会が楽しくて少しでも長く一緒にいたいからだったはず。
「そんなのわかってるけど勝たないと一緒にいられないと思ったの」
「一年生の子が生徒会長になっても現生徒会のメンバーを全員誘うって言っているんですよね?なら負けてもいいじゃないですか」
麗様の役職が変わるだけで、今の生徒会のメンバーが集まるなら別に負けてもよいはずだ。
「伊澤先輩に勝つと宣言したから勝たないと駄目。それに私が負けたら、負けた奴には興味ないとか言って百瀬さんが、私だけ生徒会に誘わないっていう可能性もあるわ。だから私は勝たないといけないの」
確かにその可能性はゼロではないがこのままでは百瀬さんに勝ったとしても意味が無いのではないだろうか。
「でも、今の話聞いてると麗様が勝っても花宮さんは役員になってくれないのでは?」
「何でそんなこというの?」
起き上がりこちらを向いた麗様は、もはや隠す力もなくポロポロと涙を落としていた。
「すみません、言い過ぎました」
麗様が既に理解していたことを口に出してしまった。
「葵を傷つけちゃった。もう許して貰えない。どうしよう…」
かける言葉が見つからずお互いに沈黙していると、麗様の携帯の音が部屋中に鳴り響いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます