新入生編12-3

麗様に言われるがままに、外に出たがどこに行くのだろう。


「宮森様、どうぞこちらに」


「は、はい。よろしくお願いします」


運転手の綺麗な女性が車の前に立ち、私が近づくとドアを開けてくれた。


歩いていくとは思っていなかったけど、こんな黒塗りの高級車で行くとは聞いていない。


私の家もそこまで貧乏な訳ではないが、こんなお嬢様みたいな対応をされたのは生まれて初めてだ。


私がカルチャーショックを受けている間に、いつのまにか発進していた。


「麗様、これからどちらに行くんですか」


「私の行き付けの美容室よ。それよりも麗様って呼び方やめてくれない?」


たしかに私の髪はボサボサで手入れもあまりできていなかった。私の身だしなみの改造と言うならたしかにまずは美容室に行くのが当然なのかもしれない。


麗様の行き付けの店に行けるのは嬉しいけど財布の中にそんなにお金あったかな。


いや、そんなことは今はどうでもいい。


麗様を下の名前で呼んでいたことを怒られてしまった。初対面で名前を呼んだのはやはり失礼すぎたのだろう。


「すみません。一ノ瀬様」


「いや、そうじゃなくてね。様付けじゃなくて先輩とかさん付けで良いってことなのだけど。それに私は名字で呼ばれるより名前の方が好き」


本当に良かった。もし嫌われてたとしたら入学式の前から不登校になっていたかもしれない。


「麗さん」


「ええ、それでいいわ。私は恭歌と呼ばせてもらうから」


「ありがとうございます。まさか麗さんが私のことを名前で呼んでくださるなんて。


でも、お嬢様学校では敬愛している先輩のことを様付けで呼ぶんじゃないんですか?」


「あなた、女子校に夢持ちすぎ。そんな人いな…いや結構いるかも。先輩達のファンクラブの人達は様付けで呼んでいたわ」


少女漫画の知識だけど間違っていなかった。やっぱり女子高って凄い。


「ま、まあそういう人もいるけど、それ以外は多分共学と変わらないと思う」


「ファンクラブがある時点で結構違うと思いますよ。それにミスコンとかあるんですよね。麗さん達が来る前に、花宮さんに十川さんと麗さんが優勝したと聞きましたよ」


「ええ、でもあれは只の人気投票みたいなものだから。本当は同じ日にやる生徒会選挙の方が重要なのにミスコンの方が圧倒的に目立ってるわね。まあ、今年は私が生徒会長選挙に出るからそっちも注目してね」


「麗さんも出るんですね。絶対投票します」


「ありがとう。でも、私よりも凄い人が出てきたらそっちに投票してもいいからね」


「そんなことありえませんよ」


「意外なライバルが出たりするのが選挙なの。今の生徒会長の伊澤先輩は2年生から転校してきて2カ月後に生徒会長になっていたし」


「初めてみたときに綺麗でかっこいい先輩だとは思いましたけど、そんなにすごい人だったんですね」


「ええ。生徒会長になってからもしっかり仕事をこなしていたし、優しくて誰からも好かれてて、本当にすごい先輩ね」


楽しそうに伊澤さんのことを話す麗さんは雑誌で見る大人っぽい顔とは別人に見える。でもこっちの麗さんの方がより綺麗に見えるのは何故だろう。


それから、十川さんや花宮さんの話をしたあと、私の話になった。


「そういえば中学は何故共学にしたの?小学生の時から蕁麻疹がでていたなら中学から女子校の方がよかったんじゃ」


「お父さんが、共学にいれば男がたくさんいるから荒療治で治るだろうと言って女子高に通わせてくれなかったんです。でも、高校はどうしても女子高に通いたかったので、お父さんを説得するために頑張って勉強して特待生を取って入学しました」


「中々、根性あるわね。私はそういうの好きよ」


「えへへ、ありがとうございます」


「あ、着いたわ。ここが私の行き付けの美容室」


店内は暖かみのある茶色を基調にしていて、お客さんが安らげる空間を追求しつくしている。でも逆にこういう雰囲気のところに入ったことがないから安らぎよりも緊張が勝ってしまう。


オシャレすぎて一人では絶対に入れない類いの美容室だ。


「いらっしゃい。麗ちゃん」


店に入ると綺麗なロングヘアーの女性が案内をしてくれる。


「美和さん、急にすみません」


「いいえ、丁度閉めるところでお客さんもいなかったから大丈夫よ。それに私もこういう子は応援したくなるし」


「ありがとうございます」


「あなたが後輩ちゃんね。お名前は?」


「はい、宮森恭歌です」


「恭歌ちゃんね。今日はよろしくね」


「よ、よろしくお願いします」


「そんなに緊張しなくていいのよ。どんな髪型にしましょうか?」


しまった。麗さんと話すのが楽しすぎてどんな髪型にしてもらうか考えていなかった。


「ええっとすみません。あまり考えていなくて…」


「全然大丈夫よ。ヘアカタログ見て決めましょう」


ヘアカタログを見ながら色々説明してもらったがどれも自分に似合うか不安で決めることができない。


「意外とショートヘアの方がケアが大変だから最初はロブくらいがいいんじゃないかしら」


「でもロブだと今の長さとほとんど変わりませんけど…」


「大丈夫、短くするだけが美容師の仕事じゃないから。別人に変えてあげる」


美和さんは優しく微笑み、私の髪にはさみを入れ始める。


元が良い人は整えたら綺麗になるけど、私なんかが綺麗になれるのかな…




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