新入生編12-7

入学式が終わり生徒会のメンバーは寮の食堂に集まっていた。


別に誰かが話し合いをしようといった訳ではない。暗黙の了解というやつで全員が早急に話し合う必要があると思ったということだ。


元々入学式は午前中で終わるので寮生全員で昼御飯を食べることにはなっていた。そのため、単に一ノ瀬さんが寮に遊びに来てご飯を食べることになっただけとも言える。


五條さんは自主練でランニング、宮森さんは入学式後の説明会でまだ帰ってきてないが、二人とももう少しで帰ってくるだろう。


花宮さんの案でお好み焼きになり、僕と手分けして料理をすることになった。


「葵、私は何をすれば良い?」


「麗ちゃんはお皿とホットプレートを出してもらってもいい?十川先輩も麗ちゃんを手伝ってもらってもいいですか?


多分麗ちゃんだけだとホットプレートの場所とかわからないと思うので」


「「私も料理する(したい)」」


 神無と一ノ瀬さんがハモり花宮さんはため息をつく。


「十川先輩に料理を教えてたら夜ご飯になっちゃいます。麗ちゃんは台所にたっちゃ駄目。おとなしく私と伊澤先輩に任せて」


「え、神無はともかく一ノ瀬さんも?」


「ともかく…」


神無は僕の背中をポカポカ叩きながら静かに不満を露にしている。


バレンタインの時に作ってもらったチョコを食べたけど神無の料理が下手だということはわかる。

神無には申し訳ないけど、寮生全員が食べるものは僕と花宮さんが作った方が良いだろう。


「でも十川さんの料理は形にはなってますよ。麗ちゃんのはそんなレベルじゃないです」


「大げさすぎ。たしかに、料理はちょっと苦手だけどそんなにひどくない」


「調理実習の時に電子レンジを壊したり米を洗剤で洗ったり…」


「葵、やりたいってもう言わないから伊澤先輩の前でそれ以上言わないで」


今のやり取りだけで一ノ瀬さんの料理のひどさがわかってしまった。


結局、当初の予定通り僕と花宮さんの二人でお好み焼きの準備をした。


「後は五條さんと宮森さんが帰ってきてからでいいね」


「はい、食堂に戻りましょう」


準備が終わり神無と一ノ瀬さんが待っている食堂の方に向かう。


「五條先輩達が来る前に解決しておいた方がいいと思うんですけど、あの人は何なんですか?」


生徒会のメンバーが全員集まった所で花宮さんが話を切り出した。


「誰のこと?」


「そんなの百瀬さんのことに決まってますよ」


どちらのことかと思ったが、やっぱり百瀬さんのことだよね。

僕の中では湊ちゃんにバレていたことの方が問題だけど、百瀬さんのインパクトが強すぎた。


だが、そのおかげで式にいた人は湊ちゃんが僕を君づけで呼んだことなど誰も気にしていない様子だった。


だが、明日湊ちゃんのところに行って事情を説明しなければいけないだろう。湊ちゃんの兄で僕の親友である総が言うにはバレても話せばなんとかなると言っていたけど不安しかない。


「優、湊のことは大丈夫。今は心のことだけ考えて」


神無が当たり前のように僕の考えていることを読み取る。


神無からするとすでに男だとバレている湊ちゃんよりも百瀬さんのほうが問題があるということなのだろうか。


僕は神無に第三者が考えていることを聞かないようにしている。


それでも、神無が忠告するということは百瀬さんの考えていることに何か問題があるということだろう。


「うん、そうするよ」


「花宮さん、百瀬さんのことは僕にもわかんないよ。初めて会ったんだし」


百瀬さんのことは全然知らないが今日の挨拶の内容がアドリブだということは僕でもわかった。


百瀬さんも挨拶の内容は事前に先生に提出して許可を貰っているはずだ。


百瀬さんのあの内容で先生の許可がでる訳がない。


「でもかなり独特な人ですね。最初から多分アドリブですよ」


一ノ瀬さんが当たり前のように驚きの発言をする。


「え、でも最初は式辞用紙見てなかった?」


「あれは見てるフリだと思いますよ。だって先輩と時候の挨拶が全く同じだったじゃないですか」


「たまたま被っただけじゃない?何百個も種類があるわけではないし」


「それはないと思います。先生に事前に提出してますよね?被っていたら多分伊澤先輩が直すように言われると思います」


たしかに、僕も事前に提出しているし被っている場合はどちらかに指摘が入るはずだ。おそらく修正するなら生徒会長で話し慣れている僕の方に直してくれという指摘がはいるだろう。


「でも僕の挨拶を暗記して一字一句話したってこと?そんなことできるの?」


「覚えようとすればできるんじゃないですか?」


たしかに、覚えようと思えばできるのかもしれないが、そもそもやる意味がわからない。


「できたとしてもなんでそんなことするの?」


「気まぐれというか、気がつく人がいたら面白いなくらいの感じだと思いますよ」


「そういえば百瀬さんは伊澤先輩だけではなく生徒会にも興味があると言ってましたよね。何かしてくるんですかね」


「何かしてくるって言ってもあと1ヶ月しかないよ?始業式意外に生徒会が生徒の前にでる仕事はもうないし」


「多分外部入学組で5月までって知らなかったんじゃないですかね?」


たしかに、堀江学園の生徒会は一年間任期があるので、この時期に交代になるが他の学校だともう少し遅くなる気がする。


「でもオブザーバーの件を知ったら百瀬さんが生徒会長に立候補するんじゃ」


「「「…」」」


オブザーバーとは前年度の会長が生徒会の手伝いをするという規則で僕の前の生徒会長である雪さんもやってくれていた。


「三年生は生徒会に誘えませんけど伊澤先輩はオブザーバーで残ります。それに副会長も強制ではないですけど準オブザーバーみたいな感じでいますよね」


「たしかに雪さんだけじゃなく神埼さんも生徒会の業務を教えてくれていたね」


「つまり、百瀬さんが生徒会長になって私と麗ちゃんを役員に選べば擬似的に今の生徒会のメンバーを全員集めることができます」


「原理的にはできるけどまさかそんなことはしないでしょ」


「「「……」」」


再び沈黙がながれた。


「まあ関係ないですよ。葵と恭歌にはもう言いましたけど、私が生徒会長になりますから」


「え?そうなの?」


一ノ瀬さんが百瀬さんに負けるイメージがわかない。いや誰が相手でも、一ノ瀬さんが勝つだろう。


「一ノ瀬さんが立候補するなら大丈夫だね」


「当然です。伊澤先輩も練習に付き合ってくださいね」


「うん、もちろん」


一ノ瀬さんが立候補するならとりあえず生徒会の方は安心だろう。


百瀬さんの僕に対する興味は、まあ時間がたてばなくなるんじゃないかな。


「ただいま帰りました」


「お帰り、宮森さん」


丁度百瀬さんのことについて一段落ついたところで宮森さんが帰ってきた。


「友達も連れて来ちゃったんですけど大丈夫ですか?」


「うん、大丈夫だよ。お好み焼きも多分作りすぎたから」


「ありがとうございます。寮の前に待たせているので呼んできますね」


「こんにちは、安西湊です!」


一番のトラブルメーカーであろう百瀬さんの対策が練られたところで、宮森さんが二人目のトラブルメーカーを連れてきた。

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