新入生編12-4
美和さんは職人のような動きで、何の躊躇もなく髪にハサミを入れる。
さらに、手を一切休めないまま、髪のケアのやり方などを細かく説明してくれている。
しかし、折角丁寧に教えてくれているにも関わらず動きの美しさに魅了され、話が耳を通り抜けていく。
「今説明したことは東雲さんがメモしてくれているからまたあとで確認してみてね」
完全に見とれていたのがばれていたらしい。
美和さんが東雲さんの方を見ると、東雲さんはこちらに近づき先程まで使っていたタブレットをこちらに見せてくれる。
タブレットを確認すると、美和さんが先ほど説明してくれたことがすべて要点別にまとめられていた。
「あ、ありがとうございます。」
速記レベルの速さでどうやったらこんなに綺麗にまとめることかできるんだろう。
「凄いよね。この人めちゃくちゃ仕事できるの。私も最初見たとき驚いたわ」
「麗様にいつも鍛えられていますから」
「そんなにこき使ってないでしょう」
雑誌を見ていた麗さんは溜め息をつきながら苦笑する。
「とりあえずカットはこんな感じでいいかしら」
「凄く綺麗です。自分の髪じゃないみたい」
「良かった。ここからトリートメントをするからもう少し綺麗になるわ」
それから30分ほどでトリートメントをしてもらい遂に完成した。
全体的に艶があり、毛先にいくにつれて軽く内側に巻かれている。美和さんが言うには内巻きロブという髪型らしい。
間違いなく私史上一番綺麗な髪に仕上がっている。一流のプロがやるとここまで綺麗になるものなの?
「ドライヤーをかけるときに気をつけて軽くアイロンをつけるだけだから普段の学校でも楽にできるんじゃないかな。高校頑張ってね」
「はい、頑張ります。」
席を立ち会計をしてもらおうとすると美和さんは何故かレジではなく玄関のドアを開けた。
「あれ、会計は‥‥」
「お代はもう麗ちゃんに貰ってるの」
「え、麗さん。それは申し訳ないです」
「いいの、私なりの入学祝い」
かっこいい…
デートでご飯を食べていていつの間にか会計が終わっている時と同じようなかっこ良さを感じる。まあ、デートなんて一回もしたことないけど。
「ありがとうございます!」
堀江学園に入学できて本当に良かった。憧れのモデルの麗さんにここまで面倒を見てもらえるなんて夢みたい。今日だけでも頑張ってこの学校に入った甲斐があった気がする。
行きと同じく東雲さんの運転で寮に戻るとぐったりした伊澤さんと元気そうな十川さん、初めて合う女の人の三人が食堂にいた。
「おかえり…」
「伊澤さん。大丈夫ですか?この3時間くらいで何があったんてすか」
「ちょっとね…」
「それに比べて十川さんは元気そうですね」
「うん、満足した」
さっき説教するって言っていたし、かなり怒られたのかな。
「伊澤先輩、これからメイクしてもらいますけど準備はいいですか?」
麗さんは伊澤さんのことを心配しつつも早速化粧をさせようとする。この状態の伊澤さんに頼んでしまってもいいのかな?
「ごめん、5分待って…」
「あれ、一ノ瀬さんじゃないっすか。横の可愛い子はもしかして今日入った人っすか?2年の五條皐月。バレー部の副部長やってます!」
「五條先輩、それだと私と同級生になってしまいますよ」
「あ、間違いました。私が3年ってなんかイメージがないっすね」
底無しに明るい、自己紹介がなくても間違いなく運動部とわかる先輩だ。それよりも私が可愛い?薄々私も感じていたけど髪のおかげでかなり良くなったのかもしれない。
それから、少し休憩して、伊澤さんに化粧をしてもらうことになった。
伊澤さんは慣れた手つきで化粧下地、ファンデーションを塗っていく。
「とりあえず僕の好きなようにやってみてもいい?」
「はい、お願いします」
それから15分程かけて、手際よく化粧をしていった。
「できた。宮森さんは綺麗な奥二重だからアイライナーは全体的に細めに引いて目尻だけは少しだけ太めにしたけどどうかな?」
「可愛い…」
伊澤さんから鏡を受け取り、自分の顔を見ると別人がそこにいた。
先程カットしてもらった髪も合わさり思わず自画自賛してしまう程可愛く見える。
今までこの奥二重はコンプレックスでしかなかったのにむしろチャームポイントのようにすら感じる。
「伊澤先輩ってこんなメイクもできたんですね」
感心するように麗さんが私の顔をまじまじと見る。
「前に全然別の化粧を一ノ瀬さんの前でやった時にボロクソ言われたから、悔しくて色々勉強した」
「初めて私の前で化粧した時のことですね。あれは伊澤先輩似合っていなかっただけで、化粧自体は充分良かったんですけどね。伊澤先輩って意外と凝り性ですよね」
「伊澤さんってなんでこんなに化粧が上手なんですか?」
「うーん、練習したからかな?前の学校では化粧なんてしたことなかったから」
「じゃあまだ化粧をはじめてから一年くらいしか経ってないんですね」
凄い。たった一年でここまでできるものなの?
伊澤さんみたいに人の化粧ができるレベルまでにはなれなくても、私でも自分に合う化粧だけなら頑張って練習すればマスターできるかもしれない。
「伊澤さん、この化粧を教えてもらえませんか」
「もちろんいいよ。でも他のパターンもやろうと思ってたけどこれで良いの?」
「はい、とりあえず1つだけでも早くできるようにしたいので」
「そっか。じゃあ教えるね」
それから2時間程、伊澤さんにメイクを教わり私にとっての激動の1日が幕を閉じた。
麗さんと伊澤さんにはここまでやって貰ったんだから絶対に高校デビューを失敗しないようにしないといけないと心に誓った。
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