新入生編12-1

今日は入学式の前日。


日曜日ということもあり、先ほどまで一ノ瀬さんとモデルの撮影をしていた。

かなり時間が押してしまったがなんとか撮影は終わり仕様人の東雲さんが運転してくれる車の方に向かう。


「お疲れ様です。麗様はあと10分程で戻られますので少々お待ち頂けますか」


「はい、わかりました。その間ちょっと電話してきてもいいですか?」


「はい、もちろんです」


撮影をしている時に聡から「見たら連絡くれ」というライソが来ていたから、寮に帰る前に電話ができてよかった。車に荷物を置き、少し離れて聡に通話をする。


聡とはたまに電話をするがいつもは急に電話をかけて来る。それなのに今日はわざわざライソを入れてくる辺りに、何か違和感を感じる。


「もしもし、どうしたの?」


「いや、なんとなく話したくてな。女子校はどうよ」


僕の思い過ごしだったのか、特に用事は無さそうだ。


「毎日ヒヤヒヤしてるけど最近は結構楽しいよ」


「そうか、それなら安心したわ。俺といた時はめんどいとかだるいとかが口癖でいつもつまらなそうだったからな」


「まあね」


「本当に楽しそうだな。彼女でもできたか?」


「‥‥」


「まじかよ。いつからだ?」


沈黙は正解と言っているようなものだったらしくあっさりバレてしまった。


「10月」


「半年近く前じゃねえか。たまに通話してんだからもっとはやく言えよ」


「照れくさくて」


「写真とかねえの?」


「あるけど見せない」


「なんでだよ」


「惚れられても嫌だし」


「惚気んな。そんな可愛いのか」


「うん。今まであったことがある女の子の中で一番可愛い」


「だから惚気んなって」


「そっちが聞いてきたんでしょ」


「まあ、そうだが。そういえば俺ってお前の女装姿見たこと無かったよな。彼女の写真はまた今度でも良いからお前の写真送ってくれよ」


「は?キモ」


聡からの突然の気持ち悪い発言に思わず骨髄反射で言葉が出てしまった。だが冷静に考えるといつもの聡とはどこか違う気がする。


「聡、何かあったよね?」


「やっぱり誤魔化せないか。本題を話していいか」


「うん、なんかあったんだね」


「その前にお前の女装写真を送ってくれ。できるだけ学校での格好に近いやつ」


「まじで気持ち悪いんだけど」


「いや、そういうのじゃなくてな。真面目に頼む」


「はぁ、送ったらちゃんと説明してね」


「ああ、悪いな」


何故僕の女装写真が関係あるのかはわからないがとりあえず卒業式の時に生徒会で撮った写真を僕のところだけ切り取って送る。


「かなり可愛いな」

「送らなきゃ良かった。いい加減に言わないと電話切るけど」


「いや、すまん。化粧して制服着てる姿が普通に可愛くてつい。でも別人って感じじゃないな」


「それはそうでしょ。整形とかしてるわけではないんだし」


「だよな。どう考えても昔からの知り合いがみたらお前だって気づくな」


何かを決心したかのような深い溜め息をつき話し出す。


「湊がおまえの学校に行く」


安西湊。聡の妹で今年高1になるはずだ。


「は?行くってどういう」

「入学するって意味だ‥」


「なんで止めてくれなかったの!?」


「しょうがないだろ。受験するまで知らなかったんだよ。それに受けるってわかった後も、どうせ落ちると思ってたからお前には言わなかったんだ」


たしかに湊ちゃんはお世辞にも頭が良いとは言えなかった気がする。


「だいたい聡の家から通えないよね。なんでわざわざ堀江なの?」


「制服が可愛いかららしいぞ」


「は?そんなどうでもいい理由でこんな遠くまで来るの?」


たしかに堀江の制服はシンプルで可愛いとは思うけどわざわざそれだけの理由で来るものなのか。


「まあ俺ら男にはよくわかんない世界だよな。当然家から通えないから寮に住むってよ」


「寮ってまさか‥‥」


「安心しろって。多分おまえのとこじゃない。大きい寮に入った方が人脈つくれるからいいぞって入れ知恵をしておいたから。おまえのところ一人部屋みたいだしそんなに人数多くないだろ?」


「うん。一人卒業したから4人だね。今日1年生が来るらしいからまた5人になるけど」


「なら絶対大丈夫だな。あいつは馬鹿で素直だから言われたことを真に受ける。学年も違うし学校で目立たなければなんとか誤魔化せるかもしれない」


「目立たないのは厳しいかも。5月までは生徒会長だし入学式でも僕が話すし」


「そうだった。お前生徒会長だったな。だいたいなんで偽名で入らなかったんだよ」


「そんな犯罪できないよ」


「女子校にいる時点で犯罪だろ。似たような顔で同じ名前、同じ声のやつに会ったら流石に気づいちまうぞ」


「だよね‥‥」


「まああいつが気づいたら正直に言ってやれよ。多分それで丸く収まる」


「僕もちょっと感覚がマヒしてきてるけど男が女子校にいるってそんなに簡単に受け入れられることじゃないでしょ」


「いや、あいつなら多分大丈夫だ。だって‥‥」


コツコツ


一ノ瀬さんのヒールの音が駐車場に鳴り響き目が合った。

一ノ瀬さんは指で先に車に言ってますとジェスチャーを送り、車のほうに向かっていく。


「ごめん、時間きちゃった。一時間後くらいになっちゃうけどまたかけ直す?」


「いや、特に大丈夫だ。それに今日は湊と学校で急に会ったらビビると思って電話かけただけだしな。女装姿見て完全に別人に見えるなら言わないつもりだったけどな」


「そっかありがと。また何かあったら電話するよ」




「ああ、わかった」


電話を切り、一ノ瀬さんと東雲さんが待つ車に乗る。


「ごめん、お待たせ」

「十川先輩にお電話ですか?」


「いや、友達だけど」

「相変わらずモテますね」


少し待たせてしまったからなのか、一ノ瀬さんの機嫌が悪い気がする。


「男だよ」

「男にもモテますね」

「からかわないで」

「冗談です」


全然怒っていないどころかむしろ機嫌が良さそうになった。相変わらず女の子の機嫌はよくわからない。


「でも、先輩が男の友達と話してるのは珍しいですね」


「普段は寮の部屋でしかしないからね。さっきのは急用っぽかったから、電話しただけだし」


「何かあったんですか?」

「実は‥‥」


聡と話したことを全部説明すると、一ノ瀬さんは終始苦笑いでこちらを見ていた。


「それは流石にばれるんじゃないですか」


「うん、僕もそう思う。でも聡が言うにはばれてもちゃんと説明すれば大丈夫らしい」


「あーなるほど‥‥その子とは仲が良かったんですか?」


「たまに聡の家に行った時に勉強教えたり一緒にゲームをしたりはしてたかな」


「結構仲良さそうですね。それならもしばれても説得できるかも知れないですね。そういえば今日って寮に新入生が一人来るんですよね?」


「うん、18時に来るって言ってたね」


「すみません、撮影が押してしまって」


「いや、全然大丈夫だよ。遅れると思って姉さんには連絡しておいたし」


現在は19時半。もうとっくに来ているとは思うけど僕が去年入った時も雪さんと五條さんはいなかったし特に問題はないだろう。


「それなら良かったです。でもその新入生ってもしかして‥‥」


「僕も一瞬そう思ったけど聡が根回しをしてくれたらしいから多分大丈夫」


「そうなんですね。じゃあ私もちょっと寮にお邪魔してもいいですか?寮にはたまに遊びに行きますし、どんな人が入ったのか気になります」


「うん、もちろんいいよ」


それから30分ほどで寮に着き、一ノ瀬さんと一緒に食堂の方に向かう。食堂には姉さん、花宮さん、神無の他に初めて会う女の子が座っていた。

一目で聡の妹ではないと確信できてかなり安心した。


肩まであるやや長い黒髪。赤いフレームの眼鏡を掛けていて、一言で表すと地味という言葉がよく似合う様な女の子だった。


「ただいま。この子が新入生?」


「はい、宮森 恭歌です。よろしくお願いします」


「3年の伊澤 優です。よろしくね」


「「あれ?」」

僕達が握手をしているのを後ろで見ていた花宮さんと神無が何故か戸惑っていた。


「どうしたの?」


「いえ、何でもないです。十川先輩も何でもないですよね」


「うん」


僕、何か変なことしたのかな?


「遅くなってごめんね。ちょっと用事があって。寮生ではないけど折角だからよく寮に来るこの人も紹介しておくよ。2年生の一ノ瀬麗さん」


「麗様!?」


一ノ瀬さんを見た瞬間、宮森さんが大声をあげた。一ノ瀬さんを見て驚いているが、見た目でおとなしそうな人だと思っていたので、僕と一ノ瀬さんのほうが驚いてしまった。


「ええ、一ノ瀬麗だけど」


「私、麗様と弥月君の大ファンなんです。麗様のSNSは毎日見てます!そういえば伊澤さんって弥月君に凄く似てますね。

でも、私が握手して大丈夫ってことは本人ではないですね」


「どういうこと?」


似てるも何もモデルの弥月は僕なんだけど何故か勝手に誤解してくれようとしている。


「私、男性に触れたり近づくと蕁麻疹が出るんです」


なるほど。だから僕が弥月ではないって思ったのか。あれ‥‥?僕って男だよね?

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