生徒会長選挙編13-9

横を向くと機嫌が悪そうに腕組みをしている一ノ瀬さんが立っていた。

後輩とはいえ、今生徒会長選挙で話題の一ノ瀬さんが急に来たことで教室がざわめく。


「一ノ瀬さん何でここにいるの?」


百瀬さんといい、一ノ瀬さんといい当たり前のように先輩の教室に堂々と来る精神力はすごいと思う。


「先輩達が喧嘩しているからですかね」


一ノ瀬さんは溜め息をつきながら、会田さんの横の席に腰を掛ける。


「何で知ってるの?」

「学校中の噂になってますよ」


「まあ、あんな目立つ場所で喧嘩したらそうなるよね。一ノ瀬ちゃん、お菓子食べる?」


「はい、ありがとうございます」

 

会田さんはチョコを食べながら、一ノ瀬さんにもお菓子を渡す。百瀬さんとも普通に話していたし、会田さんは本当に人当たりが良い。

 

会田さんが途中で止めてくれたので大丈夫だとは思っていたが、手遅れだったらしく噂になってしまったらしい。喧嘩してから4時間ほどしかたっていないのに、噂が周るのが早すぎる。


しかも一ノ瀬さんが知っているということはもう既に3年生だけでなく2年生にも知れ渡っているということだ。


「先輩達の喧嘩の原因はあのポスターですよね?」


会田さんだけでなく一ノ瀬さんにもばれていたか。廊下で喧嘩をしていたとはいえ僕はどれだけ分かりやすいんだ。


「一応言っておきますけど、十川先輩が百瀬さんのポスターを作ったのは知ってましたからね」


「え?」


「そもそもその場に私もいましたし」


一ノ瀬さんに黙ってこっそりと作っている物だと思っていたが、どうやら堂々と作っていたらしい。

全くわけが分からないが、それなら3人の中では既に解決しているのか。


「一ノ瀬さんはそれでいいの?」


生徒会で一緒に過ごしていた神無が他の立候補者、ましてや今回の選挙で一番の敵を手伝っているのは普通に考えると許せないことのはずだ。


「ええ、何の問題も無いです。なので、とっとと仲直りしてください」


一ノ瀬さんの懐が広すぎて僕よりも年上に見える。

いや、情けなさすぎる僕が100%悪いのだけど。


3人の中で問題がないのなら僕が怒っているのは筋違いかもしれない。


「そうかもしれないけど、神無はなんで百瀬さんのポスターを作ったの?」


「そんなの本人に聞いてくださいよ」


一ノ瀬さんは呆れながらさっき会田さんからもらったチョコをモグモグと食べ始めた。


「本人に聞いてもわからなかったから一ノ瀬さんに聞いたんだけど」


一ノ瀬さんに聞くのがずるいことだとはわかっているが、このままだと神無と仲直りできる気がしない。


「十川さんは何て言ってたんですか」


「後からわかるって」

 

「何だ、もう答えてるじゃないですか。相変わらず分かりづらいですけど。でも、後からわかるから大丈夫だと私も思いますよ。まあ、ちょっとだけお手伝いしてあげます。」


クスクスと笑い、一ノ瀬さんは神無の席の方へと向かっていった。


一ノ瀬さんは神無と一言二言話し、遠くから僕と会田さんに軽く会釈をしてそのまま教室から出ていった。


一ノ瀬さんが教室から出ていくと、今度は神無が僕と会田さんの方に向かってきた。


「選挙が終わったら絶対わかる。だから機嫌直して」


色々なことが見える神無の行動はたまに理解できないことがある。

だが、神無は人を傷つけたり悪いことしないというこはわかっている。  

それなら今すぐ答えを知る必要も無いのかもしれない。


「わかった。神無のことを信じるよ」


「うん」

「僕こそ怒ってごめんね」


結局、神無がなぜ百瀬さんに協力をしたのかはわからずじまいだったが仲直りできたのは良かった。

後で一ノ瀬さんにお礼を言わないといけないな。


「じゃあ、仲直り」


それだけ言い、座っている僕にまたがり、僕のことをじっと見つめる。


「神無何してるの?」

「仲直り」


両手で僕の頬を優しく挟み込み、神無の顔が近づく。

神無がこうする時にやることは一つしかない。


「ちょっと待っ」


抵抗しようとしていた僕の唇はあっさりと奪われ教室と廊下にいた生徒からの視線が刺さる。


「神無、ここ学校なんだけど…」


「分かりやすい方がいい」


「それ神無が言うの?」


「一言余計」


「ちょっ神無これ以上は…」


そこから数分の間、神無が僕を離すことはなかった。


世界一分かりやすい仲直りによって、放課後には喧嘩しているという噂は一瞬で鎮火していた。

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