新入生編12-8

安西湊。僕の親友の妹。

小学校の頃からよく一緒に遊んでいて中学から男子校に通っていた僕にとっては唯一の女友達。

よくゲームをしたり、勉強を教えたりしていた。


「優くんと話がしたくて恭ちゃんについて来ちゃいました!」


恭ちゃん?ああ、宮森さんのことか。たったの一日で宮森さんと仲良くなったのか。湊ちゃんは本当に誰とでも仲良くなれるな。


「久しぶり湊ちゃん。髪伸びたね」


「うん、ほとんど切らないで伸ばしてたからね~」


前からロングだったが去年に会った時よりもさらに長くなり、より綺麗になった栗色の髪。


意外とロングヘアよりもショートの方が手入れが大変だとは聞くがこの長さになると流石に大変そうだと思ってしまう。


あまりにも突然過ぎてついつい現実逃避してしまったが今は髪のことなんてどうでも良い。


心の準備どころか何を話すのかも整理ができていない。どう対処すれば良いか全く思い付かない。


「湊ちゃん。説明するからちょっと来て」


「えっ」


有無を言わさずに湊ちゃんの手をとり、2階にある僕の部屋に向かう。


とりあえず男性恐怖症の宮森さんの前で僕のことを話す訳にはいかないから仕方がない。

だが、あまりにも強引すぎた。

部屋に入りようやく冷静さをとり戻したが、無理矢理自分の部屋に女の子を連れ込んでしまった。


絵面だけ見ると普通に逮捕されてもおかしくないだろう。


「ここが優くんの部屋?」


僕の焦りとは裏腹に湊ちゃんは部屋を見渡し楽しそうにしている。

一年ぶりにあったがこういうところは全く変わらない。


男の部屋に連れ込まれたというのに、無防備で危なっかしさがある。


まあ、湊ちゃんとは聡の家に行ったときによく遊んでいたから男というよりお兄ちゃんのように思われているのかもしれない。


「うん。去年からずっとこの部屋だね」


「そっかぁ」


湊ちゃんは適当な相づちを打ちながら僕のベッドに腰掛ける。


ポンポンとベッドを叩き横に座るように促して来たので横に座る。

自分のベッドだから何もやましいことはないが思わずドキッとしてしまう。


「じゃあそろそろ説明して?なんで女子校にいるの?」


「うん、実は…」


それから5分ほどでこの学校に転校した理由を説明した。


「だいたいこんな感じなんだけど…」


「うーん、納得できるようなできないような」


僕自身もなぜ女子校にいるのか、いや居続けることができているかはわかっていない。


母さんと理事長がアホだからという理由しか考えられないが、この学校に普通に通ってる僕が一番ヤバい気がする。


「でも、まあいっか。そのおかげで久しぶりに同じ学校に通えるわけだし」


確かに僕と聡は中学から男子校に行ったので小学生ぶりというのは間違いない。


だがそんな理由で男が女子校に通っていることをまあいっかで片付けて良いのだろうか。


聡は話せば納得してくれると言っていたけど本当にそうなるとは思ってもいなかった。


「さと兄は知ってるの?」


「うん」


「さと兄には言ってたのに私には教えてくれなかったんだね」


怒っているというよりも哀しいそうに呟く。


「ごめんね。聡には女子校って知らずにこの学校に行くことを伝えたから。女子校って知ってからはバレるのが怖くて誰にも言えなかったんだ」


「うーん、じゃあ埋め合わせしてくれたら許してあげる」


「うん、僕に出来ることなら何でもするよ」


今何でもと言ってしまった。どんどん人に弱味を握られていっている気がする。


「じゃあ前みたいに勉強教えてよ」


想像していた中で一番優しいお願いだった。湊ちゃんの学力は心配だったし丁度良いだろう。


「うん、そんなことでいいなら全然いいよ」


「ありがとー!」


機嫌が治ったのか満面の笑みで抱きついてくる。相変わらず距離が近くてドキッとしてしまう。


「そういえば、学校では君付けじゃなくてさん付けで呼んでもらってもいいかな。あと一応上級生だから学校で会ったときは敬語で話してほしい」


「絶対嫌」


機嫌が良いうちにお願いしようと思って聞いてみたが、また不機嫌になってしまった。


最近は会っていなかったとはいえずっと慣れている呼び名を変えるのは気がひけるのかな。


僕が男だと黙っていてくれるなら君付けで呼ばれるのも仕方がないのかもしれない。


それで他の人に疑われたとしてもそのくらいは許容しなければいけないだろう。


「嫌ならそのままでいいや」


「だって優くんって呼んでるの私だけなんだもん。特別感っていうか…」


「湊ちゃんってそういうの好きだよね。宮森さんのことも、あだ名でよんでいたし」


宮森さんへの呼び方と違い、僕のは名前に君を付けただけだか女友達がいない僕のことを君付けで呼ぶのは湊ちゃんだけだった。


「他の人のはそうだけど…馬鹿。そんなんだから優くんは彼女出来ないんだよ?」


何を間違ったのかわからないが、からかわれてしまった。


湊ちゃんにはよく彼女がいないことをからかわれていたが、今は彼女がいる。


アピールしたい訳ではないが、学校中の人が知っていることだし今さら隠す必要もないだろう。


「いや、実は半年くらい前に彼女できた」


「は?優くん、正座して」


顔は笑っているのに目が笑っていない。

普段笑っている人ほど怒ると恐い。

特に湊ちゃんは喜怒哀楽がはっきりしているので怒らせると歯止めが効かなくなる。


「はい」


思わず反射的に正座をしてしまった。


「この学校の人?」


「はい」


「優くんは彼女作るために女子校にきたのかな?」


断じてそんなことはないが選択肢を間違えると大変なことになる気がする。


「そういう訳じゃないよ。この学校に来て何回も告白されたけど全部断ってたし」


「だいたいなんで女の子の格好しているのに告白されるの!?」


「それは僕にもわからない」


神無と僕は付き合っているとみんなにバレているから告白する人は減ったが一ノ瀬さんはよく告白されている。もうこの学校だからとしか言いようがない気がする。


「じゃあ彼女にも告白されて付き合ったの?」


「うん。でも神無には最初からバレてたから他の人のとはちょっと違うかも」


「神無…名前で呼んでる…」


小さい声で呟いていて聞き取ることができないが怒りと哀しみの感情で何かを言ったということはわかった。


「彼女ってどんな人?」


「うーん、優しくて可愛いけどちょっと変わってる女の子かな。さっき食堂にいた長い銀髪の子だけどわかる?」


「あのお人形さんみたいな人?入学式にもいたけど生徒会の人なの?」


「うん、よく覚えてたね」


「そりゃあ、わかるよ。あんな可愛い人初めて見たもん。やっぱり可愛い子と付き合いたくて来たんじゃ」


「いや、違うから」


「こんなことならやっぱり中学の時に告白しておけば。ってあっ…」


「えっ」


お互いの目が合い、僕達がいる部屋には時計の音だけが静かに鳴り響いた。

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