生徒会長選挙編13-11

「ご紹介に与りました。一ノ瀬麗です。皆さんが知っての通り私は生徒会役員です。現行の生徒会は去年打ち出した公約の全てを半年間で達成し、その後も生徒一人一人がより良い学校生活をおくれるように様々な計画を立てそれを達成してきました。それは私が言わずとも結果で示してきたので皆様なら理解していただけていると思います。

しかし、我々生徒会の力不足により、裏で計画していた大きなイベントの開催はできずに終わってしまいました。


私はその計画を引き継いでいきます。

この計画を引き継げるのは今年一年間生徒会の役員を努めた私だけです。


しかし、その計画だけでは私を生徒会長にする理由にはならないと思います。


そのため、現行の計画だけではなく、私自身の公約として学園の学習設備の増設なども必ず実現させます。


時間が少ないためここでは詳しい公約や現在進めている計画については説明できませんので本選挙の時に改めて説明致します。以上で私の放送演説を終わります」


「はい、2分となりました。一ノ瀬さんありがとうございます。続いて木下さん。よろしくお願いします」


一ノ瀬さんはgw中に放送演説の練習をした時と全く同じトーンで自信満々に演説をしていた。

初めから練習する必要が無いくらい上手かったが、より上手くなっている気がする。

違和感があるとすれば、練習とは全く違う内容の演説をしていたということだ。


「ねえ、進めてた大きな計画って何?」


会田さんが興味あり気に、目を輝かせている。確かにあんなことを言われたら誰でも気になる。


そしてそれは現生徒会長の僕も同じだ。


「何のことだろうね」


「えーケチ。どうせ選挙のときに一ノ瀬ちゃんが言うだろうし、こっそり教えてくれてもいいじゃん」


会田さんは僕がはぐらかしていると勘違いして、拗ねながら両手で僕の肩を揺らしているが、そんな計画は僕も知らない。


「いや、本当になんのことかわからないんだ」


「えっ?何で?」


苦笑いをする僕を見て、会田さんはキョトンとしている。普段は察しの良い会田さんでも流石にわからない様子だった。


「神無は知ってる?」


「そんな計画無い」


やはり僕の記憶力がおかしくなった訳ではなかった。進めていた計画なんて存在しない。生徒会の引き継ぎ準備はだいたい終わっているしやり残したことも特にはない。


「多分麗のハッタリ」


「多分ってことは神無も何を話すのかは知らなかったってこと?」


神無はコクりと頷き、チョコを食べ始めた。

心が読める神無が知らないということは一ノ瀬さんが事前に用意していた策では無かったということだ。


「あーなるほど。百瀬ちゃんが言っていた公約をちょっとアレンジして言ったってことね」


察しの良い会田さんは何が起きたのかを理解したようだった。

そのおかげで僕も理解できた。あの場で百瀬さんが言ったことを練習時間ゼロで一ノ瀬さんが真似をしたということか。


今思い返せば、演説で言っていた学習設備の整備という内容も百瀬さんと同じ公約だ。


百瀬さんが2カ年かけておこなうと言っていた内容が一ノ瀬さんは自分が生徒会長をやれば一年でできると言っているようなものだ。

似た内容が1年でできるなら百瀬さんを生徒会長に選ぶ必要はないことになる。



「神無、もしかして元からアドリブでやるって知ってた?」


「それは知ってた」


どうやら何を言うかはわからなかったが、百瀬さんの真似をするということは事前に決めていたようだ。


「あーだからあのポスターだったんだね」


「どういうこと?」


「『ポスターにより良い学校生活を』って書いてあったでしょ?なんか一ノ瀬ちゃんにしては面白くないなと思ってたんだよね」


「確かに」


「元から百瀬ちゃんの公約に合わせるつもりだったから、後で矛盾しないように当たり障りのないことを書いたんじゃない?」


いくら百瀬さんでも公約で『より良い学校生活を』から大きくはずれる公約を出すはずがない。


「一ノ瀬さんらしいね。でもそれなら僕とゴールデンウィーク中に練習する必要無かったんじゃ」


ポスターを作る段階でアドリブで話すことを決めていたなら、僕と練習する必要はなかっただろう。


「「はぁ」」


会田さんと神無は大きな溜め息をつく。


「せっかく神無ちゃんが気を使ってあげたのにねー」

「優、もう一回喧嘩する?」


会田さんは呆れ、神無はジト目でこちらを見ている。


「いや、ごめん。なんでもないです」


何故かはわからないがやぶ蛇をつついてしまったのはわかった。


それから昼休みが終わるまで放送演説を聞いていたが、他の立候補者で二人以上に上手い人はいなかった。



放課後になり、神無と一緒に寮に戻ると玄関にローファーが置いてあり、お客様用のスリッパが一つ無くなっていた。


「あれ誰か来てるのかな」


誰がいるのかわからなかったので食堂を覗くと、花宮さんがすごい剣幕で一ノ瀬さんを睨んでいた。


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