生徒会長選挙編 13-1
「選挙楽しみだね」「私はミスコンの方が楽しみかな~」
休み時間になると教室中でミスコンや選挙の話題が挙がる。
入学式から2週間が経ち来週には選挙の立候補者が出揃うので無理も無いだろう。
今日の弁当は好物のしょうが焼きなのに、ミスコンと選挙のことを考えながらだといまいち味わって食べることができない。
上の空の僕を面白がっているのか会田さんはニヤニヤしながら弁当を食べている。
「やっぱり、生徒会選挙とミスコンが気になる?」
「そりゃあ気になるよ。無関係じゃないし」
今回の選挙の大本命である一ノ瀬さんだけではなく、既に5、6人の立候補者がいる。不気味なのはあれだけ入学式で目立っていた百瀬さんが選挙に出るという情報や噂が全く無いということだ。
このまま百瀬さんが立候補せず、一ノ瀬さんが順当に勝てば僕としてもかなり気が楽だ。
もしそうなれば僕が気にしなければいけないのはミスコンだけになる。
「でも、今回の選挙はあまり面白くないかもね」
「え、そうなの?」
僕としては後任の会長が誰になるかはかなり重要だからそもそも楽しむ余裕はない。でも、他の人から見ても今回の選挙は面白くないのか。
「だって一ノ瀬ちゃんの圧勝でしょ?やってる側は大変だろうけど見てる分には接戦の方が楽しいよ」
「たしかに去年は大変だった…」
「去年も票数だけで言えば優ちゃんの圧勝だけどね。でも、いきなり4月に転校してきたダークホースだったから盛り上がったよね」
たしかに外部編入組どころか、2年生時に転校してきた人間が生徒会選挙に参加するなんて前代未聞だっただろう。
僕だって雪さんに出ろと言われていなければ絶対に立候補なんてしていなかった。
「今年は2年生で一ノ瀬さんと勝負になる人なんていないでしょ。3年生は規則で立候補できないし」
能力的には花宮さんは良い勝負になりそうだけど立候補をすることは無いだろう。
「たしかに2年生にはいないかも」
「2年生には?1年生に気になる人でもいるの?」
それから僕は入学式に参加していなかった会田さんに百瀬さんのことを話した。
「なるほどね。その子はちょっと面白いね。しかもその苗字」
「え、知り合い?」
「知り合いではないけど最近どこかで聞いたような」
「すごく珍しい苗字って訳ではないしテレビとか?」
「うーん、そうかも。まあ今年は選挙よりミスコンの方が面白そうだよね」
「ミスコンね…」
たしかに僕としてもそちらの方が気になる。
「2年は一ノ瀬ちゃんの圧勝だと思うけど他の学年はよくわからないし」
「3年は神無じゃないの?」
「おおー、のろけるね」
実際、3年生の中で一番可愛いと思うが絶対にからかわれるから言わないでおこう。
「いや、のろけとかじゃなくて2年連続取ってるから今年も神無が取るんじゃないかなって」
「素直に僕の彼女が一番可愛いって言えばいいのに」
誤魔化したつもりだったのに結局からかわれてしまった。
もし神無がミスコンの1位をとれずに湊ちゃんが1位だった場合は僕達は別れなければならない。それだけは何としても避けないといけない。
「何かあったの?」
神無が1位を取れなかった時のことを考えて、青ざめてしまった僕を会田さんが心配してくれる。
先ほどまで僕をからかっていたのに異変があるとすぐに心配してくれる会田さんは本当に優しい。
「実は…」
それから、会田さんの優しさに甘えて神無と湊ちゃんの賭けの話をした。
「なんでミスコンで勝負しちゃったの?」
「いや、なんか成り行きで…」
そもそも神無にとってはこんな賭けを受ける必要が無いから了承しないでほしかった。
「一応神無ちゃんを確実に勝たせる方法はあるけど…」
「え、何?教えて」
「これはちょっとね。優ちゃんはやるって言っても十川ちゃんは怒りそうだし」
歯切れも悪く僕と目を合わせてくれない。細かいことを気にしない会田さんらしくない。
「そんなにまずい方法なの?」
「まずいと言うか誰も得しない」
「神無と別れずに済むなら僕は得してると思うけど」
「うーん、じゃあ今日の放課後寮に行っていい?」
ここでは話せないようなことなのだろう。寮なら僕の部屋で誰にも聞かれないし安心だ。
「うん。でも、ちょっと待っててもらってもいい?放課後呼び出されていて」
今日の朝、下駄箱に手紙が入っていた。おそらく告白だろう。
「付き合ってから減ったと思ったけどまだ普通にあるんだね」
「うん、多分1年生だから僕が付き合ってるのを知らないんじゃないのかな?」
「入学式で一目惚れとかかな。じゃあ学校で待たずに先に寮に行ってるよ。他の寮生とも話したいし」
「わかった」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
放課後になり、呼び出された校舎裏に向かう。
色々な人の告白を断っている場所だから本来はあまり来たい所ではない。
丁寧に封蝋で閉じられた白い封筒。中に入っていた手紙はあんずの花があしらわれていて、大人っぽさを感じる達筆な文字。
手紙には『入学式の時に初めて見てから伊澤さんのことをついつい目でおってしまいます。今日の放課後に思いを伝えたいので校舎裏に来て欲しいです。佐藤』と書いてある。
これだけ細部にまで手間をかけているならイタズラということはないだろう。
指定された場所に着くと、既にポニーテールの女性が立っていた。
後ろを向いていて顔はわからないが、おそらく佐藤さんだろう。
そもそも僕は佐藤さんの顔を知らないから確認は必要だ。
「佐藤さんだよね?」
僕の声に反応して振り向いた女の子は不敵な笑みを浮かべる。
「佐藤では無いですけど、呼び出したのは私ですよ」
綺麗に切り揃えられた前髪と真っ黒な瞳。
目の前の人物が佐藤さんではないことはすぐにわかった。
「…入学式以来だね。百瀬さん」
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