球技大会10-7(十川神無視点)

伊織とゆっくり話すために人気のない体育館裏に来た。

じめじめしてあまり好きなところではないが、秘密の話をする分にはこれ以上良いところはないだろう。


「十川ちゃん、こんなところに連れ出してどうしたの?もしかして優ちゃんに抱きついたこと怒ってる?でもそれは女の子同士のスキンシップだよ」


伊織は明らかにわかっているのに首を横に傾げてしらばっくれている。


『優ちゃんが男だってことしかないけど一応聞いてみようかな』


案の定、目を見ると完全になぜ呼ばれたのかを理解していた。


「女の子同士じゃない」


「ありゃ、やっぱり優ちゃんが男だってことだよね。なんで私が気づいたってわかったの?」


私の言葉で逃げ切れないと悟ったのか、伊織はあっさりと白状した。

私には目を見ればわかるから白状してもしなくても関係は無いんだけど。

一応優の男バレの件を口封じ、もとい言わないように説得しないといけないから、私の目のことはばらした方がいいかな。


「目を見ればわかる」


「え?十川ちゃんってメンタリストとかなの?」


案の定、全然信じてもらえてない。

やっぱり見せないといけないかな。


「証拠を見せる」


伊織の目をじっと凝視して優に抱きついた時のことを振り替える。完璧に再現できているかは微妙だけどだいたいニュアンスが合っていれば良いだろう。


「抱きつけば胸でわかると思ってたけどよくわかんないや。でもこの汗の匂いは他の女の子と全然違う。絶対男の子」


「え、え、え、ちょっと待って」


なるべく伊織のテンションに寄せた方がいいかなと思っていつもより高い声で話す。

伊織は目を泳がせ、明らかに気が動転している。でも私の能力が嘘じゃないことを示すにはもう少し言った方が説得力があるかな。


「優ちゃんの匂い好き。はぁ、はぁ、このまま抱きついていたい」


「ごめん、信じるから!私が悪かったからもう止めて」


膝から崩れ落ち、今にも泣きそうになっている。

それから3分ほど沈黙が続いたがようやく伊織の口が開かれた。


「私匂いフェチなの…気持ち悪いでしょ」


「別に」



伊織にとって匂いフェチは誰にもバレたくない事なのにごめんね。


「そんなわけないよ。こんなの変だって私でも思うもん」


「本当に思ってない。それに変っていうなら私の目の方が変」


「十川ちゃん…」


相手の隠していることを全部勝手に見てしまう私にとっては匂いフェチなんて全然可愛いものだ。人によっては口に出さないだけでもっと歪んだ考えを持っている人なんていくらでもいる。


「それにフェロモン撒き散らす優が悪い」


「いや、それは流石に優ちゃんが可哀想だよ」


でも実際優は良い匂いがするし。


「できればなんだけど匂いフェチの件は、他の人には言わないでほしいんだけど…」


「当然。優にも言わない」


「ありがと」


私が今やったことは、鍵がしまっている家に勝手に入ったみたいなことだ。こっちが謝ることはあっても、礼を言われるのはお門違いだ。



「でも、私の心が読めてるならわざわざ匂いフェチっていう弱味を握らなくても、私が優ちゃんのことをばらさないってのはわかってたんじゃないの?」


「うん、でも不安だったから一応」


「不安?気が変わって私がばらしちゃうかもってこと?」


「違う。また伊織のマネするね」

「え?」


「優ちゃんに男だって知ったことを言ったら何かお願い聞いてくれるかな。ハグとか、一回くらいならキスとかでも…」


「うっ」


「キスは許さない」


「いや、それは違うの。ちょっとした下心っていうかなんていうか…すみませんでした!」


伊織とは匂いフェチのことを誰にも言わない代わりに、優が男だって言うことを絶対言わないという約束をして別れた。


結局球技大会はバスケとバレーで優勝した私たちのクラスが優勝して幕を閉じた。

球技大会が終わり、いつも通り優と寮に帰っているが、優は気まずそうにして中々切り出せない様子だ。


優はまだ抱きつかれたことと全校生徒の前でウィッグが外れたことを私が怒ってると思っている。間違いではないけど。


「伊織に男だってバレた」


「えっ、何で!?いやウィッグが外れた姿を近くで見られたから?それとも抱きつかれた時に胸パットがバレた?心当たりがありすぎる…」


「全部違う」


たしかにウィッグがばれたことで確信にはなったみたいだけど、匂いでずっと前から疑ってはいたみたいだからいずれこうなっていたと思う。


「え、じゃあどこでバレたの?」


伊織の匂いフェチは誰にも言わないと約束したし、なんて言えば良いかな。


「優が撒き散らすから」


「何を!?」


「これ以上は言えない。でも伊織はばらさないって」


「え、そうなの?」


優はばらされないことで安堵したのか、ばれた理由の方は完全に思考から外れたようだった。


「うん」


「ありがとう、神無が頼んでくれたの?」


「うん、伊織にもお礼言って」

「わかった。明日直接お礼するよ」


伊織には本当に感謝してる。普通だったら匂いフェチと男バレなんて全然釣り合ってない。それでも隠してくれているのは、本当に優のことが好きだということだ。

私からは伊織にお礼できることはなにもないけど優なら伊織が欲しいお礼ができる。本当は嫌だけど仕方がない…


「伊織にハグまでは許す…」

「どういうこと!?」


これからも優は男バレするかも知れない。


でも誰にでも優しい優なら男バレしてもなんとか学校生活を送って行ける気がする。

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