球技大会10-6(十川神無視点)
優はお人好しで天然の女たらし。
生徒会長になってからは特にそれが酷い。
面倒臭がりなのに優しいから困ってる人は放っておけない。そのせいで最近はこれまで以上にモテる。
彼女がいるのにモテているのは問題だけど、一番の問題は本人に自覚がないということ。
優はこの学校では女の子として生活をしているから「友達としての好意だよ」とか「気のせいだよ」とか言っているが、目を見ただけで相手の思考がわかってしまう私にはそれが恋愛感情だということが、わかってしまう。
男だとバレなければ恋愛感情を抱かれることはないと思っているみたいだけど女の子同士で付き合う人もこの学校だと結構いるし性別はあまり関係ないということにそろそろ気づいてほしい。
それに、優は頼まれたら手を抜かずに全力でやるから、目立つのが好きじゃないのに自然と目立ってしまう。
運動の時は特にそれが顕著でバスケもバレーもみんなの目が優に釘付けになっていた。
特にバレーはそこまで得意じゃないって言ってたのに放課後の特訓のおかげですごく上手くなっている。
もう少しで始まるバスケの決勝も多分本気でやるから絶対みんなに注目される。あまり彼氏がモテている光景を見たくはないけど私も格好良い優を見たいから試合は凄く楽しみにしてる。
私が他の人みたいに普通の目を持っていれば純粋に優の姿だけを見ていられるのに。
他人の感情や隠したい癖(へき)を勝手に見てしまうこの目は昔から大嫌いだった。
でもこの目のおかげで、優が男ばれしていないこともすぐわかって安心することができるから、最近は悪いことばかりではないと思えるようになった。
「十川ちゃんボーッとしてるけど大丈夫?」
「穂希(ほまれ)。考えごとしてただけ」
体育館のギャラリーで優達の試合前の練習を見てたら穂希に声をかけられた。
「一緒に見てもいい?」
「うん」
「じゃああっちで見よっか。私、放送委員で鍵持ってるから貸し切りだしね。窓があるから試合も見れるし特等席だよ」
穂希は鍵をくるくる回しながら、体育館の放送室を指差す。
私も人混みは苦手だから静かな場所で見れるのは助かる。
この学校の生徒で優が男の子だということを知っているのは、私、麗、葵、朱音、雪の5人だけだと優は思っている。
でも、実はもう一人いる。今目の前にいる会田穂希だ。
穂希は優とクラスで一番仲の良い友達で、昼御飯を毎日一緒に食べている。
今日の穂希は球技大会ということもあり白いシュシュで長い髪の毛を束ねている。
文化祭の劇の時に私と優の衣装を作ってくれた時からわかっていたけど、穂希は服飾関係全般に詳しい。
その影響なのかファッションセンスも良く、いつもお洒落で可愛い。
なんで優の周りにはこんなに可愛い女の子ばかりなんだろう。
優のことを男だって気づいたきっかけは、衣装の採寸の時や試着の時に骨格や体つきを見て優のことを男だと勘づいたらしい。
優も胸や股関などは見られないようにかなり気を付けてはいるが、穂希に言わせればそれ以外の所も男と女で大きく違うから誤魔化すのは厳しいみたい。
しかも、穂希は服だけではなくて装飾品にも詳しいらしく、普段の優がウィッグを着けていることや、逆に劇では何も着けずに舞台に立っていたことを見抜いていた。
でも、文化祭から何ヵ月も経っているのに穂希が誰かに言う素振りは無い。だから私も今まで聞かなかったけど他の人に聞かれないところで二人で話す機会なんてあまりないし、今聞いてみよう。ちょっとオブラートに包んで…
「穂希はなんでばらさないの?」
「突然だね。優ちゃんのことだよね」
全然包めてなかった。でも言いたいことは伝わったらしく苦笑いを浮かべている。
「よく気づいたね」
「見たらわかる」
「そっか。十川ちゃんはすごいね」
「穂希の方がすごい。優すら穂希が気づいてることを知らない」
「あ、やっぱりそうなんだ。それなら良かった。別に私がばらさないのは特に大きな理由はないよ。ばらしたらこの学校からいなくなっちゃうでしょ?それはちょっとつまらないかなって。私の貴重な男友達だしね。ばらしてこの関係が崩れちゃうのはちょっと嫌だなって」
「そっか、ありがとう」
「お礼を言われることじゃないよ」
穂希は髪を手でいじりながら照れくさそうに笑う。
でも、ばらさないでいてくれているのは本当に助かるし、何かお礼できることは無いかな?
「私と優にしてもらいたいことある?一個だけ何でもする」
「えっ今何でもって言った?」
急に先程までのやや重い空気は消え、私の肩をガシッと掴まれた。
「う、うん」
「じゃあお言葉に甘えようかな!実は十川ちゃんと伊澤ちゃんに着てもらいたい服がたくさんあってね~」
そこからはスマホでゴスロリやアニメのコスプレの服を見せられ続けた。
私のやつは何でも良かったので適当に選んで、優のやつはじっくり選んでたらいつの間にか試合の始まりを知らすブザーが鳴った。
「始まっちゃったか~。優ちゃんに着せる服はまた二人で選ぼっか」
「うん」
試合が始まり、案の定優に注目が集まる。両チームにバスケ部の人達がいるのにやっぱり一番注目されていた。
「おおーやっぱり上手だね」
「うん」
そこから試合が進み1クォーターが終わりそうなところで相手のラフプレーで優の頭に相手の手が思い切り当たり、ウィッグが落ちた。
「あらら、これは不味いんじゃない?」
「馬鹿…」
せっかく穂希も内緒にしてくれているのに全校生徒の前でウィッグが外れたらもうどうしようもない…
あれ、でもみんなにはばれてない?
ここから目が見える人の感情を全部見ても優のことは心配しているけど男だと勘繰る人はいない。
1人を除いてはだけど。
元々女の子っぽい顔立ちで本当に良かった。
優もそれに気づいたのか大きな声でウィッグをしていた理由を適当に作って誤魔化していた。
「無理やり誤魔化してるけどこれで効果あるの?」
「意外とある。というかただのボーイッシュな女の子としか見られてない」
「それは伊澤ちゃん的にはどうなんだろうね」
「ばれてないなら何でも良い」
「神無ちゃん的にはそうだよね」
結局試合は2クォーター目からウィッグのことを気にせずフルパワーでプレイをした優の活躍もあってうちのクラスが勝利した。
「私は優に説教してくる。それに…」
「誰かにばれちゃった?」
「うん、一人だけ」
「それは不味いね。私みたいに黙っているのは珍しいと思うし」
「多分大丈夫だけど変なことをしそう」
「変なこと?」
「うん」
「良くわからないけど頑張って」
慌てている私の表情を汲み取ってくれたのか、特に引き留めずに手を振って送り出してくれた。
「うん」
それだけ行って放送室のドアを閉めた。
急いで優の所に行くと既に伊織が、優に抱きついた後だった。
遅かった…
抱きつかれたのを私に見られて優が焦っているが今はそれどころではない。
優には寮で説教をするとしてまず伊織をなんとかしないといけない。
伊織を体育館に連れ出して、体育館裏の人気の無い所に行くことにした。
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