生徒会長選挙編13-2

綺麗に切り揃えられた前髪。

胸辺りまである長いポニーテール。

獲物を見つけたと言わんばかりの不敵な笑み。


何故かはわからないが入学式で初めて会った時から、目の前の女の子が僕にとって危険人物だと言うことがわかっていた。


「偽名と嘘のラブレターを使ってまで何の用事?」


無意識に警戒心が湧きついついきつい態度を取ってしまう。


「すみません、佐藤は中学までの苗字で、まだ慣れてなくて間違って書いてしまいました」 


「え、ごめん」


偽名ではなく旧姓。親の結婚や離婚で苗字が変わったということだろう。百瀬さんが間違えたとはいえ、デリケートな部分に触れてしまった。


「それにラブレターではないですけど入学式から気になっているのも本当ですよ。あんまり話す機会もないので、思いきって呼び出してしまったんですけど迷惑でしたか?」


確かにラブレターとは一言も言ってはいない。お洒落な手紙と呼び出しで、告白と勘違いしてしまったのは僕で百瀬さんは全く悪くない。


先程までの人を射すくめるような目付きとは全く違うシュンとした表情。


素で苗字を間違え、言葉通りただ話したいだけで僕を呼んだのならば、偽名でも嘘でもない。

もし本当にそうだとしたら、僕の最初の発言は百瀬さんに失礼すぎた。


「ごめんね。僕が勘違いしただけだったみたい」


「私も紛らわしいことをしてしまったので気にしないでください」


知らない1年生から告白をされるつもりで来たので調子は狂ったが、これは良い機会なのかもしれない。


「折角だから入学式であんな挨拶をした理由を聞いてもいい?」


「特に理由なんて無いですよ。単純に面白そうな人がいたのを喜んだだけです。わざと入試で一問落として満点の人がいるのか試したり、他にも色々やったんですけど面白そうな人はみつかりませんでしたし」


当然のように言っていたが、やろうと思えば満点を取れたということなのか。堀江学園は女子校の中では全国トップクラスだ。どれだけ頭がよければそんなことができるのだろう。


「でも、入学式で叫んでいた湊ちゃんを止めただけで僕はそんなに面白いことをしてないよね。しかも他の生徒会のメンバーは誰も喋ってといないし」


「百人以上いるところで、焦らず冷静に対応するのは中々できませんよ。それに生徒会の人達も全く動じていませんでしたし」


「そういえば、学校中の噂になってますけど十川さんと付き合ってるんですか」


もう1年生にも広まっているのか。照れ臭いからあまり自分からは言いたくはないが、今さら隠すことでも無いだろう。


「うん、付き合ってるよ」


「女の子同士で、そういうのあるんですね」


「うん、この学校だとそんなに珍しくないよ」


僕だけではなく、神無も一ノ瀬さんも頻繁に告白されている。僕も初めて堀江学園に来たときは驚いたがこの学校ではよくあることだ。


「確かにそうみたいですね。それに十川さんは可愛いから付き合いたいというのもわかる気がします。しかも外見は可愛いですけど芯があって格好良いですよね」


彼女が褒められると僕も嬉しくなる。しかも、容姿だけではなく内面を褒められているのが余計に嬉しい。


「うん、神無は格好良いね」


「しかも他の人とは違う力がありますよね」


「えっ?なんで知ってるの?」


「見ればわかりますよ」


神無の赤い瞳とは違う真っ黒な瞳。見かけは全く違うが百瀬さんも人の考えていることが見えるのだろうか。


「見ればって、百瀬さんも神無と同じ力を持っているの?」


「そうですね」


百瀬さんはあっさりと頷く。神無と神音さん以外にもそんなことができる人がいるのか。


「じゃあ僕のこともわかってるってこと?」


「ええ、もちろん」


やけに目が合うと思っていたがそういうことだったのか。

だが、それなら何故男がいると先生や生徒にばらさないのだろう。


「見えているならなんで他の人にばらさないの?」


「特にばらす意味が無いからですかね」


目線を上に向け百瀬さんは考え混んでいたが、信じられない程浅い答えを返して来た。

僕も麻痺しているが女子校に男がいるってそんなに簡単に流していい話では無いと思う。

だが、ばらす気が無いなら僕としてもそれ以上突っ込んで聞く必要も無いのかもしれない。


「ばらさないでくれてありがとう」


「いいえ、気にしないでください。そういえば、十川さんにこれを渡して貰えますか」


鞄から小さな袋を取り出して僕に渡してくる。チョコに詳しくない僕ですら知ってる超高級メーカー。

百瀬さんが神無と同じく心が読めるなら神無がチョコ好きだとしっていても何らおかしくはないだろう。


「只のチョコですし、毒とか入っていないので大丈夫ですよ。ラッピングされてますし」


「いや、そうじゃなくて高そうだなって」


「意外と庶民的ですね。この学校にも金銭感覚が狂っていない人もいるんですね」


たしかに神無や一ノ瀬さんレベルの人は流石に少ないがほとんどが医者や政治家、社長の娘ばかりだ。


「お金持ちばかりだけど、中には庶民的な人もいるよ」


「生徒会にもいますもんね」


庶民的と言われて、僕や湊ちゃんが真っ先に思い付いたが花宮さんもそれほどお金持ちの家ではないと聞いたことがある。


「うん、だから探せば結構いると思う」


「そうかもしれませんね。全然関係ないですけど伊澤さんって手綺麗ですね」


百瀬さんはプレゼントを受け取ろうとした僕の手をまじまじと見る。男ばれしないように毎日爪の手入れやケアをしているから褒められて嬉しいが、百瀬さんには男とばれているしあまり意味はない。


「ありがとう、一応気をつけているからね」


「流石ですね」


「あ、折角なのでチョコに添える手紙も渡して頂いても良いですか?」


「いいけど今から書くの?」


「はい、すぐ書くので少しだけ待ってください」


百瀬さんは鞄から便箋を取り出して、ノートを下敷き代わりにして、立ったまま器用に書き進めて行く。


「いつも、便箋を持ち歩いてるの?」


「ええ、直接話すのも好きですけど手紙で伝えるのも好きなんですよ。相手の記憶に深く刻まれるので」


百瀬さんは下を向いて手紙を書いていて表情を見ることができなかった。


「お待たせしました」


「全然待ってないよ」


1、2分で書き終わった手紙を受け取り、チョコが入っている袋の中に入れる。


「今日は色々話を聞けて楽しかったです。十川さんにもよろしくお伝えください」


「うん、わかった」


「では、失礼します」


百瀬さんは軽く会釈をして、早歩きで校舎裏を後にした。


百瀬さんだとわかった時はびっくりしたが、第一印象が悪かっただけで話してみると、ちょっと変わっているだけで性格の良さそうな女の子だった。 


神無と同じ力をもっていてあっさり男ばれしていたことは驚いたが特に言うつもりも無いみたいだったので一安心だ。選挙に出るのかどうかは聞きそびれてしまったけど出たとしても普通に正々堂々一ノ瀬さんと戦ってくれるだろう。

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