生徒会長選挙編13-10

今日は放送演説の日。


本来ならば現生徒会長の僕か副会長の神無のどちらかは、放送室にいく予定だった。


しかし、僕らの代わりに花宮さんが放送室に行くと言ってくれたので、僕、神無、会田さんの三人で昼御飯を食べながら、教室で放送を聞くことができることになった。


生徒会長は来年の6月まで任期があるので、3年生は選挙に立候補できない。

さらに、常識的に考えて入学してから2か月ほどしかたっていない1年生も立候補しないため必然的に立候補者は2年生だけになる。


だが今年は百瀬心というイレギュラーな1年生が立候補している。


唯一の1年生である、百瀬さんはポスターが貼り出されて以降、注目の的だった。


そのため、学年1位の成績で入学したことや入学式の新入生代表で大立回りをしたことが全学年で噂になっていた。


その結果放送演説の段階で既に今回の生徒会選挙の本命は一ノ瀬麗。百瀬心の二人となっていた。


本番の選挙までは2週間あるが、この放送演説によって選挙の結果は大きく左右されるだろう。


「放送委員の佐藤です。本日は2週間後に行われる、生徒会長選挙に立候補した10名の放送演説となります。早速ですが、立候補者の演説となります。1人あたり2分以内で演説をしていただきます。1年2組の百瀬心さんです」


「お、いきなり百瀬ちゃんかー」


学年ごとに五十音順だから、一人だけ一年生の百瀬さんは最初になる。

百瀬さんに興味津々の会田さんはお弁当を食べる手を止めていた。僕も百瀬さんがどんな話をするのか気になるので、真剣に聞こうとしていたがマイペースの神無はチョコを食べながらボーッとしている。



「1年2組の百瀬心です。まずはっきりと言いますが私は1年生です。私以外は全員2年生なので、他の立候補者と比べて頼りないと思われているかも知れません。


それは変えようのない事実ですが、そんな私だからこそできることもあると考えています。

1年生の私だからこそできること。それは、今年度と次年度、2年連続で私が生徒会長をやり、2カ年計画で生徒会の公約をたて、それを達成することです。


2カ年計画と聞くと、3年生は損するかもしれないと考えていると思います。ですが私が生徒会長になった暁には、オブザーバーとして伊澤優さんと十川神無さんを迎え、役員として、現生徒会役員である、一ノ瀬麗さんと花宮葵さんに入っていただきます。 


そのため3年生には今までの生徒会のクオリティを担保することができ、1、2年生には2カ年計画で他の生徒会立候補者よりも、質の高い公約を実現できると確信しております。


誰とは名言することはできませんが、私の選挙ポスターを作ったときに生徒会の方々と仲良くなったので、私にはこのメンバーを集めることができます。


その生徒会役員と協力して、文化祭や体育祭、修学旅行などの学校行事と学習環境の整備を2カ年通して強化したいと考えております。


時間が少ないためここでは詳しい公約については説明できませんので、本選挙の時に改めて詳しい公約について説明致します。


以上で私の放送演説を終わります」


「はい、2分となりました。百瀬さんありがとうございます。続いて安部さん。よろしくお願いします」


「やっぱり心は上手い」「百瀬ちゃんはずる賢いね~」


たしかに堂々としていて聞きやすかった。生徒会長選挙で詳しい公約も聞きたくなった。ただ二人が褒める程の出来栄えだったのだろうか。去年僕がやった放送演説と同じくらいの気がする。百瀬さんだったらもっと奇抜なことを言うと思っていた。


「そんなにすごかったかな?」


「うん、すごいよ。人は自分で突き止めたことは信じちゃうからね」


「どういうこと?」


会田さんが何を言っているのかが理解できず、百瀬さんの次に出てきた安部さんの演説を一切聴かずに会田さんの話を聞いてしまっていた。


「去年の伊澤ちゃんのポスターを作ったのが神無ちゃんってのはほとんどの人にばれてるよね。

そして、クオリティー的にどうみても一ノ瀬ちゃんと百瀬ちゃんのポスターは神無ちゃんが作ったものでしょ?

でも百瀬ちゃんはわざとぼかして、それを伝えた。

つまり、神無ちゃん、一ノ瀬ちゃんとは仲が良いですよってことを直接言わずに匂わせたってこと」


「な、なるほど」


たしかに、真実はともかくそう信じる人は多そうだ。


「それに、3年生は現状維持を望む。1、2年生は今よりも面白いことを期待してるっていうのも間違いないんじゃないのかな」


たしかに、あと1年しか学校にいない3年生にとっては一か八かの変革よりも、今までとほとんど変わらない生徒会のメンバーを集めることができそうな百瀬さんに投票しようと思うだろう。1、2年生としても2年間生徒会長をやる百瀬さんに期待の意味も込めて投票するかもしれない。


「これはこの後の立候補者は全員大変かもね」


「え、どういうこと?」


「オブザーバーの制度で誰でも伊澤ちゃんと神無ちゃんを呼ぶことはできるけど、同級生とは言え、他の2年生が花宮ちゃんと一ノ瀬ちゃんを生徒会に誘えるとは思えないよね。

一ノ瀬ちゃんはモデルで花宮ちゃんは学年1位。二人とも親しみやすいというよりは、尊敬や凄すぎて近づけない対象だからね。百瀬ちゃんのやってることは虎の威を借る狐だけど、他の立候補者はその虎の力すら借りれないってこと」


「たしかに花宮さんと一ノ瀬さんを役員に誘える人はいないかも。でもそれなら一ノ瀬さん本人が生徒会長をやるのと変わらないよね。一ノ瀬さんが生徒会長になれば花宮さんも当然役員になるだろうし」


「それも微妙なところなんだよね。3年生からしたら対して変わらないけど来年も百瀬さんが生徒会長をやるのを見越して考えると、今百瀬ちゃんが生徒会をやった方が将来的に良い生徒会になりそうじゃない?」


たしかにそうかもしれない。だが、僕にはどうしても百瀬さんが僕と神無がいなくなった次の年も生徒会長をやるとは思えなかった。


「はい、2分となりました。安部さんありがとうございます。続いて一ノ瀬さん。よろしくお願いします」


百瀬さんのことを会田さんと話していたら安部という立候補者の話を聞けなかった。だが、教室の他の人の反応を見た限りでは百瀬さんの敵にはならなそうな出来栄えだったようだ。


「ご紹介に与りました。2年2組の一ノ瀬麗です」


そして選挙の本命である一ノ瀬さんの番になった。

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