新入生編12-9

今、中学の時に告白しておけば良かったって言った気がしたが気のせいだよね。だって僕が男子校に通っていて、モテないことを散々湊ちゃんに馬鹿にされていたし、気があるわけがない。


「もう、いいや」


一言だけ呟き、何かを決心したかのように急にベッドから立ち上がり僕の正面にくる。


「えっ?」 


僕の両肩を掴み、座っていたベッドに押し倒し、湊ちゃんが僕に馬乗りをしてくる。


「湊ちゃん、何やってるの?」


湊ちゃんの長い髪が僕の体に当たるほど近づかれてしまった。


「はぐらかそうとしてたから。こうしたら逃げられないでしょ」


深呼吸をして、覚悟を決めたかの様に口を開く。


「好き。彼女と別れて私と付き合って」


明らかに冗談ではないことが真剣な表情を見ただけでわかってしまう。

やはり先程のは聞き間違いではなかった。湊ちゃんは本当に僕のことが好きなのだろう。

聡が電話で言いかけていたのはこのことだったのか。


今思えば湊ちゃんは僕のことを好きだから男が女子校にいるのを受け入れたということなのだろう。


気づかなかったとはいえ、惚れた弱味に漬け込んでしまっていたのか。自分でも嫌気がさす程の最低な行為だ。たが最低なのはわかってるけどこれだけは言わなければならない。


「ごめん、それはできない」


お互いに一切目を反らすことはなく気持ちを伝え合う。

僕のブラウスを掴み、小刻みに震えている。

こんな悲しそうな表情の湊ちゃんを本当は見たくない。だが本気の告白を断ったのは僕自身なのだから、僕が目を反らすことは許されないだろう。


「私のこと嫌い?」 


「嫌いな訳ないよ。でも今は神無のことが大切なんだ」


「じゃあもし彼女と付き合ってなかったら付き合ってくれた?」


「…」


今まで湊ちゃんのことは妹の様な存在だと思っていた。ましてや恋愛感情で見たことなど一度もない。

だが、一回振ってこれ以上傷つけることなどできない。どう言ったら言いのか


「彼女がいても良いから付き合って」


「いや、それは駄目だよ」


ガチャ


「優、開けるよ」


湊ちゃんがとんでもないことを言ったと思ったら、ドアが開かれた音と同時に神無らしき声が聞こえた。


押し倒されていて見えないが今のが神無だとまずい。変な誤解を与えかねない。頼むから幻聴であってくれ。


「寮で浮気ってすごい度胸ですね」


今度は怒気を帯びた低い声で一ノ瀬さんが呟く。

近づく足音だけが聞こえ、僕の司会にも神無、一ノ瀬さん、宮森さんの姿が目に入った。ああ、もう絶対に幻覚ではない。


「神無、違うからね。ほらっ、僕の目を見て」


一見、振られてもおかしくない状況だが神無なら僕の目を見ればすぐに読み取ってくれるはずだ。


「有罪」

「あれ!?」


読み取られたにも関わらず有罪判決が出た。


「湊、優に乱暴しちゃ駄目」


「告白はしましたけど乱暴はしてないです」


僕に乗ったまま湊ちゃんは神無と会話を始めた。この体制は情けないからそろそろおりてほしい。


「告白は知ってる。馬乗りは駄目」


「えっ!?聞いてたんですか?」


「見ればわかる」


「何ですかそれ!?全然意味わからないです」


わざとなのかと言うくらい、相変わらず神無の説明はわかりづらい。僕や一ノ瀬さんは知っているが神無の目のことを知らない湊ちゃんにとっては訳がわからないだろう。


「優に馬乗りしていいのは私だけ」


「むぅ」


「痛っ」


神無の言葉に嫉妬なのか怒ったのかはわからないが下にいる僕に湊ちゃんの全体重がのしかかる。


たしかに神無と二人の時に何回かされたことはあるけど、はずかしいから他の人に言わないでほしい。


「神無ちゃんはずるい。優くんを独り占めしないで」


「彼女なんだから当然。それに優とは絶対に別れない」


恐らくさっき僕に言った時と同じように神無にも別れてほしいと言うつもりだったのだろう。


「また、私の考えていること…何でわかるの?」


「見ればわかる」


「だからどういうこと!?」


神無の説明の下手さと湊ちゃんの奔放さのせいでもう収集がつかない。


「と、とりあえずご飯にしませんか?五條さんも帰ってきましたし」


「「わかった」」


神無と湊ちゃんは渋々納得し一階に降りていった。


宮森さんの助け船でこの場はなんとか納まったが生きた心地がしなかった。


「皆さん遅いですよ。もう何枚か焼き上がってるので食べてください」


食堂に戻ると、紺色のエプロンをして器用にお好み焼きを焼き続ける花宮さんと既に何枚か食べ終わってる五條さんがいた。


席に着いてお好み焼きを食べ始めたが誰も一言も発することなく重苦しい空気だけが流れ、ホットプレートの音だけが鳴り響く。美味しいであろうお好み焼きも味を感じられない。


「空気悪いっすね。なんかあったんすか」


五條さんが全く空気を読まずに切り込んできた。


結局、僕が男だということは伏せて今日あったことを全て説明した。


「なるほど、なるほど。つまり優さんをめぐって二人が言い争ってるってことっすね。何かで勝負して決めればいいんじゃないっすか?」


たしかに勝負という形にすれば後腐れはなさそうだけど神無が勝負を受ける必要が全くない。


「いいよ」「いいですね!」


「えっ?神無、なんで受けるの?」


「優は、黙ってて」  


「はい…」


「じゃあお互いに何がいいっすか?」


五條さんが問答無用です話を進めていく。


「絵」「短距離走」


「全く違いますね」


神無はインドア、湊ちゃんは体育会系だから合う訳がない。


「ならミスコンの票数で競うのはどうですか?二人とも可愛いですし」


「いいよ」「いいですよ!」


宮森さんが意味不明な勝負内容を提案したがあっさり承認された。


「ミスコンって票数出たっけ?」


「1位しか票はでないですけどどっちも1位じゃないってことはさすがに無いと思いますよ。片方が1位だったら無条件で1位の勝ち。どちらも1位なら票数でいいんじゃないですか?」


「それでいいです。私が勝ったら優くんとは別れて」


「わかった」


湊ちゃんがはルールに了承し、神無もあっさり認めた。


「いや、わからないで。神無、もし負けたとしても別れないからね?」


「十川先輩は勝ったらどうするんですか?」


「お願いだから、無視しないで」


花宮さんが僕の情けない発言を完全に無視して神無の要求を聞く。


「湊は勉強を優に頼らない。あとボディタッチも禁止」


「なんでさっき優くんと話したことも筒抜けなんですか」


「見ればわかる」


「だからそれじゃあ、全然わかんないんですよ!」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


湊ちゃんと一ノ瀬さんが帰宅した後も片付けが残っていたので寮生は全員食堂に残っていた。


「神無、何で勝負受けたの?」


「受けないとずっと言ってきそうだから」


「それはそうかもしれないけど」


「大丈夫。勝つから」


普段やる気を出さない神無とは思えないほど闘志が溢れでていた。

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