新入生編12-5
前回に引き続き宮森恭歌視点になります。
昨日は色々なことがあったせいで布団に入ってすぐに眠ることができた。
外はまだ薄暗く、実家から持ってきたデジタル時計は6:00を示している。
2度寝することができるくらい時間もあるがぐっすり眠れたおかげでその必要もないくらい元気になった。
昨日は美和さんに髪、伊澤さんにはメイクをしてもらったけどこれからのことを考えると、自分で出来ないと全く意味がない。
本当はご飯を食べてから化粧をしたほうがいいけど、朝食の時間は決まっている。
ご飯を食べてから準備をして焦りたくないし、しばらくは朝食のまえに化粧をするようにしようかな。
化粧をする前に顔を洗わないといけないので自分の部屋から出て一階の洗面所に向かうとすでに顔を洗っている女性がいた。
「おはようございます。伊澤さん」
「おはよう。随分早いね」
タオルで顔をふき私に挨拶をしてくれる。まさに水も滴る良い女。伊澤さんのこんな姿は付き合っている人でも中々見れないだろう。まあ伊澤さんの彼女の十川さんは寮に住んでいるからいつでも見れそうではあるけど。
「はい、思ったより早く起きてしまったので。伊澤さんって素っぴんも綺麗なんですね」
伊澤さんは何かに気づいたのか慌てて顔の半分を隠す。
「うーん、ありがとう」
どこか不服そうな顔で伊澤さんにお礼を言われた。もしかして素っぴんには自信がないのかな。本当に綺麗だったしもっと見たかったのに。
「先輩っていつもこんなに早いんですか?」
「いつもよりは早いかな。入学式の在校生挨拶をするから僕は他の生徒会の人より早めに行って練習するし。それに自分の準備を早めに終わらせておけば宮森さんの化粧の手伝いもできると思って。」
「昨日あんなに教えてもらったのに今日もやってくれるつもりだったんですか?」
「流石に一回教えて後は自分でやっては無責任だから。それに今日は新入生が主役なんだから今できる一番可愛い姿で行ってほしいかなって」
名は体を表すという言葉がぴったりな優しい人。
少女漫画に出てくる理想の彼氏みたいな人。
男が伊澤さんみたいな人だったら私も蕁麻疹が出ないかもしれないのに。
「ありがとうございます。自分でやってみます。変だったら直してもらえますか?」
「わかった。それが良いかもね」
それから少しだけ伊澤さんと話をした後、顔を洗って最初の予定通り自分の部屋で化粧をすることにした。
化粧をして初めてわかったけど、世の女性は毎日こんなに面倒くさいことをしていたのか。私はそんなに面倒臭がりという訳ではないけどこれを毎日しているのは素直に尊敬してしまう。
30分ほどかかりなんとか化粧は終わった。
だけど終わったと呼ぶには完成度が低すぎる。全体的に濃いのに何故かぼんやりとしている。
化粧をしてない時よりはましな気がするが、その程度のできだ。伊澤さんがやってくれた化粧とは雲泥の差がある。
特に目の化粧が全然上手くいかない。
自分なりには頑張ったけどこれ以上は悪化することはあっても良くなることは無いような気がしてならない。
でもこんな状況で伊澤さんにやってもらうのはほとんど丸投げに近い気がする。だけど直してもらうなら時間的にも早目に頼んだほうが良いしどうすれば…
コンコン
私が葛藤しているとドアがノックされる。
ドアを開けると先ほどと違いフルメイクの伊澤さんが立っていた。
「伊澤さん‥‥」
「化粧の方はどう?」
タイミングが良すぎる。やっぱりできる女は空気が読めるのかな。
「すみません、やってはみたんですけど全然駄目で…」
「いや、十分上手いよ。宮森さんは器用だね」
「そんなこと無いです。麗さんや伊澤さんに比べたら…」
「小さい時から仕事をしている一ノ瀬さんや一年間毎日化粧をしている僕と比べる必要はないよ。もし比べるとしても昨日の自分と比べてあげて」
伊澤さんの優しい笑顔は『そうすれば自信がつくでしょ』と言葉にしていないのに伝わってくる。
「はい。ありがとうございます」
「うん、実際お世辞とかじゃなくて上手いしね。目以外は直す必要ないと思う」
結局、朝食の時間になるギリギリまで伊澤さんに化粧をしてもらった。
その後花宮さんに手伝ってもらって髪のセットもして、昨日の私史上最高の顔に限りなく近い姿で学校に到着することができた。
まだ、このネガティブの性格を治せている訳ではないけど、見た目が綺麗になっただけで自信が漲ってくる。
学校に入ると1年生のクラス表が目に付く。自分の名前を探すと一組の欄に名前があった。
「1年生だよね?何組?」
私がクラス表を見ていると後ろから声がする。振り向くと明らかに私に話しかけている女の子が立っていた。
胸くらいまである栗色の綺麗な髪。麗さんを大人びた綺麗さと表現するなら、この人は高校生らしい可愛さ。どの学校でもカースト最上位にいそうな感じの雰囲気がある。
まさに私が一番苦手な陽キャを具現化したような女の子だ。
「一組ですけど…」
「じゃあ私と同じだね。名前なんていうの?」
「宮森恭歌です」
「じゃあ恭ちゃんだね。私は安西 湊。湊でもあんちゃんでも呼びたいように呼んでね~」
あまりの明るさに学校に入って5分で心が折れかけた。本当に私はこの学校で高校生活を送ることができるのだろうか。
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